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トリガーハッピーは異世界でいきる  作者: stupidog
A Place Filled with Gunsmoke
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第五話 Trigger Discipline

Trigger Discipline 引き金規律



 「――てなわけで、そろそろ日も暮れる。人里も見つからねぇから、ここいらで今日の探索は終わりだ」


 :あれ以降、モンスターには遭遇しなかったね。

  :乙! 結局ゴブリンだけか。


 「だな。遭遇しねぇに越したことはねぇよ。銃を撃つのは好きだが、今は手持ちの金がねぇ。弾薬だってタダじゃねぇんだ」


 :ここでキャンプするん? モンスターがいる森で野宿とかゾッとするわ。

  :セーフハウスがあるって言ってたろ。


 「おう。華音が異空間にあるセーフハウスの扉を呼び出せるから、その中で寝るぜ。魔石とかいうヤツがあれば電気・ガス・水道が使えるらしいが、その魔石ってのが何なのか、まだ実物を見たことがねぇ。お前ら、知ってるか?」


 :ラノベだとモンスターの体内からえぐり出したりするよね。

 :心臓のあたりにある結晶みたいなやつ。


 「マジかよ。流石に人型のゴブリンを解体して中を漁るのはキツいぞ。せめて獣の形をしたモンスターならいいんだが……」

 「流石のなっちゃんも、ヒューマンタイプを捌くのは無理かぁ」

 「そりゃそうだ。アタシはサイコパスじゃねぇからな。人間の解体なんてお断りだ。第一、ゴブリンはめちゃくちゃ臭かったし汚かった。思い出しただけで吐きそうだぜ」


 「そういえば、あのキャンパーさんたちはどこに行ったのかな? ゴブリンと戦ってた時は、少し離れたところにいたけど……」

 「さぁな。アタシらの邪魔さえしなきゃ、どうでもいいわ。さてと、セーフハウスに入りたいところだが、ライフラインが死んでる部屋じゃ真っ暗でやることがねぇ。寝るまでは焚き火でもして時間を潰すか。……よし、お前らが異世界に飛ばされた時に役立つサバイバル技術を教えてやるよ」


 そう言うと、棗は左腿のシースからマチェットを引き抜いた。傍らの植物を切り倒し、その枝を一本拾ってカメラの前に突き出す。


 「こういう植物の繊維質な皮ってのは、かなり便利だ。剥いで紐を作れる。紐ができれば、スリングやボーラ、短弓だって作れるからな」


 棗は枝にナイフで切れ込みを入れると、手際よく皮を剥いでいく。内皮と外皮を分け、細いものと太いものを何本か用意すると、半分に折って捻りながら編み始めた。


 「木の繊維で紐を作る時は、必要な長さの倍は用意しろ。半分に折って、解けないように『縒り』をかけながら編んでいくんだ。できるだけギュッと捻るのがコツだぞ。甘いとすぐにバラける」


 皮を剥いた枝を地面に突き立て、それを支柱にして編み上げていく。あっという間に一本の繊維ロープを作り上げると、今度は太い方を手に取った。


「細い紐をたくさん作った方が、目の細かい道具が作れる。アタシらは銃があるから投石器なんて使わねぇが、もし緊急で自作するなら、要所だけ細い紐を使って、あとは太い紐で時短した方がいい。……手間をかける時間があるなら、細い紐を幾重にも編んで丈夫なスリングを作れ。石を飛ばすだけだが、その威力は22口径弾に匹敵するぞ。銃が生まれる前の戦争で最も人を殺したのは、弓じゃなく投石だ。ある程度の重さの石を、ある程度の速度で当てりゃ、人間なんて簡単に死ぬからな」


「なっちゃん。でも、スリングでモンスターを倒せるかなぁ?」

「さっきのゴブリン程度なら十分殺れるだろ。ドラゴンとかが出てきたら無理だろうがな。そもそもドラゴンなんてのがいたら、銃だって怪しい。12.7ミリ(50口径)でも効かねぇんじゃねぇか?」


「なっちゃん。.50BMGより威力のある民間用ライフルってあるの?」

「一応あるにはあるが、アタシのブックマークしてるサイトじゃ扱ってねぇな。アタシらが持てる最大火力は50口径までだと思っておいた方がいい」


 棗は完成したスリングに足元の適当な石を挟み込み、頭上で振り回し始めた。


「さて、スリングの完成だ。アタシも実戦で使うのは初めてだからな、狙ったところに飛ばせるかはわからねぇ。華音、マコ、少し離れてろ」


 遠心力で加速するスリング。棗は大きく振りかぶると、二本の紐のうち一本を勢いよくリリースした。  風を切り、石が飛ぶ。乾いた音が響いて木の幹に当たるが、棗は納得のいかない表情を浮かべた。それもそのはず、彼女が狙ったのは正面の巨木だったが、石が当たったのは右に一メートル以上逸れた別の木だったからだ。


