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それは突然の出来事

出来るだけ早くに投稿します

 太陽が落ち始め、空が暗闇に染まっていく。

 ねっとりとした暑さが段々と涼しくなってくる時間帯。

 そんな、夕暮れ時の頃のこと。


 俺は学校からの帰り道を自転車で颯爽と走っていた。

 小テストの結果が悪く、長時間居残りをさせられていた俺は、やっとのことの帰宅だった。

 

 (ん、なんだろう……?)


 遅くなった俺は、いつもとは違う帰り道を走っていた。

 電気の明かりが全くない、夜に歩くには少し怖いような場所だった。周りの民家は、誰も住んでいない様なボロい家ばかりな上に電灯の明かりも無い。

 畑や、ボロい家、それと少しの木々があるだけ。


 そんな通りを軽く怯えながら走っていた俺は、とある異変に気付く。

 何やら、女の人の叫び声のようなモノが聞こえてきたのだ。



 (この、声は……一体……)


 なるべく気にしないように心掛ける。

 面倒な事件にでも巻き込まれたら大変だ。

 やっぱり、我が身が一番大事だからな……うん。


 なんて思っている時だったーーー暗く、ハッキリとは良く見えなかったが、畑の奥の方で揉めあっている様な人影が二つ見えた。


 (こんな時間に……揉めあっている……? 人影が二つで、女の叫び声…………これはヤバイな)


 俺は一瞬で状況を理解する。

 俺はその場でチャリを急停止させると、ガッチャンと止めることすらせずに適当に放り投げて畑の奥の方へ駆け出した。

 俺の勝手な推測であってほしい。どうか当たってないでほしい。そう願いながら俺は、全力疾走した。

 


 ーーーこういう時は余り関わらない方が良いのは重々承知していたが、嫌な予感がしたのだからしょうがない。

 

 

 (くそっ、やっぱりか……っ!)

 

 畑の奥の方へ近づく程…………叫び声が鮮明に聞こえてくる。

 

 “やめで……離して、くださいっ!”“うるせんだよっ、黙って大人しくしとけやっ!!”“ん、んんん~んん! んっ!!”


 そんな叫び声が、会話が聞こえてくる。

 普段の俺なら、自分に被害が無いか、危険は無いか、自分のメリットはなんだ、と考えているところだっただろうが、生憎そんな余裕は今の俺には存在しなかった。


 近くにいくとより鮮明に見えた。そしてそこには衣服が乱れ必死に泣き叫んでいる女の人と、女の人の顔面を殴っている男がいた。


 「だれがぁ、だ、だずっ~ーーーん、んん~ーーー!」


 「うるせぇんだよ!誰かにバレたらめんどくせぇじゃねえか!まあ、こんな場所に来るやつなんていねぇだろうがよぉ?ギャハハハ」


 「ん!んんん~ーーー!んぅぅんん!」


 「うるせえって言ってんだろ!!」

 

 バキッという音が聞こえた瞬間ーーー俺は走りながら背負っていたリュックを手に取った。そして。

 

 女の人に襲っていた男目掛けてリュックをぶん投げた。

 男に見事に命中したらしく、男はグヘ、と言いながら転んだ。



 「そこでなにやってんだよ!?」


 男に対して俺は問いかける。

 いや、この場合は問いかけてなどいないのだが。


 すると、俺に返事を返したのは、意外にも男ではなく女の人の方だった。

 女の人は掠れた、酷く弱りきった声音で叫んだ。



 「だずげてっ……くだざい! おね、がい、じばずっ!!」

 

 

 俺は答えなかった。

 答えているくらいなら、男に蹴りをいれたかったから。

 正直、一対一で大人に勝てる自信は無い。

 とはいえ、速効勝負ならーーー



 俺は未だ起きずに倒れている男の顔面に蹴りを入れる。

 


 「いっーぱーつ!」


 うぅっ! と男が唸る。



 男の顔面に蹴りを入れる。



 「にぃーはーつっ!」


 うぁぁっ! と男が叫ぶ。



 「これで~、ラ、ス、ト、だ、ろっ!!」


 その言葉と共に、男の股関辺りに蹴りをぶちこんだ。


 うぁぁぁぁあぅぁぁあ!! と男は発狂し、気絶した。


 

 まさか、ここまで一方的になるとは……。

 色々と運に助けられたし、男の抵抗が案外少なくて驚いた。っていうか上手くいきすぎだな。


 (まあ、いいか。……なんとかなったし)


