二章 エピローグ
「新皇太子殿下は、なかなかの穏健派のようね」
赤いドレスの貴婦人リルリーナはそう言いながらも、油断なく黄色いドレスの貴婦人レティシアと、青いドレスの貴婦人メアリーシェを観察した。
「バザン王国に軍事侵攻しない代わりに、財政援助で首輪をつなぐ……ま、悪くないんじゃないかしらぁ」
そう言いながらもレティシアはどこか不満げだ。
「言いたいことがあるなら言えばいいじゃない。あなたらしくもない」
リルリーナが焚き付けると、レティシアはあっさり口を開いた。
「だって今回の財政援助で、またあのウカーシュが力をつけたのよ?ほんと、信じられないわよぅ」
不貞腐れる彼女に、メアリーシェは困ったように微笑んだ。
「ですが、財務院の後押しのおかげでだいぶ丸く収まったと言いますか。皇帝陛下も、その……軍務院との対立がひとまず落ち着いたと安堵なさっていたそうですし」
その言葉にレティシアはさらに機嫌を悪くする。
「こういうのは本来、宰相府の仕事でしょ?リルリーナ様の旦那はちゃんと仕事してるわけぇ?」
矛先を向けられたリルリーナは、さして驚いた様子もなく悠然と頷いた。
「今回の件は軍務院が特別騒ぎ立てているけれど。そもそも本題はバザン王国への財政援助に参加すること。アシュトとスラトニアの両国と関係を深めつつ、それを恩にして関税緩和措置に動くことだもの。ここから先の外交は、ネリッサ皇后の領分よ」
「……でも、国内にも少しは目を向けていただきませんと。帝国の婦人会の派閥が」
メアリーシェは顔を曇らせる。それを見たレティシアは呆れた声を出した。
「あなたって相変わらずねぇ。皇后がいないならいないで、もうここ十年以上回ってるじゃない」
「ですが、やはり不安定です……特に五公夫人が主導権を握らないせいで、七侯夫人まで台頭して、序列が……」
そこまで言って、メアリーシェは慌てて口を閉じる。そして、恐る恐るリルリーナとレティシアを見た。
リルリーナの夫は宰相であるブルッセン伯爵。そして、レティシアの夫は七侯の一角であるカルーシ侯爵。完全に虎の尾を踏んだ形である。
真っ青になるメアリーシェをリルリーナは宥める。
「あなたの言いたいことは分かっているわ。実際、宰相夫人とはいえ爵位としては伯爵家の者である私が大派閥を形成している時点で、今の社交界は少し歪だもの」
「まあねぇ。もっとも、もーっと厄介な女もいるわけだけどぉ」
レティシアも同調する。
メアリーシェという“弱者”をいじめる気は、二人ともなかった。
その日の茶会は早々にお開きになり、メアリーシェは安堵する。
そして帰宅したメアリーシェは今日も手紙をしたためるのだ。
皇太后の離宮に向けて、茶会の内容を余すところなく、全て。
帝国の白い鼠はいたる所に潜んでいた。そして今日も、皇太后の離宮には帝国中の情報が集まる。