「……チッ。全然違うところに飛んでったわ。こりゃ慣れが必要だな。……ま、9ミリ弾があれば解決する問題だ。やっぱり銃は偉大だわ」

「ふふ、やっぱりそうなるんだ」


「当然だろ。……あと、アタシはミリガバが好きだが、基本的に『装弾数は正義』だぞ? 単発の威力なんて求めるな。アタシは華音とマコっていう相棒がいるから、『メインにショットガン、サブに1911』なんて構成を組めるが、ソロなら五プラス一発のショットガンや、八発ポッキリのハンドガンなんて正気の沙汰じゃねぇ。もしアタシが一人だったら、迷わずブローニング・ハイパワーと5.56ミリのライフルを選ぶね」


「そういえば、なっちゃんなんでそんなに1911にこだわってるの?」

「あー……そりゃ、なんだ。憧れた親父が……ボブが持ってたのが1911だった。それだけだよ」


「ファザコンかな? まあ、家庭を顧みない母親や浮気性の実父より、ボブさんの方がよっぽどパパしてたもんね。テキサスに行った時も、私たちに良くしてくれたし」

「わ、私もボブおじさんは、すごく素敵なお父さんだと思います。……カッコよかったです!」


「カッコいいか?」


 棗は首を傾げ、養父ともいえるボブの容姿を思い返してみた。

 退役してすっかり太ったアメリカンサイズの巨体に、これぞテキサスの農民といった風情のヒゲモジャ。優しげな顔こそしているが、年中オーバーオール姿で、お洒落の欠片もない。


 「あー……マコ、お前って男の趣味悪いのか? いや、アタシらはビアンだから、男の恰好良さなんてのは門外漢だがな」

 「だ、だってボブおじさんは、わ……私の話し方を……わ、笑わないし」


  マコには吃音の傾向がある。焦ると言葉が詰まってしまう。それを笑う不届きな「大人になりきれない大人」に傷ついてきた彼女にとって、ボブの包容力は本物の騎士に見えたのだ。


 「ああ、見た目じゃなく中身がハードボイルドってことか。ボブみたいな高潔な兵士に育てられたのに、アタシはこんなチンピラみてぇに育っちまって、アイツにゃ申し訳ねぇな」


  棗は銃を手にすることの重さをボブから叩き込まれていた。だが、今の彼女の振る舞いは、その教えとは真逆の「軽率」なタイプに見える。


 「ま、仕方ねぇ。ボブは戦場のプロ、アタシは昨日まではただのペーパーターゲットを撃つだけのシューターだった。トリガーを引く意味も重さも、天と地ほどの差がある。……この世界でやりたい放題やってるアタシを見たら、親父ボブは愛想を尽かすかもなぁ」


 :なんか棗が真面目なこと言って黄昏れとる。

  :いや、棗ってマジでボブのこと尊敬してるからな。

  :テキサスでのトレーニング、片手負傷想定のリロード訓練とかエグかったもんなぁ。

  :あのおっさん、棗を特殊部隊員にでも仕立て上げるつもりだっただろ。


 「将来はテキサスに移住する予定だったからな。銃の扱いには慣れておくに越したことはねぇ。向こうで華音とマコ、アタシ、それにモフモフの大型犬に囲まれて暮らす……はずだったんだが。こんな世界に来ちまったからな」


 棗は時間をかけて作り上げたスリングを潔く放り捨てると、石を積み上げ、枯れ枝を放り込んで焚き火の準備を始めた。


「さて、随分と暗くなったな。本格的な焚き火を披露してぇところだが、時間が足りねぇ。枯れ葉を積み上げてオイルぶっかけファイアーの手抜きだ。良い子は真似すんなよ?」


 口では手抜きと言いつつも、石を円形に並べて風防を作り、空気の通り道を計算した見事な火床をあっという間に組み上げていた。


「なっちゃん、私、部屋の中からインスタントコーヒーとか持ってくるね」

「ああ、頼む。華音やマコの作る飯は美味いからな。アタシのクソマズ料理とは段違いだ」

「な、なっちゃんは、せめて目玉焼きくらい作れるようになったほうがいいよ。強火すぎ。……今日の献立は、簡単なペイザンヌと無発酵パンでいい?」

 「ペイザンヌ? なんだそれ。オシャレすぎて腹に溜まらねぇヤツか?」


 :棗、女子力の欠片もねぇww

  :ペイザンヌも知らねぇのかよ。

 


「飯なんてな、栄養が摂れて、腹に溜まって、愛情がありゃいいんだよ。どうせお前らには、作ってくれる恋人なんていねぇだろ? アタシには嫁が二人もいるんだぞ。バーカバーカ」


 :うわぁ……二十歳の女が「バーカバーカ」って小学生かよ。

 :煽りスキルが高すぎる。

  :どっちが本命だよ。俺は華音ちゃん派。

  :ワイはおっぱい大きなマコちゃんを依存させたい。

  :ここまで棗への指名ゼロ。


 「うっせぇよ。アタシはビアンなんだから、男にモテる必要はねぇ。あと二人とも本命だ。強いて言うなら、華音が嫁で、マコはアタシと華音の娘みたいなもんだな」


 :お義母さん! 娘さんを僕にください!


