表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/145

第五十話:ファミリーネームを売ろう


 東部侵攻を開始して二週間で逃げるのではなく

北へ向かってくる集団がいると言うので修復中の飛行艇基地で

会うことになった。


 お供はワイバーン地方に駐留中の長官職の人間だけだ

ヤンも一応は長官職だ。


「わたしがフリーダム国王だ」


 ヤン、威張りすぎだぞ。後ろで見てるだけでハラハラするわ。

    

「陛下、この度はお会い出来て光栄です。私どもはヒンメル地方を中心に

各地の鉱山で奴隷として働いていた者です」

 

「犯罪奴隷だったのかな?」

「いえ、イシュタル、違いますね。先代のキング陛下の崩御以降は

アルタイル王国では獣人は罪を犯さなくても奴隷に落ちて各地で強制労働が

課せられております」


「人族の方も一割程度いるように見受けられたが?」

「彼らは我々の親族や獣人排斥運動に異を唱える人達です」


「こちらも救ってやりたいが、今は東部への侵攻作戦の最中なので

五千人程度なら何とかなるが」


「我々はここに集まった者だけで二十万。そしてこの戦争の混乱に乗じて

陛下の建国時の自由宣言を聞いてフリーダムに向かっている者達が

五百万以上になるでしょう」


 五百二十万か、うちの赤ちゃん達の三倍以上もいるのか、内通者が

いないならぜひ欲しいところだが。


「しかし、うちの小型飛行艇部隊が先日の戦いで百機以上を失って

受け入れても守り切れるか保証が出来ない……」

「王都アレシアではキングダム王国との戦いでイシュタルも飛行艇を

七十隻以上失ったと聞いております」


 半分の飛行艇の損失で倍の軍を押し返したのか

まさに飛行艇様々という感じだな。 


「デニス、この地方での難民への食糧の供給は可能か?」

 兄をこき使える絶好のチャンスとみたか、報復が怖いな。


「来月には大麦や小麦が十五万トン程度の収穫は可能と推測して

七十万人程度なら何とか食いつなぐ事は出来ますが

百万以上となると本国からの援助が必要になるかと」


 輸送船に積んである食糧が二万五千トンだから当分は持つんだが。

 それにマジックポーチに五万トンあるしな。 


「そういう訳だ。ここは未だイシュタルの領土だが住民はほとんどいない

君たちが望むならこの地域で農作業をしてみるか?」

  

「はい、来年にはフリーダム王国に農作物を収められるようになって見せます」


「じいじ、この人はノア様じゃないよ。ノア様は後ろの列の三番目の人だよ」

「お嬢ちゃんはわたしの顔を知っているのかい?」


「わたしは元はアレス領に居たから何度か見かけた事があるの」

    

「まあいい、私がノアだがヤンが言った事に嘘はない。食糧を持って

いないようだし、とりあえずパンとチーズを百六十万個支給しよう」


「「「「ありがとうございます」」」」

 

 ライ麦パンとチーズだけでいいのか?

ライ麦はうちの国じゃ焼きたて以外は既に売れないからな。   

   


 結局、一人一個しか食べずに他のパンを保存しようとしていたので

『まだまだあるから思いっきり食べろ』と言ったら一人六個も食べた

子供でも三個は食べていたようだからかなり腹が減っていたんだろう。

  

 それから五日後。

      

「ノア様、南部地域の爆破作業は順調で兵士及び住民は既にヨーク川を

南下しており占領した街は四つに港が十二に対空用のノア砲を四十門ずつ

配備しました」


「これだけの広さの領土に街がたったの四つしか無いのか?」

「はい、兵士がいた街は火を放ってから退却したようで、すぐに人が

住めそうな街は四カ所のみという報告です」


 帝国もイシュタルもやってくれるな。


「コンラート、空軍基地に適している場所の見当はついたか?」

「そうですね、ここと西へ千二百キロ程度進んだ二カ所でしょうか」


「たったの二カ所でいいのか?」

「既に十四型戦闘機の数は二百五十程度です。本国に五十機を戻して

二つの基地に六十機程度が限界です」


 残りは空母搭載用になるのか。あと二百機くらいあればな。


               

 そしてキングダムが再びイシュタルへ攻めてきたという報せを受けて

俺達はフリーダム本国に帰国だ。陸軍六万とノア型空母の二番艦と

空軍は戦闘機と爆撃機を百二十機ずつを残して。


「若君、二十日ぶりですね」

「キングダムを応援する訳じゃないが、多少はイシュタルを削って貰わないと

うちが危ないからな」


 

「現在の南部の爆撃状況ですが、東のワイバーン地方の爆撃は既に完了

多少いびつな形になったようですが二キロ程度の川幅になった模様です

西の旧ドナルド領の南は予想より難航していてあと二週間はかかる見込みです」


「そうなると麦の収穫と被るから、新領土の編入式は収穫祭と同時になるか」

            

