第七十四話:南の国
平和な時間をみんなで送りアリス達は第三次試験でぎりぎり通過して
十一月からは技術大学院の学生だ。そして南部米の収穫がきて
今度はうちらの番だ。
「ノア様、南部米の収穫高は一億五百万トンでそれ以外の新領土が
二億六千万トン程度で本国の収穫予想が九千万トンと予想されます」
「それは凄まじいな、新領土の荒れ地を米で統一した成果か?」
「それもありますし、イシュタルの加護の効果も絶大と言えるでしょう
しかし、ジュノー大陸は食糧で争う必要もなかったとも言えますね
なんとも不思議な感情がこみ上げて参ります」
「今年の春のような状況が数年続けば戦争を起こす指導者の気持ちも
わかるが大陸統一の最大の恩恵だろうな」
「そうですね、私が小さい時には戦争は無く麦も米も手軽に手に入りました
大きな戦争が数回ありましたがそれもノア様の手で統一されて
後は難民の生活が安定すればジュノー大陸は安定期に再び入るでしょう」
「そうなって欲しいもんだ」
その後に米を売って参りますと言ってヒルダは去って行ったが
どの程度売れるかは微妙な所だろう。
次はノルトか。
「若君、ノルトは併合を拒否してきました」
「仕方ないだろうな」
「それに交易の税をかけると言ってきております」
「油田の権利は既に買い取ってある。鉱石が輸入できないのは痛いが
食糧が尽きるか、こっちが譲歩するかの我慢比べだ」
昆布だけでももっと買っておけば良かった。
今の時期だとカニ漁も落ち込むな。
「それでは次回からは戦闘機と爆撃機を護衛につけます」
「よろしく頼むよ」
警備用の経費は三倍増しで返して貰おう。
「アリス、セーラ、まだ十月の中旬よ。十一月に入ってからでも
良いんじゃないの?」
「お母様、寮は先着順ですよ。
早めに行くのがお勧めだと教官も言ってました」
「そうですよ、アリス姉さんと二人部屋ですから安心して下さい」
「アリス、セーラ、気をつけろよ。周りが良い人間だけとは限らないぞ」
「判っているわよ。アレクの一件でその辺の学生より私達の方が上よ」
何が上なのかはあえて問わないが頑張れよ二年間だ。
ヘルミーナの運転でアリスとセーラは技術大学院へ行ってしまった。
「若様、南部のエンジェルから南の使節という一行が
バベルに向かったそうです」
「なんでバベルなんだ?」
「港の人間が前国王が川の上流にいると説明したようですね」
「アレス領の前の領主という意味では嘘ではないけどな」
南ってどこだ、ガイア大陸の南の三国か。あそこならエクレールが王都だと
知っているな。そうなるとオーガスかそれ以外になるのか。
「久しぶりにバベルに行くか?」
「一年ぶりですね。お供します」
転移の方が早いが、翌日のアレス航空でヨハンとヤンとミーアと
コンラートとリリーナを入れた六人でバベル行きに乗った。
「さすが片道で金貨八枚だけの事はありますね。シートが柔らかいです」
「アレス鉄道なら八分の一で行けますね」
「新型機の開発が遅いから高いのよ」
ごもっともな意見だな。
「景色がきれいね」
「爆撃機からの景色とはさすがに違うな」
「お菓子と飲み物は如何ですか?」
「ヤン、六人前買ってきて」
「俺かよ、仕方ねえな」
機内サービスか、営業努力してるじゃないか。
「あり得ん価格だったぞ。ポテトチップスが一袋で小金貨一枚だったよ」
「魔法鞄やアイテムポーチの機内持ち込みが禁止だからな
値段の設定は思いのままだろう」
「飲み物は安い麦茶にしておいた。それでも銀貨一枚だけどな」
途中で気流が乱れたと言って一時は空軍基地に着陸したが
十六時間かけてなんとかバベルに到着だ。
「もう深夜の一時過ぎだぞ。旅行者だったら宿が空いてないぞ」
「今日はもう遅い。シリウス商会の宿舎に泊まらせて頂こう」
「兄貴、転移は?」
「ここも転移結界が張ってあるぞ」
そして翌日、宿舎から王城までは馬車で二時間だ。
「若君、まだ馬車を使っているんですね」
「わたしも驚きだよ」
「車が朝から十二台しか見かけませんよ」
「ヤンも物好きね、数えていたの?」
「人が多いですが活気が足りないですね」
「ここも王都候補だからな」
「私達はアレス領に慣れきってしまったわね。馬車がこんなに苦痛だと
思ったのはアレキサンドリア王国を攻略中以来よ」
「あの九十日は長かったな」
相変わらずでかい城だな。
「ノア陛下と王妃様と長官職の者だ。橋を架けろ」
「失礼ですが国民証を拝見いたします」
「これだ」
「確かにご本人ですね。橋を降ろせ」
結界に物理的に橋を上げておくとは暗殺者対策か。
「ここで暮らすなら王城の中を自転車で通行可能にしないといけませんね」
「俺ならオートバイを希望するよ」
「小さい家の方が好きです」
「どうぞ、こちらです」
「なんで、謁見の間なんだろうな」
「いいじゃない敵国じゃあるまいし」
「お爺さま、お久しぶりでございます」
「本当に久しいな。みんなは元気か?」
「アリス達は大学院へ進み、リリーナも三人目の子供を産みました」
「お爺さま、お久しぶりでございます」
「それはなによりだ。今日は午後から国外からの使者が見えるので
丁度よいから待っておれ」
「りょうかいです」
ここは小会議室だろうな、席が十二しかない
