第1話 私のスパダリがイケメンすぎる!?
「お前なんて、誰の役にも立たないでしょう?」
そう言われ続けてはや五年.......
本当にこの人たちは飽きないのだろうか? そうとさえ思える日々が続いた。
「リーシェ、今日の食事はこれだけよ。贅沢な暮らしをさせてもらえると思わないでちょうだい」
継母のヴィオラが、硬いパンと薄い野菜のスープを私に持たせてそう言い放つ。
実母が亡くなってから五年、私はこの北棟の物置部屋でずっと暮らしている。
「ヴィオラ様........そのありがたいお言葉を言ってくださったのはこれで何回目でしょうか?」
「あら、文句があるの?」
「いえ、台本があるなら一度見せていただきたいものだなと思っただけです」
ヴィオラは何も言わずに踵を返した。それでいい.........これくらいの皮肉は、もう五年分の利息がついているのだから。
ーーーその夜
屋敷の皆が寝静まった頃、私の部屋には老侍女のマーサが息を切らせて駆け込んできた。
「お嬢様!! 今月も、西部の村から感謝の手紙が届いております!!」
「マーサ........あなた声が大きいわよ。誰かに聞かれたら大変なんだから、少し考えてちょうだい」
「申し訳ありません........つい興奮してしまって。それより、見てください!!! この灌漑用の水車、ものすごい収穫増になったそうです!!」
私は隠し持っていた帳簿を取り出した。
継母が公爵家の財政を握ってから領地の収穫は表向き右肩下がりだけれど、その裏で私は密かに灌漑改善や流通整備を支援し続けている。
このことは誰も知らないのだ。
父も、ヴィオラも、義姉でさえも......
「お嬢様はこんなに領地のために頑張っているのに、なぜ硬いパンを食べることを強要させられているのでしょう.....?」
「そんなの私が一番聞きたいに決まっているでしょう? まあ弱者はさらに下を虐めて優越感に浸るということを聞きますし、その類の人間なのでしょうね」
そんな会話をしながら帳簿をめくる夜が、もう五年も続いている。
ーーーー
半年後、王城の建国祭の夜会で義姉であるセレナが突然声を張り上げた。
「皆様、聞いてくださいませ!!! こちらをご覧ください! 少し前に私の宝石箱が盗まれたのですが、それが彼女の部屋の引き出しの中から見つかったんです!」
セレナの手には、私の実母の形見である髪飾りが握られていた。
「やめて!!! それは私の母の形見よ.......盗んだのは私じゃないわ」
「あら、まだそんな言い訳をするの? 妹がまさか、こんなことをするとは思いませんでしたわ」
「リーシェ、もういいのよ........皆様の前で、これ以上恥をかかなくても........」
ヴィオラが悲しげな顔を作りながら言う。
「演技がお上手なことで.......目が一回も濡れていませんけど?」
「な、何を言っているの.......? 私は本当に……」
「あと.......さっきから扇で顔を半分隠していますけど、口元がにやけているのが扇の隙間から丸見えですわ」
ヴィオラの扇がガタッと落ちた。
会場のあちこちから忍び笑いが漏れ始める。これは詰んだかもしれないと思っていたが、会場の空気が少しずつ私に味方しているような気がした。
ーーーー
その時、会場の入り口から重い軍靴の音がドカドカと響いてきた。
「リーシェに汚名を着せたのはどなただ」
低く落ち着いた声に会場全体が一瞬で静まった。長く国境にいた騎士団長、ヴァイス・アードラーがそこには立っていたのだ。
歩くたびに勲章がジャラジャラと鳴り、明らかに着慣れない正装で会場の柱に肩をぶつけている。
「いてっ……失礼。柱がそこにあるとは思わなかったものでな........」
(四年ぶりの登場で開幕いきなり柱と戦っていますね.........まったく.......この人はおっちょこちょいなんだから......)
