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それは彼女の独白

神倉先輩視点です。

この話を読んだ後に、今までの話を振り返って見て頂ければ新たな見方をしてもらえると思います。


神倉美里17歳、高校2年生。

私はずっと一人だった。ずっとずっとずっと昔から。苦しい時も辛い時もずっと一人だった……。




ーーー突然ですが、私はモテます。


本当に突然なのですが、私は昔から色々な男の人に好意を持たれていました。

何となくその気持ちに気づき始めたのは多分他の子よりも少し早かったです。


様々な人から好意を持たれました。気持ちの良い好意もありました。気持ち悪い好意もありました。

……そしてそれから段々と異変を感じていきました。きっと早くから好意に気付いたせいで、"好意"というものに敏感になってしまったのでしょう。


周りにいる男の子たちの好意はまだまだマシでした。彼等は純粋で素直な好意だったからです。

しかし、私を見る周囲の大人たちの視線は明らかに違っていました。何だか言葉には出来ないけれど、とにかく粘着質な、気持ち悪い感じがしました。



これだけで私は"男"というものを信用出来なくなって来ていました。そして大人という存在も。ですが、私にはまだ残された、本当に純粋な愛を与えてくれる人たちがいました。


ーー両親です。


本当にこの二人の娘で良かったと、当時人間不信に陥り始めていた私にそう思わせてくれたのです。

ですが、不幸というのは突然やってくるもので。


ーーある日、母が亡くなりました。


詳細は省きますが、幼い私には相当辛く、色々なモノが崩壊していく音がしました。

……いいえ、幼い私では無くても。今の私でもきっと泣いてしまうくらい辛いでしょう。なら幼い私には尚更辛いものがありました。


そこからです、私の『自己』がグラグラと安定しなくなり危うくなり始めたのは。


こういう場合、母を亡くしたばかりの父も辛い筈ですが、だからこそ残った娘こそはーーと思うと思います。


ですが、私の父は逆でした。

母が亡くなった悲しさを私に押し付けて来たのです。父は色々と忙しい人で元々家にあまり居ない人間でしたが、尚更家に居なくなりました。


そのくせ、私には厳しい事ばかりを強いる様になりました。勉強、部活、友人関係、先生との関係性……とにかく様々な事をです。


母を失ったばかりの悲しさや喪失感。それらだけでも抱えきれないというのにそれに加えて私に圧力を掛けて機会があれば直ぐに怒鳴ってくる父。

もう限界でした。ですが、私にはまだ微かな希望が残っていたのです。……もしかしたら、また優しい父に戻ってくれるのでは? という微かな希望が。


そうして、その本当に少ない希望を持ちながら私はギリギリの所で生活してました。

ですがある時見てしまったのです。


あれは、珍しく父が帰ってきた日でした。

私は夜中、トイレに行きたくなり下の階に行きました。するとどこからか声が聞こえてきたのです。


掠れた、そんな声を。


私は行ってはならない気がしましたが、行ってしまいました。


すると、私はその光景を見てしまいました。


ーーー父が知らない女性を家に連れ込んでいたのです。



もう分かりませんでした。何がどうなっているのか。頭は混乱している筈なのに何処か冷静な自分がいて、だけれど心臓の動悸は異常に早い。


とにかく私はフラフラとその場を立ち去りました。


翌日起きるともう父もその女性もいませんでした。今思えばわざわざ私のいる家に連れ込む必要なんて無かったと思います。もしかすると父は私に……何て考えをついついしてしまう事も私は嫌でした。


ですがこの時、私はもう分かっていました。

あんなに好きだった母はこの世にいない。それを悲しんでいた優しい父は今はもういない。昔自分に愛をくれていた両親はもういない。


ーーーそうか、ずっと前から私は独りだったのか。


そう悟ってからは簡単でした。

私は自分を上手く扱える様になったのです。

それまでの不安定な"自我"を"自己"を、見せかけの自分に変えてみせました。

そうすると周りからの評判も高くなりました。


それからは怖いものなんてありませんでした。

いえ、厳密にいうと……無くなったのです。

だってーー誰にも何にも期待をしなくなったから。



そうしてどんどん私は自分という存在を、新たな嘘で塗りたくっては固めていきました。すると前にあった辛さはもう無く、何だか心地良さまで覚えていきました。


元にあった自分など、既に分からない状態でした。もはやそんなモノは無くなったと思っていました。

だって周りの男から下劣な目で見られても、何にも感じなくなったし、周りの男子達にも何も感じなくなった。



これで私はもう怖いものなんて無いんだ。

だからもう二度と辛い思いなんてしなくて済むーーーそう思っていました。



ですが……


ある日私は男の人に襲われました。今思えば捕まった時の私は余りに無抵抗だったと思います。なんたってその時の私の気持ちは


ーーああ、そうか。私はこれからこの人に襲われるのか。


と、やけに冷静で冷めていたからです。そしてそれと同時に、恐怖も悲しみも感じない自分に嫌気がさしていました。



しかしーーー今まで固めた嘘は本当の恐怖の前では崩されると知りました。




どんどん私を追い詰めてくる男。

それに段々と湧き上がってくる恐怖。

そして私は気付いた時には声を上げていました。


嫌だ! 怖い! 逃げたい!


ですが時は遅く、もう逃げられなどしませんでした。その時ーーー現れたのです。私のヒーローが。


普通の高校生。普通の男の子。でも、私には輝いて見えました。


そうして、私はその男の子を好きになったのです。

どこが好きなのかと聞かれれば曖昧な答えしか出来そうに無い男の子を、たまたま私を助けてくれただけの男の子を、私は好きになってしまったのです。



人に愛を貰う事ばかりを考えていた私に、今度は愛をあげようと思わせてくれた彼を。



そうして一見リア充女子高校生な、だけど実はめちゃくちゃ重い女である私の片想いは始まったのです。





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