しかしこの位が落ち着くな。
「兄貴、兄貴の家族の悪口は言いたくありませんが、まるで兄貴が大使で
ハインツ様が王様みたいな対応でしたね」
「わたしもそれは感じました」
「神様が俺達にはこの王城に住んではいけないという警告だろう
巨大な都市に巨大な王城は人を慢心させるには十分なんだろう」
「エクレールがダメになったらどうします?」
「アレシアあたりがいいんじゃないか」
「マイセンもいいですね」
「外交使節のご到着です」
「私達は横から見ているよ」
お爺さまがどういう交渉をするかだな。
「お初にお目にかかります。我々は南の大陸のサン王国から特使として
来た者でございます。前国王とお会い出来て光栄です」
「長旅ご苦労である。ところで軍艦で来たとあるが何隻でいらしたのかな?」
「はい、軍艦四千隻です」
「それで目的は親善か? それ以外か?」
「閣下はオーガス王国という国をご存じでしょうか?」
「息子が以前行った際に地下牢に三日間閉じ込められたと言っておったぞ」
俺は孫だけど、前国王と言った手前、譲れないんだろう。
「我が国がオーガスの彼方にありますが
オーガスとは交戦中でありこの大陸の南東部の港で軍船の補給を
受けたいと思っております」
補給か、彼方ってどっちかわからないじゃないか
国の場所をそんなに秘密にしないといけない理由でもあるのか。
「我らのメリットはなにかな?」
「補給に関して多めに謝礼を支払います。それに当国は金や銀も多く取れます」
「金や銀は当国でも余っておる状態じゃ」
「それでは原油という燃える水やボーキサイトという優れた
金属の原料を提供しましょう」
「残念ながらそれらもある程度は採れるのじゃ」
「それでは何をお望みか」
「貴国の正確な地図と貴国の使う航路図と貴国との相互貿易の開始では
どうであろう」
「残念ながら、我が国は神聖不可侵です。場所を教えることすら
出来かねますな」
「そう言われるならこちらも貴国を信用は出来ない。この話は無しじゃ」
「我らは四千隻の新型の軍艦ですぞ」
「今度は脅しか? 入国前に漁師を拉致して我が国の戦力を聞いた
ようではないか。戦争するというなら八割は海に沈むと心得よ」
「この頑固者め。不愉快だ。次は戦場でお会い致そう」
話し合いは決裂したか。
北は揉めてるし、西は戦争中で東も戦争中で南の方ともやり合うのか
軍人の希望者が減りそうだな。
俺の妥協できない性格は爺ちゃん譲りなのかも知れないな。
「本当に帰りましたね」
「お爺さま、宜しかったのですか?」
「やつらは何万の兵がいれば我が国を占領出来るかと聞いていたよう
なのでな初めから条約を締結する気などないわ」
「これで東西南北に敵を抱える事になりますが?」
「一番怖いのは内部に引き込んでからの反乱じゃ。四千隻で来る事自体
我が国への威嚇であろう。それにオーガスとは中立状態なのに
僅かな金に目がくらんで戦争状態になっては馬鹿げておろう」
なるほど国としては中立状態という事になるのか
俺達がちょっと逃げ回っただけだからな。
「わかりました、こちらで探ってみます」
「それが良い、この城も多くの装飾品を売り払ったが
まだ半分以上の品が残っている状態じゃ、住んでいて気が高ぶる事も
度々あるので大規模な改築が必要かも知れぬな」
「その辺はお任せ致します」
多少は自覚があるんだな。
広いバベルの街を抜けて転移結界の先から南へ転移だ。
未来の敵は南西部の小さな漁港に停泊していて沖合には本当に四千隻
近い軍艦がいた。
「あれは当国の輸送船より大きいですね」
「うちの軍艦の三倍で輸送船の五割増し程度でしょうか」
「大きい砲塔が前に四つと後ろに二つもついてますよ」
「うちの巡洋艦なら勝てそうだが輸送船なら一分で沈められそうだな」
「速度はどれくらいかしら」
「コンラート、軍の配備は?」
「ギュンターの指揮する空母二隻が西に四百キロの所におり
エンジェルの空軍基地に戦闘機四百と攻撃機が六百に爆撃機が六百が
いつでも発進出来る状態です」
うちの軍の本隊が揃っているといった感じだな
そういえばオーガスで五万隻が攻めてくるとか言っていたが
遠征に五万隻も使えるってどんな大国だよ。
「若様、魔道エンジンではありませんね。ノア型空母の一番艦のような
構造ですね。燃料も重油のようです」
「魔法地場発生装置がないわ。これって爆撃より魔法で攻撃した方が
効果があるんじゃない」
「主砲は三連装の六門ですが対空砲は僅か四門ですね」
「この小さい対空砲ならば高度三千メートル以上なら安全でしょう」
「この船の乗員は少ないし今は夜だ。転移で乗員を隣の船に運んで
この真新しい船はダンのお土産に頂いておこう」
それから六回の転移で乗員を乗せ替えて五千トン以上はありそうな
軍艦を頂いてエクレールに帰還だ。
疲れた、転移を二十二回も繰り返さないといけないとは。
「俺はちょっと転移酔いですよ」
「転移障壁が多すぎるのよね」
「転移障壁にぶつかった時の違和感は凄いですね。未熟な魔法師なら
魔法を使えなくなりそうですよ」
『ニャーニャー』
この猫は船にいたやつね。
さてサン王国とか言っていたが
戦争は勘弁して欲しいな。
お読み頂きありがとうございます。




