舞香の部屋へ
結論、犯人はアベルと牧村だと決定したようだ。特に牧村は剣道七段という実力の持ち主で、危険人物。なのでそれに勝つ術を個人で考えるということになった。
私達は談話室を後にして解散した。
部屋へ戻る際、瑠夏は父を探しに行き、誠は外の空気を吸いに行った。
私は葵と部屋に戻ることになった。
「まさか本当に殺人が起きるなんて……物騒ですね」
「そうだね」
「美紀さんも気をつけてくださいね。女性は男性より力が弱いですから」
「うん」
今日起きた出来事を話しているうちに、あっという間に部屋の前に着いた。
「それじゃ、また夕食の時に」
「あのさ、もう敬語じゃなくていいよ」
「え? いいんですか? 仲良くなれたってことですか?」
輝きに満ちた目、綻ぶ顔をした葵は、尻尾を振って喜ぶ犬のようだった。
「別にそういうわけじゃないけど。私達同い年だし、タメ口でいいよ」
「え? 同い年? 僕まだ誕生日迎えてないけど……」
「うん。じゃあまたね」
最後に何か言いたげな葵を無視して、部屋の扉を閉めた。
*
夕食を終えて部屋へ戻った私は、ベッドに横になりながら考えた。
夕食の席で正気を失った姿の舞香が頭によぎる。
婚約者を失った気持ち……私に恋人がいたことないし、理解のできないことだけれど、心配だ。
私なんかに彼女を慰めることはできるのだろうか、彼女のために背中を押してあげることはできるだろうか。
「そうか……背中を押してあげることはできるかもしれない」
この地獄のような館から彼女を抜け出させてあげる方法。瑠夏がいれば、私だけでなく、瑠夏の陽気な優しさと少しのお節介があれば、舞香を楽にさせてあげられるかもしれない。
そうと決まればすぐ様行動した。
瑠夏の部屋を尋ねて呼び出した。
「美紀? どうしたの? お風呂?」
「その前に、舞香さんの部屋に行かない? 慰めてあげようよ」
「ああ! さっき言ってたもんね! でも何て励ます?」
「…………瑠夏が思ったままに、正直に言えばいいよ」
「正直に? うーん。じゃあポジティブにだね!」
「そう」
「オーケー! まってて羽織るもの持ってくる」
瑠夏は白いカーディガンを羽織ると、行こう! といって私達は舞香の部屋へ向った。
瑠夏の部屋から二つ隣の部屋が舞香の部屋だ。歩いて十歩ほどの距離でそんなに遠くない。
舞香の部屋をノックするが、反応がない。
「開けていいかな?」
「開けよう。舞香さんに何かあっても嫌だし」
ギーと音を鳴らして扉が開いていく。
「舞香さん?」
呼びかけに反応がないので、もう一度呼んだ。
「舞香さん?」
「はい」
二回目の呼びかけでようやく舞香は反応した。
部屋中は赤い血で染まった今朝の部屋とは思えないほど、綺麗に片付いていた。血の一滴も残さずに掃除されている。
騒動があってすぐ牧村が掃除したようで、本当に優秀な世話係だと感心するほどだ。
「舞香さん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ……」
無理矢理作った笑みは、苦しみや悲しみを含んだように見える。それもそのはず、婚約者が死んだのだから、普通でいられる方が異常だ。
「少し、話をしませんか?」
瑠夏は会話を試みるが、
「慰めに来てくれたの? ありがとう、でも平気よ」
平気そうには見えなかった。顔色は悪く、目は虚になっている。生きているのに、死人のような顔。
私と瑠夏は顔を見合わせ、頷いた。
「こんな時になんですけど、私達舞香さんともっと仲良くなりたくて話に来たんです。少し話せますか?」
「…………うん、いいよ」
やはり舞香はお淑やかで柔らかい雰囲気を持つ女性だった。
この人に悪の気持ちがあるのかと疑えてしまうほど、優しい笑顔で微笑んでくれた。
舞香は最初こそ、少し警戒していたようだが、徐々に私達に心を許してくれたのか、自分からプライベートの話をするようになった。瑠夏のおかげだ。彼女の壁のない話し方と、少しのお節介が役にたった。
話は弾み、舞香は笑まで溢すようになった。
「ええ? そうなの?」
「そうなんですよ! 美紀の胸はでかくて〜柔らかくて〜」
「やめてよ瑠夏!」
「それは男の人は喜びそうね〜」
話は何故か下ネタへ向かっていく。これは瑠夏が原因だが、舞香が普段通りに笑えてるなら、それでもいいと思った。
「舞香さん、やっぱり悲しいですよね。婚約者が……」
瑠夏の言葉に舞香は下を向いて答えた。
「うん、そうだね。悲しい……かな? けれど、これも運命かなって」
「運命?」私は訊き返した。
「彼はとても善人とはいえなかった。今までの行いに報いる時が来たんだよ。そして私もね」
「悪いことをしたってことですか?」
「……まあ、ああいう人だから。それに彼に私は不釣合いだったでしょ?」
舞香も感じていたんだ。
確かにそう思ったことは何度かあった。
でもそれは優作に舞香が不釣愛ということではなく、舞香のような優しい人に優作のような短気で傲慢な人は不釣合いだ、ということ。
「結ばれる運命ではなかったんだろうね。何度も壁を乗り越えてきたつもりだったんだけど、結局はこうなる運命で、私達は消えない罪を重ねすぎた」
罪――――?




