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第20話 『残る者と選ばない選択』

 監獄長が去った後。


 部屋には重い沈黙だけが残った。


「……ふざけてる」


 最初に口を開いたのは——リゼだった。


「誰かが残るなんて」


「……」


「そんなの、ダメに決まってる」


 強く言う。


 でも——


 その声は少しだけ震えていた。



「現実です」


 騎士が言う。


「最適解である可能性は高い」


「……」


「結界の構造を考えれば、理にかなっています」


「でも!」


 リゼが振り向く。


「それで誰かが閉じ込められるのは——」


「感情論です」


「っ……!」



「やめなさい」


 看守長が口を挟む。


「今それやっても意味ない」


「……」


「どっちも正しいし、どっちも間違ってる」


「……どういう意味だよ」


「選択の問題よ」


 肩をすくめる。


「何を捨てて、何を取るか」



 沈黙。


 全員が理解している。


 でも——


 納得できない。



「……なら」


 騎士が言った。


「私が残ります」


「は?」


 即座に声が出た。



「元々、私はこの島の人間です」


「関係ないだろ」


「あります」


「あなたたちは外に出るべきです」


「勝手に決めんな!」



「私なら問題ありません」


「問題あるだろ!」


「使命です」


「そんなもん知らねぇ!」



「……ダメ」


 リゼが言った。


「誰も残らない」


「理想です」


「理想でもいい!」


「現実を見てください」


「見てる!」



 空気がぶつかる。


 感情と理屈。


 どっちも正しい。


 だから余計に——決まらない。



「……俺が残る」


 気づけば、口に出ていた。



「は?」


 三人の声が重なる。



「元々、俺はこの世界の人間じゃない」


「関係ない!」


 リゼが即否定。


「ある」


「ない!」


「あるって言ってるだろ」



「俺が一番リスク取るべきだ」


「違う!」


「他の三人はこの世界で生きてきた」


「……」


「俺は違う」


「……それでも!」



「……甘いわね」


 看守長が呟く。


「全員が同じこと考えてる」


「……」


「“自分が残る”って」


「……」


「それ、最悪のパターンよ」



 沈黙。


 言い返せない。



「……じゃあどうすんだよ」


 俺が言う。


「誰も残らない方法なんて——」



「あるかもしれないわよ」


 看守長が言った。



「……は?」



「さっきの話、ちゃんと聞いてた?」


「聞いてたよ」


「“完全には開かない”って言ったのよ」


「だから誰かが——」


「そこ」


 指を立てる。


「“完全には”よ」



「……つまり?」


 騎士が聞く。


「一瞬なら」


 看守長は笑った。


「全員通れる可能性がある」



「……!」


 空気が変わる。



「でも」


 リゼが言う。


「時間は数秒」


「そう」


「四人同時は——」


「厳しい」


 看守長は頷く。


「普通ならね」



「……何かあるんだな」


 俺が言う。


「あるわよ」


「言え」


「ヒントは二つ」


 指を折る。


「一つ」


「うん」


「結界は“誘導できる”」


「……」


「二つ」


「?」


「人間は“同時に動ける”とは限らない」


「……?」



「どういう意味だよ」


「考えなさい」


「またそれか」


「それが楽しいのよ」


「お前ほんとそれ好きだな」



 でも——


 分かる。


 完全な答えじゃない。


 でも。


 “道”は見えた。



「……やる」


 リゼが言った。


「この方法で」


「リゼ」


「誰も残らない」


「……」


「絶対に」


 まっすぐな目。


 さっきより強い。



「……いいでしょう」


 騎士が言う。


「その案でいきます」


「いいのか?」


「はい」


「ただし」


 一歩前に出る。


「成功率は極めて低い」


「上等だ」


「それでもやる」


「やる」



「いいチームね」


 看守長が笑う。


「ほんとに」


「お前が言うな」



 こうして——


 “犠牲なし”のルートが動き出した。


 難易度は跳ね上がった。


 でも。


 その分——


 覚悟も、固まった。

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