終焉の咆哮と、産声の闇
初投稿です。よくわかってないので、失礼有ればご容赦下さい。ぼちぼちの投稿となります
天を焦がす雷鳴と、大地を裂く火焔。世界の命運を賭けた「魔王討伐」の最終局面は、人知を超えた神話の領域へと達していた。
人類の守護者たる四大英傑――【勇帝】黎真、【剣聖】一ノ瀬瞬、【大賢】、そして【鍛神】千手破岩。彼らの放つ圧倒的な「気」が、魔王の禍々しい魔力と激突し、大気を文字通り蒸発させていく。
「これで……終わりだ、人間どもよ! 我が全生命、全魂を以て、この世界ごと塵に還してくれよう!」
狂ったように笑う魔王の肉体が膨張し、世界を壊滅せしめるほどの破滅のエネルギーが、一気に解放されようとした。その場の全員が、世界の終わりを予感したその瞬間。
「――させん」
一歩前に出たのは、現皇帝の長男であり、四大英傑の筆頭たる【勇帝】黎真だった。
彼のギフトは『無』。全てを呑み込み、無へと帰すブラックホール(亜空間)を操る能力。
「我が命に代えても、この一撃はここで収束させる。……瞬、破岩、大賢。あとは頼んだぞ」
「黎真!?」
「待て、お前、まさか――!」
瞬たちの制止の声よりも早く、黎真は己の生命力の全てを限界以上に燃やし尽くした。出現したのは、光すら歪める漆黒の球体。それは魔王の全生命力が放った爆発的な破壊エネルギーを、その絶対的な引力によって「亜空間」へと超圧縮し、強引に閉じ込めていく。
「バ、カな……我が呪いが、消え……ッ!?」
魔王は絶望の絶叫を上げながら、漆黒の深淵へと吸い込まれていった。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。魔王の道連れとなる形で、勇帝・黎真の気配は、世界のどこからも完全に消滅した。四英傑の一人が、世界の盾となって散った瞬間だった。
だが、この時、誰も気づいていなかった。黎真が命と引き換えに亜空間へと超圧縮し、閉じ込めた「四英傑と魔王の激突による規格外の気」は、血脈の繋がりという目に見えない因果の糸を伝い、遥か遠く、皇宮の地へと流れ落ちていた。
次元の僅かな歪みと、気の奇妙な揺らぎ。それを敏感に察知した【鍛神】千手破岩は、戦場の跡地で一人、天を仰いで呟いた。
「……俺たちの力が、どこかの子供に流れ着いたか」
その「どこかの子供」とは、まさにその瞬間、地上に生を受けようとしていた黎真の息子であった。
同刻、皇宮の奥深く。
戦場の夫へ向けて、その膨大な魔王の邪気を抑え込むための「祈り」を捧げ続けていた女性がいた。史上最強と謳われた聖なる巫女、咲夜。黎真の妻である。
彼女は今、極限の疲労と闘いながら、まさに我が子を出産せんとする最中にあった。しかし、運命はあまりにも残酷だった。魔王討伐という国家の最高機密の裏で、宮廷内のどす黒い陰謀が動いていたのだ。
「――っ、何奴ですか!」
咲夜の傍らに控えていた侍女たちが、次々と血飛沫を上げて倒れていく。
勇帝の不興を買い、あるいは皇太子たる彼の失脚を狙う何者かが放った、凄腕の暗殺者集団。出産の最中という、聖なる巫女が人生で最も無防備になる瞬間を、彼らは正確に狙ってきた。
「くっ……お命、頂戴する!」
闇から躍り出る凶刃。しかし、その刃が咲夜に届く直前、部屋の「影」が不自然に身悶えし、暗殺者の首を容赦なく刎ね飛ばした。
「――皇宮直属特務機関『鵺』。これ以上の不敬は、私が許しません」
闇の中から現れたのは、黒髪を長いポニーテールに結った、切れ長の瞳を持つ若き女性――九条朧だった。彼女のギフトは「闇」と「無(因果遮断)」。自身が展開する結界内の音や気配、予知能力すら遮断する、対暗殺のスペシャリスト。
「朧……さん……」
「咲夜様、お体に触ります。ここは私が全て、塵に換えますゆえ」
朧は影に潜む暗殺術を駆使し、襲い来る暗殺者を次々と闇に葬っていく。しかし、暗殺者の数はあまりにも多く、咲夜自身もまた、襲い来る刃から身を守るために、残された僅かな力を防御結界の展開に割かざるを得なかった。
その時、咲夜は感じた。
自身の腹の内にいる赤ん坊の「ギフト(亜空間)」が、突如として暴走を始めたのを。遠く離れた戦場で、夫たちが放った、世界を滅ぼしかねないほどの「超圧縮された気」が、血の繋がりを媒介にして、この産まれ出ずる我が子の亜空間へと流れ込んできたのだ。
(ああ、黎真……あなたなのね。でも、このままでは……この子の身体が、精神が、耐えきれずに崩壊してしまう……!)
