第四十九話:初の領土拡大を目指す時
そろそろノルト大陸のライ麦の様子でも見に行こうかと思っていたら
キングダム王国がイシュタル王国に侵攻したという報せが来た。
「イシュタルはどうなった?」
「調査員は五月二十日に魔力障壁によって転移出来なくなったそうなので
十日前の報告になりますがオリオンの街は全壊。王都アレシアも兵五十万と
飛行艇百五十隻で包囲された所で転移が出来なくなったそうです」
そうなると転移結界を張ったのはキングダムという事か。
ちゃっかり飛行艇は増産していたか。
「帝国は動かなかったのか?」
「キングダムの侵攻とほぼ同時に南よりバルバロッサ王国が北進した様子で
帝国は南部防衛で精一杯の様子です。更に我々の予測より帝国の食糧不足は
深刻の様子で遂に我が国の東部から兵を引いて全面的に南下しております」
キングダムとバルバロッサの間で協定でも結んだのか?
そして帝国は旧領とドラド王国領の維持に全力か。
「みんなはどう思う?」
「若君、もしキングダムがイシュタルを併合。そしてバルバロッサが帝国を
完全併合するような事になれば我が国は領土の大きさで大きく遅れを
取る事になります。ここは我が国も領土拡大に賭けるべき時かと」
「アレックス先生はどこへ攻め込むのが良いとお考えか?」
「まずは東へ進んで旧アレキサンドリア王国の東の更に先
ワイバーン地方を八百キロ程度進んだ所にある高い山脈まで取れば
東からの脅威はなくなるな」
「コンラート、そこまで侵攻したとして南はどうする?」
「その山脈から流れるヨーク川が豊富な水量で南西に向かって流れているので
アレキサンドリア地方の東側の二十キロと旧王都南部の十五キロの川が
分岐して川幅が狭くなっている二カ所に爆撃を加えれば守れるかと」
水量は豊富だから爆撃して川幅を大きくするのか?
きっと努力して川を分岐させたのを人間の手で再び大河に戻そうとは
まさに人というのは我が儘な生き物だな。
「悪くないわね。どうせその先は巨大なサンドリア湖だし
昔はそこまでアレキサンドリアの領土だったみたいよ」
「マルコ、爆弾の総数は?」
「旧式のフレア弾一万発、新型トルネード弾十五万発に新型のフレア弾が
三万発です。加えて空母二隻が三日あれば動けます」
「ヒルダ、国庫の方がきつくないか?」
「今、無理しなくていつ無理するんですか」
「レン、三軍の動員兵力は?」
「海軍十万、空軍四万、陸軍八万です」
軍人は給料が安定しているから増えているようだな。
人気は海軍と空軍か?
「よし、陸海空の一万ずつをフリーダムに残して、マルコが空母を率いて
明日先発して侵攻地域の畑以外の場所にノア砲を適度にぶち込んでやれ
これは警告でもある。そして三日後に新規空母を含む船団で東へ侵攻する」
「「「「りょうかい」」」」
そして翌日の朝四時にマルコ率いる空母と戦闘艦二百隻が東へ向かって
旅立っていった。そしてお昼には飛行艇二隻が十三型戦闘機四十機を連れて
出発だ。
「兄貴、どうなりますかね」
「大規模な転移結界が張ってあるんじゃアレシアには行けないし
アレシアの北はイシュタルの心臓部の飛行艇工房があるからな
多少は抵抗してくれるだろう」
「セーヌ川の南は狙わないんですか?」
「折角の天然の要害だ。セーヌ川を超えるときはジュノー大陸の中央部まで
侵攻する準備が整った後だな」
「それじゃ、数年は無理ですね」
「そうだな、山や谷は多いが陸上部隊を妨げる程の規模の物はないからな」
そして翌日から百機以上の編隊の航空機がフリーダムの東部飛行場に移動して
そこから空襲の嵐だ。
「帝国領には兵士は勿論、住民もほとんどいない模様です」
「イシュタル領は?」
「イシュタル領も既に南下は始まっていた模様で、加えて昨日から始まった
警告と空襲で住民と兵士は南に避難しております
十日もすればヨーク川まで逃げる物と思われます」
「北から攻撃してどんどん南に追いやってくれ」
「了解であります」
そして三日目の朝六時。遂に本隊の出撃だ。ノア型空母の二番艦と三番艦
にそれぞれ零式戦闘機十機と十四型戦闘機三十機に爆撃機六十機を積んで
戦闘艦二百隻と輸送船千五百隻を率いた大艦隊だ。
新型空母は最大で十四型を百二十隻積めてニミッツ級より飛行甲板は
かなり広く出来ている。
「一式戦闘給油機部隊発進」
この戦闘給油機四十機が何気に今作戦の目玉だ
今回はどれだけ戦闘機の滞空時間を延ばせるかが鍵になる。
「ほんとに人が居ませんね?」
「帝国は本当に北部には未練がないようだな」
「戦闘機から給油要請です」