 俺はホッと一息ついて自転車の方へ戻ろうとする。

 ーーが、途中で女の人の存在を思い出し、女の人の元へといく。


 (うおっと、危ねぇ。女の人の事すっかり忘れてたわ……)


 近くまで行き、女の人の側で腰を下ろす。

 女の人はブルブルと震えていた。先程殴られた顔を手で覆い隠して、何かを張り詰めている様だった。

 

 (こういう時……何をすれば、いいんだろうか)


 良く分からなかった。

 その時の行動は自分でも良く覚えていない。

 それでも、その時だけは自然と身体が動いていた。



 俺は自分の着ていた制服とセーターを少女にかけた。

 そしてーーー


 「よしよし……大丈夫、大丈夫だよ」


 女の人を抱きながら、俺は優しく語りかけるように、そう言った。

 すると、女の人は……張り詰めていたモノが突然流れ出したのか、大きな声を上げながらボロボロと涙を流し始めた。



 「うっ、うっ、うぅっ、うぁぁぁぁあぅぁぁあん!」

 

 

 その時、ぼんやりとだが初めて女の人の顔を見た。


 女の人は俺と同じくらいの年齢の少女だった。 


 俺は持っていたハンカチで顔から滴れる血を拭き取り、リュックから取り出した絆創膏を少女に許可をとり貼った。こんなことぐらいしか俺には出来なかった。

 

 


 

 ⎯⎯⎯


 あれから幾らか時間が過ぎた。

 俺の腹が、ぐぅ~~と空腹を知らせるサインをあげている。

 この静寂の中で、その音はよく響き渡った。


 (う……っ、は、恥ずかしい……)


 俺は赤面する。

 だが、目の前にいる少女がふふっと小さく笑ってくれたのを見て、笑わせる事が出来たから良しとするか、と自分を納得させる。


 


 あれから暫く泣いていた少女は、つい先程泣き止んだのだが、何かを話すこともなく沈黙が場を支配していたのだ。

 なので、この気まずい空気の中、少女を笑わせる事が出来たのは、俺にとっては嬉しいことだった。

 

 (これを切り口に、話して……み、る、ぞ……ってやっぱ無理)

 

 俺は少女を真っ直ぐに見据えた。

 すると、段々と暗闇に目が慣れてきた俺が見たのはーーー端整な顔立ちをした美少女だった。顔には殴られた痕が残っているが、そんな事を抜きにしても俺の人生で一番綺麗な少女だった。

 口を開きかけた俺は、反射的に少女から顔をそむけてしまった。

 

 俺は基本的に、【学校の外】という条件なら大抵の人とは話せる。

 まあ、逆にそれ以外では話せないという事なんだが……。

 しかし、目が慣れてしまった状態で、予想外の美少女と、こんな場所で二人きりの状況(倒れている男はカウントしない)は緊張してしまう。


 

 「あの、ありがとう、ございました……」


 泣き止み、少しは落ち着いたのか、少女は俺に話しかけてくる。


 

 「あっ、いや……俺は何もやってませんよ」


 (いや、流石に何もやってませんは無いか……?)

 

 「それでも本当にありがとうございました……本当に、本当に、私もう駄目かと、あのまま……、もう………………」


 そう話しながら少女は顔を下に俯かせる。

 先程の事を思い出しているのだろうか、それとも有り得たかもしれない未来を想像したのか、それは俺には分からない。

  


 「⎯⎯とりあえず、俺もそろそろ帰らないと」

 

 「えっ………」


 少女は体を震わす。


 (そんな驚いた顔止めて下さいよ……)



 「あなたも早く家に帰って安心した方が良いと思います。この場所に長くいるよりかは、そっちの方が絶対に良い。それに、いつ男が起き上がってくるか分からないですから」


 「そうです、ね……。うん、分かった」


 少女は頷いた。

 

 「あのっ、ライ○を交換してくれませんか?」


 「⎯⎯は? え、ライ○って……俺のですか?」


 「はい……良ければ、だけど」


 敬語が疎かになり始める少女。

 元々、敬語が苦手なのかもしれない。

 まあ、見るからにリア充な雰囲気があるし、普段から同級生は勿論のこと先生や先輩にも敬語なんか使わずに親しげな感じでいっているんだろう。


 そんなリア充な雰囲気をもつ少女に対して、非リアの俺はぎこちなく返事をする。



 「お、俺ので良ければ……こちらこそお願いします」


 携帯を取り出して、ライ○を起動させる。

 【フルフル】と表示されている部分をタッと指で触れる。



 「それじゃ、交換、お願いします……」


 「あっ、はい」


 1、2、3……と、そこで友達追加に【ミリ】と表示された。


 「あ、俺の方は来ました」


 「私も来ましたよっ」


 少しずつだが元気な声音になっていく少女。

 俺は、【新しく追加された友達】の一覧を見る。


  【ミリ】


 そう表示されたそれをタッチする。

 すると、女子二人で写っている加工写真がアイコンに設定されていた。……しかし、それよりも気になったのが、その女子達の服装だった。


 ーーー俺と同じ高校の制服?