咲夜は覚悟を決めた。
出産の疲労、邪気の抑制、暗殺者への防御。すでに生命の灯火は限界だった。それでも彼女は、母親だった。
「ああああっ!!」
咲夜は最後の力を振り込絞り、我が子の「亜空間」に向けて、膨大な聖なる力を注ぎ込んだ。流れ込む規格外の力を包み込み、遮断するための強固な「結界」。この子が成長し、その力に耐えられるようになる「十の歳」になるまで、決して解けぬ封印の檻。
「う、あ……っ!」
激しい閃光と共に、静かな部屋に、元気な赤ん坊の産声が響き渡った。
自力で我が子を産み落とした咲夜は、その小さな命を愛おしそうに見つめ、朧へと託した。
「朧、さん……この子を、どうか……」
「咲夜様! 咲夜様!!」
聖なる巫女は、我が子の温もりをその胸に感じながら、満足したように静かに息を引き取った。
宮廷内の騒動と、魔王討伐の悲劇が重なったこの夜。表向きには「聖なる巫女は、夫への邪気を遠隔で抑えた際の、魔王からの遠隔攻撃に巻き込まれて死亡した」と発表されることとなる。ドス黒い宮廷の裏切りは、魔王討伐と言う国家の希望に影を深く落とす為、闇へと葬られた。
数時間後。悲劇に揺れる皇宮の一室で、現皇帝・応心と、その三男である蒼真、そして九条朧が集まっていた。
朧の腕には、すやすやと眠る黎真の遺児がいる。
「……信じがたいが、事実か。黎真の血を引くこの子が、それほどの力を」
皇帝・応心は、深く悲痛な溜息をついた。
「はい。暗殺者の件も含め、この宮廷内には黎真兄上の血筋を根絶やしにせんとする不穏な動きがあります。表立ってこの子を皇太子の子として育てれば、格好の標的となるでしょう」
三男の蒼真が、厳しい表情で進言する。
最初は、鵺の手を通じて、然るべき信頼できる者に預け、隠れて育てさせる計画だった。
そこへ、一人の女性が、信頼できる侍女だけを連れて密かに現れた。蒼真の妻であり、西のシルフィード辺境伯家の令嬢、シルフであった。彼女もまた、この皇宮の別室で、まさに先ほど出産を終えたばかりの身であった。
「蒼真様、陛下。……そのお子、私に、私達に育てさせてください」
「シルフ!? しかし、お前はたった今、娘を産んだばかりの……」
「かつて、我が西辺境伯家が正体不明の呪術で滅びかけた時、救ってくださったのは若き日の黎真義兄様と、咲夜様です。あの二人の遺児を、危険に晒すわけにはまいりません」
シルフの瞳には、確固たる決意が宿っていた。
「幸い、私の出産に立ち会ったのは、命に代えても秘密を守る実家直属の侍女だけです。私が産んだのは娘一人ですが……それを『双子の兄妹』として届け出れば、誰も疑いません。黎真義兄様の子としてではなく、私と蒼真様の子――蒼真家の長男として、この子を私達の手元で、全力で守ります」
皇帝と蒼真は顔を見合わせた。それこそが、この狂った宮廷の陰謀から、最愛の息子の忘れ形見を守る唯一にして最善の手段であった。
「……すまぬ、シルフ。苦労をかける」
「いいえ。……ようこそ、私達の可愛い最愛の息子」
シルフは、我が娘である「風花」の隣に、その赤ん坊をそっと寝かせた。
まるで本当の双子のように、二人の赤ん坊は寄り添い、小さな手を握り合う。
「この子の名は……『焔光』。闇を照らす、気高い光となるように」
こうして、世界を救った最強の英傑の血を引く少年は、その出自と規格外の力を完全に隠蔽され、「三男(蒼真)家の皇子」としての運命を歩み始めることとなる。
少年が十の歳を迎え、その肉体に「四英傑の気」が覚醒する、その日まで――。