「その髪飾りの裏側を見せていただこうか」
ヴァイスはセレナから髪飾りを取り上げ、刻印を会場に向けて掲げた。
「これは先の公爵夫人の紋章だ。盗品であるはずがない。それに、リーシェ嬢の部屋に何者かが仕込んだ夜のことを見ていた使用人が複数いる」
会場が凍りつく。
セレナの顔が見たことのない速さで青ざめているのが横目で見ていてもわかった。
「リーシェ........すまなかった、もっと早く戻るべきだったな.......」
ヴァイスが私の前に膝をつき、手を取った。会場中の視線が釘付けになる中、私はようやく口を開く。
「四年ぶりですね........ヴァイス様」
「ああ、四年ぶりだ。少し背が伸びたか? それに、以前あった時よりも痩せているような気も....」
「……今は、それを聞く場面ですか?」
「失礼した.......緊張すると、つい些細なことを聞いてしまう癖があってな。あと.......先ほど柱にぶつかったのも見ていなかったことにしてほしい」
「もうすでに全員の脳に刻まれてしまいましたよ」
死刑宣告寸前だった会場の空気が、少しだけ和らいだ気がした。
「待ってください……これには事情があるんです、ヴァイス様」
「事情を聞くのはこれから国の調査官がきちんとやってくれる。安心してくれ、言い訳の余地は残さないようしっかり問い詰めてもらうからな」
「それ.......安心できる要素なくないですか?」
「お前に汚名を着せたのだ......そのぐらいの罪は被ってもらわねば俺の気が済まないというものだ」
ーーーー
それから一週間後、ヴァイスが息を切らせて私の元へ駆けてきた。
「君が、領民たちに密かに支援をしていたことが、すべて記録されていた!!」
「あの.......もう少し落ち着いて話してもらえますか? さっきから扉を三回どころか一度もノックせずに開けていますよ」
「すまない.......興奮していてな。そんなことより!! 西部の村の代表者が証言を希望している。それと......君が国境に送った医療品のことも覚えている。差出人不明だったがまさか君だったとは」
「内緒にしてたんです........知られたらあの無駄に誇りと自信だけは持ち合わせてるばばあ.....コホンッ! ヴィオラ様に取り上げられそうだったので」
一方、追い詰められたヴィオラ様とセレナは毎日のように新しい言い訳を作っては、それが片っ端から崩れていく日々を送っていた。
「あの帳簿は私のものではありません........!!! 誰かが書いたものなのです!!」
「お言葉ですが........ヴィオラ様の署名が三十二箇所も入っておりますが?」
調査官の冷静な指摘に、ヴィオラの顔色がさらに悪くなる。
「では、その署名は偽造です!!」
「.........失礼ですが、筆跡鑑定の結果も先ほど届いておりましてですね」
「ぐっ……」
セレナの方も負けてはいなかった。
「私は何も知りません、髪飾りは勝手に部屋に転がっていたんです!」
「セレナ様.......それを仕込んでいる現場を目撃した使用人がすでに三人ほど証言しております」
「では、その三人は嘘をついていますの!! ......きっと、私の地位と美貌に嫉妬して......」
「四人目が今ちょうど到着しました」
「ぐぎぎぎ……」
挙句、二人は私を屋敷の外に連れ出し軟禁しようと企てたそうだが、すでにヴァイスの部下たちが屋敷を見張っていたので計画は実行の前に発覚し、二人とも馬車に荷物を積んでいる最中に取り押さえられたという。
「もう、どうにもならないじゃない!」
セレナが泣き叫ぶ声が、屋敷の外まで聞こえたとクスッと笑いながらマーサが報告してくれた。
「お嬢様、セレナ様、相当荒れていらっしゃるようですよ。あと馬車に詰めていた荷物が全部、屋敷の所有物だったので没収されたとか.......」
「最後まで強欲に持ち出そうとするその悪性だけは是非とも見習いところだわ」
「.........お嬢様って意外と容赦ないですね」
「五年分の利子がついていますのよ? まだ優しい方だと思うのだけれど........」
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