俺の中の"何か"が揺れる。
体育祭編4話目です。
今回登場した人物ーーー真鍋君については覚えておいてもらえると嬉しいです。
彼はこの体育祭編で大事なキャラとなります。
俺はその担任からの問いをどう答えて良いのか分からなかった。
俺たちの関係性ーーーそれは……。
「ただの知り合いです」
結局、俺の考えはそれに至った。
今の俺たちの関係性はそれ以上でもそれ以下でもない。
それに対する先生の反応は、
「お前さっき知らないつったろ〜、嘘つきやがったなあ〜ー」
そう言いながら、ケケケと笑った。
俺は、そんな先生から視線を逸らし、奥の方で何人もの教師に囲まれている神倉先輩を見る。
(なにを話してんだろ……)
けれど、今の俺は取り敢えず、この職員室から退出することを最優先とした。
「じゃあ、俺が体育祭実行委員ってことでも良いんで……これで今日は失礼します」
「分かった。じゃ、頼んだぞ〜? 実行委員」
そんなからかうような笑みを浮かべた担任に一礼し、俺は職員室を出た。
窓の外を見れば、まだまだ明るく空は青いままだった。
と、俺が空を眺めながら憂いていると。
「ーーうっせぇよ!」
そんな声が聞こえて来た。
第1体育館側からやって来たその人達は、見るからに部活動を頑張ってますよな格好だった。
(うわぁ……絶対関わりたくねえ。逃げよ)
俺はその人達が来た逆方向に逃げることにした。
非リアで陰キャ、さらには部活動も何もしていない俺にとって、部活の集団はこれ以上ない程に恐ろしい存在なのだ。
「だから、この前のアレは違えんだって!」
「はぁ〜? お前、高橋とデートしてたろぉ?」
(チッ、うざいなこの会話……)
思わず心の中で舌打ちをしてしまった。
しかしそれもこれも、このバカでかい声で話す会話が悪い。
まじこの、『リア充なんだぜ俺』的な会話は控えて欲しい。
(ま、俺には関係ないし……教室帰ろ)
そんな風に考えながら、鞄を取りに教室に向かって歩き始めたその時ーーー。
「あっれー? 真鍋じゃーん」
……とても聞き覚えのある声を聞いた。
同じ声をよく聞いていた。何回も同じ声を聞いた。
ーーーけれど、俺が聞いていた声とは明らかにどこか違っていた。
「おっ、美里じゃん。どしたん? って、あー……そういやお前、体育祭の実行委員長になったんだっけか」
「えへへー、まあそうだねー。でも、部活も普段通り頑張りますからっ」
「おう、当たり前だな」
「言ったなコイツ」
そうして周囲からは笑い声が上がる。
そんな中、俺は全く笑えていなかった。
先程教室に向かって歩み始めた筈の足は、とっくに歩みを止めてしまっている。
何だろうか、この変な気持ちは。
きっとこれは、俺が本来持ってはいけない類の気持ちだ。
それなのにーーー。
俺は自分に腹が立った。
自分が酷く気持ち悪かった。
俺が、俺なんかが持ったら心底おこがましい様な感情。気持ち。
それをたった、たったーーー神倉先輩が俺と話す時とは違うテンションで、声音で話しているというだけだというのに。
そんな当たり前の事実を目の当たりにしただけで。
こんなにも、俺の心の奥で"何か"が揺れるのだ。




