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第七十三話:フリーダムも卒業式


 お隣はドンパチやっているようだがフリーダムは平常運転だ

足りない物はお米だけ。既に八月も中旬でトウモロコシの収穫も

ピークを過ぎた。


「発電機はうるさいけど蓄電機は静かで扇風機の風が気持ちいいわ」


「でも一個で金貨十枚なんですよね」

「価格は来年に期待して欲しいと言ってたぞ」

「うちはガスレンジだけでいいですね」


 発電機は金貨五枚で蓄電池は金貨十枚という破格だ

当面は富裕層以外は手が出ないだろう。  

 

「コンラート、婚約者の卒業式には出るのか?」

「出ないとご両親に怒られますよ」


「進学はしないのか?」

「永久就職でいいそうです」


 主婦業は旦那が死ななければ永久就職先になるだろうが

アリス達はどうなるんだろうな? ミーナ次第か。


          

今日も込んでるな。

 

「兄貴、今日はざるで行きますか?」

「そうだな、暑いしな」

  

「お姉さん、ざるラーメンのダブルチャーシューの大盛りを三人前ね」

「トッピングはどうします?」

  

「煮卵二個とメンマと海苔でお願いするよ」

  

「それにしてもミーアは部屋から出たくないとは贅沢ですね」

「扇風機の虜になったようだね」

「わたしも買っていたら危なかったよ」


「しかし、ラーメンだとご飯が欲しくなるな」

「だからざるなんだろう」


「もう半年近くは米を食べてないですよ」

「来月には南部米なら出荷が始まるぞ」

「あのパサパサしたやつですね。個人的にはフリーダム米がいいですね」

「長い米はチャーハンには向きますが単独だと味が落ちますね」


「米の収穫が終わった頃にはカレー粉が出回るから期待していてくれ」

「本当に美味しいんですか?」

         

「子供には向かないが辛味噌ラーメンが食べられるなら美味く感じるはずだ」


   

「おまちどうさま」


「チャーシュー様は健在だな」

「豚様々ですね」


「南の大陸にはオークっていう魔物が同じ味らしいよな」

「童話に出てくる話だろう」

「冒険者とか憧れますね」


      

「ざるラーメンも美味いけど、やっぱり物足りないな」

「ラーメンとご飯の組み合わせが懐かしいですね」


 この醤油味でも十分美味しいが。

子供の頃は全財産を味噌と醤油の開発に回していたな。それも過去の事か。


「お勘定お願いします」

    

「一人当たり銀貨一枚と大銅貨二枚ですね」

 

二千四百アルか、やはり豚も相当数を食用に回したつけが効いてるか

今は子豚を親豚にする時期だから半年を一サイクルとして来年か。


 

 みんなと別れて帰宅すると既に夜の八時だ。


「リリーナ、みんなは?」

「ご飯も食べ終わってアリス達はお勉強だそうです」

   

「そうか」


「あなた、ルーカスを幼稚園に入れるか考えているんですが」

「入れてもいいがヘルミーナに教わった方が効率的だろう」

     

「ミーナも最近は子供の世話が大変そうで食事の前に帰る事が多いんですよ」


 そういえば居ない日も多いな。


「リリーナも軍務長官だろう。お迎えとか大丈夫なのか?」

「戦争中じゃないから時間の都合はつきますよ」

「それじゃ構わないぞ。友達と遊ぶ時間も増えるだろう」

「ありがとう」



 子供が幼稚園に行くようになるのか。

アリス達は勉強をしているということは進学するのかな?


 

 そして学院の卒業式だ。


「……卒業生代表、メアリー・ビアン」

  

 アリス達も首席卒業は無理だったか。


「お集まり頂いた皆様、本日私達は当学院を卒業致します

これも応援してくださった方々の尽力あっての事です……

王立学院は最高です」


         

 二時間程度の卒業式は終わった。卒業生の五割が就職するそうだ

去年の進学率が六割だったと考えるといかに食糧難が家計を圧迫したのかが

窺える結果となってしまった。

    


「アリス達はどうするんだ?」

「私達は来週に第一次の技術大学院の試験を受けます」

「受けます。絶対一度目で受かります」


「あそこは基本的には全寮制だけど、いいのか?」

「六時まで勉強して家に帰るなんて無理ですよ。メアリーも進学組だし」

「運転手を雇って送迎も可能だぞ」


「「兄さん、大丈夫ですよ」」 

「そうか、それなら頑張ってくれ」


 家の中が寂しくなるが、それも仕方の無い事だろう。

そろそろ俺にとってのミーナのような教育係を

ルーカスにつけるべきだろうか。幼稚園次第だな。


 