「そうですね、七月の下旬なら工事は完了しているでしょうし

陸軍の拠点作りも一段落している頃でしょう」


「若様、これが地図ですが、一週間前に零式戦闘機で新フリーダムの領土を

計測した結果。西のルミエールから東の山脈までの距離が五千八百キロ程度で

一番南北の広さがある旧ドナルド領で約三千三百キロです」


 広さはアメリカより広いというのは前から知っていたが

計測した結果を聞くと広さを痛感するな。なんと言っても東西に長すぎる。


 

「なんか子供を身ごもった牛みたいな形ね」

「このでかいサンドリア湖の所有権はどうなるの?」

「こっちは奪った側だからな。双方共に自分の領地だと言い張るだろう」


「兄貴、この地図だと南側は街すらありませんよ」

「南部の街は特に徹底的に燃やされたようで再建不可能ですね」


              

「そうです。新たに街を作った方が安く済みます」

「ヒルダ、部屋に籠もって新領土の住民の

振り分けをしてたんじゃないのか?」


「二百万人まで増えたと報告が来たところで諦めました。既にイシュタルから

だけではなく陸路と西周りの海路を使って帝国からも難民が押し寄せています」


「ノア様が難民は新領土へ住むように指示したからですね」

「いきなり豊かな領土へ連れてきたら前からいる国民との格差が酷いからな」


 

「難民としても迫害されないだけマシでしょう」

「フリーダムなら飢えもないしな」


     

 その四日後にリリーナが治療施設の中で男の子を産んだ。


「ご主人様、タマコ、がんばりました」

「そうだな、これでリリーナもお母さんだな」


「ご主人様もお父さんです」


 遂に俺にも子供が出来たか。名前は……どうしようかな?


           

「ノア様おめでとうございます」

「若君もこれで父親ですね」

「それより王太子の誕生じゃない」

          

「シャルとミーアは先輩だからリリーナを気遣ってやってくれると有り難い」

「任せときなさいよ」

「そうよ、もう慣れたわよ」

    

「それで王子の名前は?」

「そうだな……ルーカスでいいかな」


 

 そして今日から新居へ引っ越しだ。

 

「見てください。魔道具で転移結界を常時発動で本館が我々の仕事部屋になり

別館を三つ作り一つがフリーダム家専用。そして残りが我々の

プライベートハウスになります」


 本館は二十八階建てか、ほとんどオフィスビルといった感じで

俺用の別館は八階建てでヨハン達の別館は何故か十階建てなんだな。


「お兄様、お帰りなさい」

「お帰りなさい」


「アリス、セーラ、もう来てたんだね」

「だって、こっちの方が学院に近いもん」

「でも前は門が二つあったのに、ここは一個だけだから遠回りなの」


 赤ちゃんがいるから仕方ないか。


「ノア、お帰りなさい」


「母さん、仕事の方はどうですか?」

「私は書類にサインするだけだから凄く楽よ。それより孫を赤ちゃんから

育てられる事の方が嬉しいわ」


「リリーナはドジな所があるので指導してやってください」

              

「それじゃ、ルーカス、仕事に行ってくるよ」

「あーあ」


 もしかして理解出来たのか? それはないか。


  

「今年の収穫祭はヤンとコンラートが熱望していた若い天使アヒルを

振る舞ってみるか」

  

「学院最後の年に食べた一羽が最後だから三年ぶりか」

「若様、何羽くらい出すんですか?」


「そうだな、かなり増えたし三百羽程度出してみるか」

「兄貴、太っ腹です」


 結婚式もやらなかったし

新領土獲得と王子誕生の祝いには丁度良いだろう。


 

 そしてヒルダが書類の束を持ってやってきた。

    

「ヒルダが書類の束を持っていると

ある種の威圧感を発している自覚はあるのかな?」


「ノア様、良い機会です。国民に姓を売りましょう」

「ヒルダ、あまり根を詰めるとお肌に悪いわよ」


「ヒルダ、そんなに財政難なのか?」

「国庫には余裕があります。書類の量を減らすためと効率化の為です

農機具の貸し出しを家族単位にすべきです」


「そうするとヒルダの大好きな相続税の取り分が減っちゃうよ」

「今のままでは相続税の前にうちの職員が過労死してしまいます」


 そもそも戸籍管理を財務長官がやる事自体が問題なんだけどな

レンがもう少し慣れてきたら総務に任せるんだけど。


「それで幾らで売るんだい?」

「金貨五枚でフリーダムとアレス姓以外なら何でもありです

そして収穫祭の前なら特別に小金貨五枚で受け付けます」


「その値段なら構わないよ」

  

そういえば、そろそろノルト大陸に農業指導に行かないと。

 


お読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