 「やらねぇよ。嫁と娘との親子丼はアタシの特権だ。……ふん、わかる奴にだけわかればいいんだよ、アタシの良さがな。……しゃぁねぇ。滅多に見せねぇが、アタシの『自慢のアレ』を見せてやるよ」


 :え? おっぱい!?

  :新参か? 棗の自慢っつったら、絶壁の胸じゃなくてタトゥーだろ。

  :お腹の淫紋、初見はマジでドン引きしたわw


 棗はチェストリグを外し、ジャケットを脱ぎ捨ててクロップド丈のタンクトップ姿になった。鍛えられた腹部と両腕に刻まれたタトゥーを、眼球カメラの前に晒す。


「ほらどうよ? すげぇだろ?」


 仁王立ちで腹部の「淫紋」を見せつけていると、扉から戻ってきた華音が大きな溜息を吐いた。


 「なっちゃん、またタトゥー自慢? 私やマコちゃんは気にしないけど、普通の日本人は白い目で見るんだからね」

 「安心しろ。アメリカでも、中流階級以上は『タトゥーは馬鹿の印』だと思ってるからな」


 腹部には淫紋。左腕には青い薔薇と茨、右の前腕には十字架、二の腕には「祈りのプレイング・ハンズ」。胸元には蜘蛛の巣が覗いている。


「あとは背中にゴライアススパイダー。腰にハートとトライバル。それと内股に《Ave mundi spes Mariaアヴェ・ムンディ・スペス・マリア》を彫ってるぜ」


:アヴェ何?

:ラテン語の讃美歌だね。


「お、物知りがいるな」


:内股に刻むなら、どの節だ? 棗のことだから「O quam sancta, quam serena(おお、聖く静謐なるかな)」あたりか?

:いや、アニメの主題歌にもなったあの節だろ。


「ま、有名だからな。正解は《O quam sancta, Quam serena, Quam begnima, Quam amoena esse virgo creditur(おお、聖く、静謐で、慈しみ深く、なんと心地よい処女と信じられていることか)》だ」


:棗のどこが聖くて静謐なんだよww :華音ちゃんとマコちゃんのことだろ。


「ああ。アタシはそんな柄じゃねぇ。ただ、レズる時にこの文言が見えたら、百合っぽくてエロくねぇか? ってノリで彫っただけだ。深い意味なんかねぇよ」


 :こいつ、教養があるのかねぇのかどっちなんだ。

  :ねぇだろ。テキサス育ちだから耳にする機会があっただけ。

  :ちなみに棗はクソ音痴だったな。十八番の「Like a Virgin」が、冒涜的な何かを召喚する呪文に聞こえた。

 :華音ちゃんもマコちゃんも、あん時フリーズしてたもんなぁ。


 「ちっ。どいつもこいつもアタシを否定しやがりやがって」


 「音痴なのは事実なんだから、諦めなよ。……なっちゃんがもう少し愛想良くしてれば、みんなチヤホヤしてくれると思うんだけどね。なっちゃん、モデルみたいに美人なんだし。ね、マコちゃん?」


 「う、うん。わ、私なんか胸が大きいだけのデ、デブだし……。なっ、なっちゃんは鍛えて引き締まった身体で、せ、背も高い。いつも自信に満ちてて、かっ……格好イイ」


  マコの言葉に棗は目を細め、唇をぺろりと舐めた。おもむろにマコを抱き寄せると、そのまま深く唇を重ねる。急に抱きしめられ、塞がれたマコが、棗の腕の中でジタバタともがいた。


 「あー、くっそ……。マコは本当に可愛いなぁ。メンヘラでも根暗でも人見知りでも、お前は最高にかわいい。アタシがずっと守ってやる。怖いものなんて見なくていい。嫌なことも全部忘れろ。……ずっとアタシだけを見てりゃいいんだよ」


 :棗、言ってること結構ヤベェぞw

 :これ両想いだからいいけど、一方通行なら完全な監禁犯のセリフなんだよなぁ。

  :まぁ、気持ちはわからなくもねぇけどな。

  :↑ストーカー予備軍の方ですか? :ちげぇよ。マコちゃん、守ってあげたくなる系だろ?

 :守るって言っても、さっき普通にハンドガンでゴブリン撃ち殺してたからな。お前らが守られる側になるんだよ。

  :体力や筋力は無いけど、根性はある。ボブさんのトレーニングに最後までついていったの、地味に凄いから。


「ほらなっちゃん、マコちゃんが酸欠になりかけてるから。……あと、そろそろご飯作らないと。なっちゃん、無駄に大食いなんだから」


「おっと……。そんなわけで、今からはマコと華音の『異世界アウトドアクッキング』の時間だぜ。アタシは料理に関しては絶望的だからな。見てるだけで応援してやるよ」






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