      

そろそろ九月という所で意外な所から救援要請が来た。


「北方大陸が救援要請ですか?」

「それもトレミー帝国の断り無しですよ」

「月光便を使ってくるという事は冗談じゃないわね」

    

「残念だが一度トレミー帝国に使者を送って確認しないと揉めるぞ」

「そうですね、既にトレミーの領土ですからね」


「ヤン、月光便で送ってみてくれ」

「わかった」



 そして五日経っても返事が来ない。

    

「どうなってるんだ?」

「二度送ってますし、輸送船の乗組員にも手紙を預けています。輸送船の航行

に問題無いですから黙殺されたと考えるべきでは」

 

「仕方ない、俺とヤンで会いに行ってくる」


 トレミー帝国の上層部は一体何を考えているんだろうな。

  


「高度二千に到達」

  

「飛行艇に乗るのも久しぶりですね」

「たまには乗ってやらないとな」


      

「着陸要請に空港から返信がありません」

「仕方ない、二時間だけこの上空で待っていてくれ。ヤン行くぞ、転移」


  

 転移結界は張ってないんだな。


「なんか最初に来たときより酷いですね」

「あの時は北方大陸に攻められている時だったな」


「小麦を五キロで小金貨一枚で売ってますよ」

「気でも狂ったのか。うちの売値は一トンで通常金貨で金貨二枚だぞ」

「買値の十倍ですか? 誰が儲けてるんでしょうね」

  


 衛兵が十六人もいやがる。

「フリーダム国王だ。ミュラー陛下かユキ王妃にお会いしたい」

「申し訳ありませんが誰も通すなとの命令です」


「それでは聞くが、市場で小麦を五キロで小金貨一枚で売っていたが

フリーダムの売値は一トンで金貨二枚だぞ。誰が中抜きしているんだ?」


「そんなに安くなったんですか?」

「王城を守る衛兵が知らないのかよ。今年はフリーダムは大豊作なんだよ

去年とは違うぞ」

            

「わたしも知りませんでした」

「俺もフリーダムでは五キロで小金貨二枚で売っていると聞いていたぞ」

「俺も救援物資だから安いと聞いていたよ」


 なんだ、この情報の偏りは。


「では、もう一つ訪ねるが、北方大陸から我らに救援要請が来た

我らは応えるつもりだが差し支えないだろうな」

    

「我らに高度な政治判断は出来かねます」

「北方は既に占領されたと聞かされています」

「少なくとも我が軍は北方には軍を派遣していません」


「あとで五日前から月光便で連絡しているって偉い人に伝えておいてくれよ」

「では我らは失礼する。次に会うのが戦場でない事を祈るよ」



 とりあえず商会だな。


「失礼する、責任者の方にお会いしたい」

「ノア陛下、ようこそおいでくださいました」


「番頭殿か、王城に行ってきたがユキさんには会えず、小麦の相場に関しては

衛兵すら知らないと言っていたぞ」


「奥でお話ししましょう」


 ミュラーが乱心とかは勘弁してくれよ。



「小麦をフリーダムから一トンで金貨二枚で買っているのを知っているのは

大商会の人間と港のごく一部の人間だけです」

     

「おかしいじゃないか。フリーダムが食糧難から立ち直ったのは宣言済みだぞ」

「会長は最前線で指揮をしていて、ミュラー陛下は度重なる暗殺の恐怖から

王城の奥に転移結界を張り巡らせて引きこもっておいでです」


「それじゃ、相場を操作しているのは誰だ?」

「マリノフという将軍です。陸上部隊の司令官でして陛下の叔父に当たります」

      

「このままじゃ内乱になるぞ」

「仕入れ値の十倍程度なら大丈夫でしょう。それより北方大陸から使者辺りが

そちらへ行きましたか?」

     

「月光便で救援要請だ」

「今のままではトレミー帝国本国すら一年は持たないでしょう

そうと言っても北方大陸は既に半分以上は南部連合の物です」


「北方大陸に関しては待ってもいいが、小麦の値段をつり上げたままに

するというなら輸出を取りやめるぞ」


 ちょっと脅してやらないと本音を言いそうにないからな

ミュラーが内気なのは皇帝になっても治らないか。

      

