第四十八話:新型コンバイン初売り
北大陸、面倒だから自他共に認めているノルト大陸との貿易も順調
農作物を売って九割はノルトの資源で払ってもらって
一割は現金払いでお願いしている。最近は原油も品目に加わったが
用途不明として格安で買いたたいているので大もうけだ。
「ノア様、ニコとヒルダ、それに加えてマルコの仕事量は異常です
仕事を分担しなければその内に倒れるかと」
「ニコとヒルダとヨハンは判るけど何でマルコも忙しいんだ?」
「ニコが農業全般を一手に手がけているので、マルコも海軍の他に輸送船の
管理と商船の護衛任務に最近では漁師の管理も行っております」
「漁師の管理は次官に任せればいいだろう」
「残念ながら海軍次官はミーアですので」
そういえば何かの次官になったとかヤンが言ってたな
海軍次官だったとは。妊娠してるか遊んでいるかのどちらかだからな。
「よし、ミーアを解任してギュンターを次官にして
護衛任務と漁船の監視は任せてみよう」
「ギュンターと言いますとヘルミーナさんの伴侶の方ですか?」
「武人という感じだし、マルコのやっている任務の中でも戦闘に発展しそうな
分野の仕事を任せた方がいいだろう」
さすがに空母の管理は任せられないからな。
残りはヨハンとヒルダとニコか。権力を一番握ってる財務は分けると
問題が起こるから日本を参考にするとして法務と外務と厚生労働と環境は
いらないし、人口不足で経済産業もいらないから
国土交通と総務を新設するか。
「よし、ヨハン、車や重機も普及してきたし道路管理と森や林の管理も
任せる国土交通長官と全ての仕事のサポートをする総務長官を新設しよう」
これで三人の負担もかなり減るだろう。林野庁なんて作りません。
「そうなると人材ですね。推薦したい人間が三人おります」
「ヨハンが認める人間なら構わないよ」
「シリウス商会のリキとクレア領から着いてきてくれたレンと
ここで見つけたフレッドの三名です」
「それじゃリキを国土交通長官にして、レンを総務長官に
フレッドはヤンの下につけて様子を見てみよう」
「それと僭越ながらノーラ様をマルコの補佐官としては如何でしょう?」
「ノーラ姉さんを?」
「かなり親密なようですし
優秀な人間を遊ばせておく余裕は今の我が国にはありません」
「それじゃ、ノーラ姉さんをマルコの主席補佐官にするか
そうだ、他の長官職の人間にも補佐官を雇って良いと言っておいてね」
「それは助かります。すぐに伝えておきます」
ヨハンも嬉しそうだ。宰相を兼任だからな大変だろう。
それからすぐにシャルが出産。ミーアの妊娠が発覚したので
次官職を解任されて給料が減った文句は最小限で済んだ。
それから二週間後に預けてあった一万台の車のバイオ燃料化と
一型トラックとジュノー大陸初のトラクターとコンバインのお披露目会だ。
「兄貴、この巨大コンバインなら機関銃を装備すれば
兵士百名分の働きは出来そうですよ」
「おいおい、これは農作物を収穫する機械だぞ」
「ヤン、コンバインの最高速度は時速十キロよ。人より遅いじゃない」
「亀並みじゃ仕方ないか」
「若君、売値はどうしますか?」
「トラクターは共同なら買えそうだけど……コンバインは当分の間は
国からの貸し出し契約かな」
「リース契約というやつですね?」
「そうだね、基本はトラクターかトラックと一緒に使わないと長時間の
作業は出来ないし……それに普段は邪魔だよね」
「そうですね、これで手押し作業機から解放されますから
かなり楽になりますね」
中央のサザンクロスの街から南は広大な土地が広がってるんだよな
人さえいれば大規模開発が出来るんだが。
そしてお昼ご飯を食べ終わった頃に初売り開始だ
トラックとトラクターは黒金貨二枚から星金貨一枚まで。
コンバインは黒金貨二枚と五枚と黒金貨十二枚と星金貨二枚の四種類だ
これでも国が発注してそのまま小売りの感謝価格だ。
「……それでは星金貨のトラクターの販売です」
「俺は買うぞ」
「うちの家は二台買うわ」
「若様、既に売上げは星金貨で六百枚を超えていますよ」
「輸送船を借りてミラン帝国まで物資を運べば小麦一トンで
金貨八枚で売れるからな。持ってる奴は持ってるって事さ」
穀物を満載した船を沈没させられれば土地を取り上げられるが
上手くいけば一回の交易で星金貨三枚の利益だ。大船団を組んでいけば
大富豪か全てを失うかの二択だ。
そして星金貨二枚のコンバインも用意した三十台が売れて完売
売上げは星金貨で千五百枚を超えた所で初売りの終了だ。
その僅か一週間後にソフィー姉さんが僅かな部下を連れて
飛行艇で国外へ出たと報告があった。
「もう三日だぞ。まだ行き先が判らないのか?」