 確かに可能性は無くはない。


 (ええ!?まさかの同じ学校!?)

 

 だが驚かずにはいられなかった。


 (しかも、このリボンの色って……先輩!?)

 

 

 「……じゃあ、また連絡とかするね」

 

 軽く微笑みながらそう言ってくる先輩少女。

 先輩なのか、少女なのか……。いや、俺より先輩なのに少女は無いな。じゃあこれからは先輩と心の中で呼ぼう。

 ……だけど、無理に明るく振る舞おうとしているのが丸分かりだ。体は震えているし、顔だって青ざめている。



 「はい、こちらこそ宜しくお願いします」


 「あれ、私と同じ制服……、って、え?」


 (ヤバイな、気付かれたか?)


 「えっと……もしかして、☆▽○高校ですか?」


 「……はい」


 「すっごい偶然だね……じゃあ、自己紹介した方がいいよね?

 改めて……2年7組、神倉 美里です」

 

 (マジかよ。神倉先輩って俺でも聞いたことのある超有名な先輩じゃ……)


 「神倉さんですね……分かりました。じゃあ早く帰りますよ」

 

 俺は回れ右をしてその場を立ち去ろうとする。

 しかし、ぐっと袖を掴まれてしまい歩けなくなる。


 (……え、なに?)


 俺は少しだけ緊張気味な神倉先輩に疑問を持つ。

 すると神倉先輩は大きめの声でーーー

 

 「ちょっと、待って、下さい!」


 「な、なに……?」


 「あの、名前教えて下さい」


 (えー、すーごいめんどい。まあ、名前だけなら、いいか)


 「石田 高利です」

 

 「そ、それだけ……?」


 先輩は、そう問い掛けてくる。

 だが俺は名前を教えた。これ以上情報を与える必要もない。

 学年が違えば問題はないだろう、それにこの先輩ならすぐに今日の事も忘れるだろうし。


 

 「せめてクラ」


 「じゃあ、そこの明るい大通りまで行きますよ」


 俺は先輩の言葉を遮りつつそう言う。

 余計に俺の情報を与えるなんて事はしない。

 

 なんだったら、もう一人で帰ろうかな……とも考えたのだが、流石に今の先輩を一人残して帰るなんて事は出来なかった。

 今は元気そうにしているが、さっきの事で男の人が怖くなったり、おかしくなっていたりしても変では無いのだ。


 

 「う、うん……送ってくれるんだ……ありがと」


 神倉先輩は少しだけ顔を俯かせてそう呟いた。






 それから俺と先輩は車や人が多くいる大通りまで来るとその場で別れた。

 この大通りに来るにつれて段々と明かりが多くなり、俺の姿もしっかりと見られたが、男子は女子と違い、学年によって変わる制服部分等ないので先輩は俺が後輩だと気付いていなかった様だ。


 俺は先輩を見送りながら思い出す。


 (あ、そういえばあの男どうすりゃ良いんだろ……。警察とかに通報した方が良かったんかな。まあ、先輩もあの道はもう通らないだろうし、今日のところはもう良いか……色々と疲れたし)

 

 そこで考える事を止めて、俺は家に向けて自転車を漕ぎ始めた。


 帰りの道中、俺は先輩の事について考える。


 ーー去り際の先輩の表情は泣きそうで、呼吸も荒く、脚がガクガクと震えていた。前から歩いてくる男の人を見掛けると、急に顔をひきつらせて自然と避けている様だった。俺の貸してあげた制服とセーターをギュッと握り締めている姿は今にも壊れそうなぐらい弱々しかった。


 (あ、やべ。制服とセーター貸したから……俺が明日着てくのなくね。てか先輩に会いに行かなきゃじゃん…………どうしよう?)



 俺は、神倉先輩と明日の心配をしながら暗い夜道をひたすらに漕ぎ続けた。


 

 


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