「当国は輸出を止められても一年は持ちますよ

そちらこそ外貨がはいらなくなるのでは」


「会長お帰りでしたか」

  

「ユキさん、お久しぶりですね」

「我が軍は前線では既にロアン王国軍を押しています。もう一度言いますが

困るのはフリーダムの方々ですわ」


「兄貴、王妃になって有頂天になってますね」

「同感だな。そこまで言われるなら現在トレミーに向かっている

輸送船を最後にトレミーへの輸出は取りやめさせて頂く」


「ご自由にどうぞ。困るのはそちらですから」


「ヤン、帰るぞ」

「了解です」



 腹が立つな、女性の転生者だと思って甘やかしたのが間違いだったか。


    

 さすがエクレール、街の活気が違うな。


    

「おかえりなさい」

「早かったですね」


「ヒルダ、ちょっと話がある」

「どうしました?」


「トレミーと手切れになった。輸出先に心当たりはあるか?」


「そう来ましたか……そうですねロアンに売り込みましょう

加えて南方の三カ国にも高値で売り込みましょう」


「ヒルダ、ユキのいう事だから当てになるかわからねえけど

ロアン軍を圧倒しているって言ってたぞ」

「わたしも押していると聞いた」



「南部の三カ国が支援しているのはロアンですよ。そう簡単には落ちませんよ」

「ロアンには高く売れるだろうな」


 

           

今日は発電所の見学日だ。

 

ここは空母ニミッツの動力を参考にしたのかガスタービン型の発電方式で

一号機と二号機は軽油方式で三号機と四号機は灯油方式になっている。


「見て下さいこの軽快な音を、一号機と二号機は七万KWを誇り

三号機と四号機は六万KWを誇ります」

    

「KWって?」

「キロワットといいますが、キロは重さと同じでWはノア様のご指示です

簡単にいうと仕事量ですね。扇風機なら一秒に何回転するかといった

感じですよ」


「何万も必要なの?」

「扇風機を一時間使って一KWですので無駄と言えば無駄ですね」

       

「それじゃどうするのよ?」

「魔道蓄電池に貯めておいて余剰分はプラズマ弾として保管して

その更に余剰分は街の電気として使用します

既にエクレールの街には五十メートルに一本の街頭がありますから

かなり使う予定ですよ」


「地下道に入れていた奴だな」

 

「そうです、電話線も通しておきましたので領民証一号機と二号機の方は

お金の支払いをして頂ければ電話も一ヶ月で使えるようになりますよ」


「バベルとも通話が出来るの?」

「無理ですよ。エクレールでも更に電話線の通っている家だけです」


「つまんないわね」

「広げないのか?」

 

「アレス鉄道のレールの横に順次取り付ける予定ですが予算次第ですね」


 やはりネックは予算か、四型は無理そうだから五型の開発後だな。


 

    

 それから半月後。

 ロアンには小麦一トンで金貨五枚で売れていて、更には旧式の

中古の陸専用のノア砲も白金と交換で売れておりヒルダもご満悦のご様子だ。


「アリス、次は第二次試験か?」

「残念だけど、第一次試験は落ちたの

第三次でも落ちたら諦めて就職するわ」


 三段階にしておいて良かったよ。受験料だけでも金貨一枚が飛ぶけど。


      

「若様、北方大陸へは行かないんですか?」

「ノルトが不穏な動きをしているようだ。ノルト次第だよ」


「すでにジュノー大陸の都市作りも東部に四カ所、西部に四カ所、南部に五カ所

それに北部四カ所と中央部にバベルを含めた五カ所が完成していて

我が国の都市十七カ所を合わせれば三十九都市体制です」


「兄貴、もう一つ作って四十都市体制の方がかっこがつきますよ」

 

「サウスがつく街も発展すれば都市になるだろう。ここは各街に

四十都市目になる名誉の為に競ってもらおう」


 しかし、一億四千万も難民がいたとはいえよく作ったもんだ

街と半径十キロの範囲での人口が五十万人以上が基準だから

都市に住む人間だけで二千万人以上か。難民の動き次第では

名目上の都市も増えるだろうな。


 アリス達は試験に受かるかな?


お読み頂きありがとうございます。


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