悪魔を愛した女
罪――――?
招待状の最後の一言が頭によぎる。
『お前の罪を知っている。苦しみから解放してやる』
舞香がいう『罪』という言葉が気がかりだった。聞き流せずにはいられなかった。
「罪って、何のことですか?」
「気になる?」
「とても」
「実はね、招待状に書かれていたの。『お前の罪を知っている。苦しみから解放してやる。来なければお前たちの一番大切なものを奪う』と」
ああ、やはり。
舞香の招待状にも書かれていたのか。
「それで、罪とは……」
「うーん。私は悪魔を愛してしまった、ということかな。悪魔が人間の魂を食べるのは悪いことよね? それを見てしまった。助けなかった、助けを呼ばなかった、黙認したことは愛ではなく、罪になると思うの。私はね、一番大切なものを奪われたくなくて、ここきたの」
舞香は柔らかい顔で微笑むと、右手で優しくお腹を摩った。
「それって……」
「そうよ」
まさか……。
「え! うそ! 本当ですか? それは嬉しいことですね!」
瑠夏が目を輝かせていう。
「彼はまだ知らなかったんだけどね、ここへ来るのも反対だったの。招待状の内容も伝えていなかったから、ただの旅行だと思ってたから」
だからあの態度か。
いきなり連れてこられた館で殺人だの、檻から出られないだの言われ意味もわからず、さぞ腹が立っただろう。
「でも、もう伝えようがないのよね。彼は優しかったのよ、出会った頃は本当に優しくて、私のこと一番好きだと何度も言ってくれた。段々と私に冷たくなっていたけれど、とても一途な人だったの。一途な彼を愛していた」
一途か…………。
私が思うに、優作は悪魔ではなく野獣だった。
傲慢で身勝手であのいやらしい目向ける彼は、神に対して唯一逆らう存在である悪魔ではなく、野生のけだものである野獣という名が相応しい、と思った。
「そうなんですね……だけどあの人……私達を」
瑠夏が今からいうであろう言葉を、私は知っている。
正確には優作の話を聞いている時の瑠夏の表情や、疑う目を見て、あの話をするのではないかとヒヤヒヤしていた。
確信に変わったのは、瑠夏が「だけど」といった時だ。
私は瑠夏の手を握り、首を横に振る。
「でも……」といいかけた瑠夏に、再度首を横に振った。
その言葉は今必要じゃないと、伝えたかった。
「何? どうかしたの?」
一部見ていた舞香は疑問に思うだろうが、それでも今、いうべきことではないと判断した私は「いいえ、何でもありません」と答えた。
瑠夏の話を止めるのが遅すぎたか、何かを察してしまっただろうか。
舞香は首を傾げ、少し間を置いていう。
「……瑠夏ちゃん、美紀ちゃん、ありがとう、話を聞いてくれて。少し楽になったかな、仲良くなれた気もするし」
「よかった〜、赤ちゃんのためにも生き延びましょうね!」
「……うん。じゃあ、おやすみなさい」
こうして私と瑠夏は舞香の部屋を後にした。
「本当に言わなくてよかったの?」
「自分から教える必要はないんじゃない? 彼女は優作を疑いもしてないのだから、もし聞かれたら、教えればいいと思う」
「そっか〜、そうだね! まあ舞香さんが赤ちゃんのために前向きになれたみたいでよかったよね!」
「うん。瑠夏、ありがとう」
「私は別に何もしてないよ〜じゃあ、また明日! おやすみ」
瑠夏と解散し、部屋に戻ると十時を回っていた。
急いで一階へ入浴をしに行き、ベッドに入るとすぐ睡魔が襲ってきた。最近は毎日へとへとな気がする。
「明日も無事で生き延びられますように」
寝言のように呟くと、バッドを抱きしめながら眠りについた。
そして翌日、舞香が死んだ。