「農民が南東に向かう飛行艇を見たと報告があるだけで
戦闘機二百機で捜索していますが……」
それから五日後にヤンに部下から連絡が来たらしい
向かった先はキングダム王国。
「まったくお転婆なお嬢様ですね」
「まあ無事ならいいだろう。コンラート、無くなった物は?」
「飛行艇四隻と旧式フレア弾三万発です」
「申し上げにくいのですが新型フレア弾でなくて良かったです
それに技術者が混ざっていないのも都合が良かったかと」
「ヨハン、ソフィー様の継承権を盾に難癖をつけてくるかも知れないぞ」
「コンラート、勘違いしてないか? もしノア様が死亡しても
後継者はリリーナ様とその子供だけだぞ。姉妹やその子供に継承権はない」
「ヨハンのいう通りだ。わたしの兄弟に継承権を認めたらアレクにも
継承権があるという事になるじゃないか」
「それでは諦めるのですか?」
「ソフィー姉さんはキングダムにとっては有用な人物だ
イシュタル王国を攻める口実と戦略兵器を無償で贈ってくれたんだ
そう簡単に殺されることはないだろう」
その後に僕の家族でも航空機の無断使用や工房への立ち入りは許可制と
いう事にして会議は終了だ。
今は俺の私室にデニス兄弟が集まっている。
「兄貴、処罰は無しで良かったんですか?」
「同伴した人間の家族や作業を手伝った人間を処罰すると
コンラートにも責任を取らせる事になるからな」
「ヤン、使っていなかったとはいえ飛行艇の管理や空軍用の物資の
管理責任はコンラートにあるんだよ」
「そうよ、ノア型空母が乗っ取られなかっただけでも幸運よ」
「確かに、あれが敵の手に渡ったら最悪だったな」
「キングダムも敵国ですか?」
「わたしは陛下暗殺にも関わっていると思ってるよ
東大陸は遠いし帝国とは敵対関係だったからね」
「そうなるとキングダムは動くかも知れませんね」
「東大陸に攻め込まれてだいぶ兵士を失ったようだが南部侵攻を手早く
進めて飛行艇開発にも意欲的だったし、そろそろ他国を攻める余裕が
出てきた頃じゃないかな」
「若君、わたしならヘンドラー地方は攻めずにイシュタル王国の南東部を
叩きますね」
ハイネ家がいるからヘンドラーの地理に詳しそうだが
あえてイシュタルの穀倉地帯を狙うか? 悪くない案だな。
「まあ、うちは南部からの空襲だけ警戒して様子見だね」
「兄貴、東部はいいんですか?」
「バカね、東部は空母のレーダーで補足できるじゃない」
そして、嫌な事があった時はここだ。
「ラライラちゃん、良い天気だね」
「みなさんはお暇なんですか?」
「俺はこれでも午前中に二時間は仕事をしたよ」
「わたしは三時間はしたわ」
「もう結構です」
「兄貴、ラライラちゃんが怒っちゃいましたよ
兄貴が仕事をしてないからじゃないですか?」
「わたしは朝からマジックポーチの改良をしていたぞ」
「ヤンさん、マジックポーチをありがとうございます
お母さんに聞いたら一個で星金貨一枚はするそうですね」
「気にするな、陛下から頂いた物だから」
「ノアさんもありがとうございます。美味しいお弁当が食べられます」
売ったかと思ったが欲が無いんだな。ちなみにラライラちゃんのお母さんは
マルコのお姉さんでアレス領に来てから農民として暮らしている。
「今日は前と放牧地が違ったんだね」
「はい、ひいお婆ちゃんが地域の会議で翌月の放牧地の割り当てを
決めてくるんです」
やはり五十歳以上の管理能力がある人物という指定をすると
各家ともひい婆様が責任者になるケースが多いようだな。
「やはり、女性の社会進出は国の発展に必要なのよね」
「ミーア、飯食いながら大声上げるなよ」
「妊娠中はお腹が減るのよ」
「ヤンもそろそろ結婚相手を探したらどうなんだ?」
「じゃラライラちゃんで」
「謹んでお断りします」
「即答か……」
「姉でも妹でもいいけど、せめて二歳差程度にしときなさいよ」
「それじゃ学院生にも手を出せないじゃないか」
こんなバカは置いといて。
「ラライラちゃんは収穫祭には来るの?」
「うーん、今年はとうもろこし畑を買ったから無理だと思うの」
「おうちは畜産だけじゃないの?」
「うちはね、羊はこれだけだけど、牛さんも三百頭に畑が二百ヘクタール
あって、それに今年はとうもろこし畑を同じくらい買ったんだって」
四百ヘクタールか。お隣さんまで歩いていけない距離だろうな。
一気に二百ヘクタールの土地を手放すとは
穀物輸送で失敗したかな。
ラライラちゃんの天使スマイルとも夕方になってお別れが来て
俺達も帰宅だ。
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