「よし、速度を二百八十キロに固定しろ。ブームを伸ばせ」
「一番機、所定ポジションに着きました。……接続完了」
「よし、給油開始」
「兄貴、まるで神業ですね」
「そうだな。その代わり戦闘機の方は待ってるだけで済むけどな」
それから四機の給油を終えてアレキサンドリア地方のイシュタル領へ
出たが兵士と住民はひたすら南に向かっている様子だ。
「この地域は前に空爆したから逃げる住民も必死ね」
「ミーア、妊娠してるのに大丈夫なのか?」
「この位は平気よ。いい運動になるわ」
妊婦に飛行機は良くないと聞いた事があるが
ここが一番安全かも知れないな。
「閣下、ワイバーン地方の飛行艇基地を奪ったと報告が来ました」
「よし、一度そこへ着陸しよう」
「りょうかい」
そろそろワイバーン地方か。
「閣下、敵機襲来です」
「何機だ?」
「数は不明、既に我が軍の第三航空大隊と戦闘中との事です」
「コンラート、我らも参戦しよう」
「若様、敵の数は不明ですよ」
「うちの戦闘機では敵に高度を上げられたらそれで終わりだ
四十機のノア砲があればなんとかなる」
「わかりました。全機に上昇しつつ戦闘空域に向かうように伝えろ」
今のうちにハリケーンの魔法を組んでおくか。
戦闘中の敵機が三機程度に上空からアルタイル砲を打ち込んでくる
飛行艇が四十程度か。これはキングダムの飛行艇か?
「上空で旋回中の敵編隊の頭を抑えました」
こちらは高度六千五百で敵は高度五千五百か。
「一機に対してこちらは四機で編隊を組んでノア砲を撃ち込んでやれ」
「コンラート、第一斉射後にわたしが魔法で敵の飛行艇を上昇させてみる
敵機の上昇限界高度を見ておきたい」
「了解です」
「ノア砲発射!」
「命中を確認。墜落数四機。残り六機は離脱を開始しました」
この距離だとノア砲の直撃を受けても沈まない飛行艇がいるのか
どれだけ防御力に力を入れてるんだか。
「行くぞ、魔法制御、方向上空、【トルネードハリケーン】」
「敵高度六千二百」
「六千五百……六千八百」
「敵機が失速を始めました。敵機墜落していきます」
上昇限界は六千八百か、この機体でやっと頭を抑えられる高度だな。
「魔法制御、方向真下、範囲極大、【エアクッション】」
空気の層で確保出来たのは十八機だけか。
「若様、こいつらイシュタル王国の人間です。キングダムを撃退した後に
北部へ転進命令が来たと言ってます」
「動ける敵兵の数は?」
「ほとんどが失神しているのでごく僅かです」
「縛り上げて陸軍に尋問は任せよう」
「残念な報告ですが、敵の総数は八十機以上で別空域での戦闘で
我が国の損失は長距離爆撃機九十五機に戦闘機三十機。ここで戦闘機十機が
落とされました」
「長距離爆撃機には戦闘機の護衛がついていなかったのか?」
「護衛戦闘機は三十機ですが、それが残りの二十五機の爆撃機を守る為に
敵に食われたようです」
パイロットと搭乗員合わせて五百四十名も死亡か。
やはり戦闘機の性能と戦闘機不足が原因か。いや俺が敵戦力を
見誤ったのが最大の原因か。
そして再び空に上がって北東を目指す。
ちゃんとコンクリート使っていやがる
転生者の入れ知恵か、それとも研究の成果なのか。
「若様、ここからは爆撃機で空母へ移動しましょう」
「閣下、一部の住民が食糧を恵んで欲しいと言ってきておりますが」
「そうですね、パンとビールを分けてあげてください」
コンラート君、酒を分けて良いのか?
さすが速力三十ノットは伊達じゃない。もうワイバーン地方で
展開しているのか。
「着艦完了」
「兄貴、二千キロは飛びましたね」
「そうだな、ここが襲われてもエクレールからじゃ迎撃機は出せないな」
「王都を移しますか?」
「それは辞めておこう。今年は様子見だな」
「兄貴は様子見が好きですね」
戦闘機の絶対数が足りないから仕方ないんだよ。
キングダムがイシュタルの飛行艇を手に入れれば二百機以上か
国内を空にするとも思えないから既に二百機はあると思った方がいいか。
「報告します。イシュタル王国は飛行艇二百四十機の大編隊でキングダムを
迎撃。アレシアを奪還した模様です」
「ありがとう」
「うちらが四十機墜としてもまだ二百機もあるのかしら?」
「キングダムも百五十程度いたと報告があったし半分くらいまで
減ってるんじゃないか」
それから一週間で逃げる兵士と住民はひとまず目標地域から逃げたので
爆撃機で川の改造を開始だ。
しかし、三日後にこちらへ向かってくる集団がいるという報告が来た。
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