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第18話 『撤退と選び直し』

 結界の圧が、空間を押し潰す。


「……ぐっ!」


 リゼが膝をついた。


「リゼ!!」


「大丈夫……まだ……」


 大丈夫な顔じゃない。


 明らかに限界に近い。



「判断を」


 騎士が低く言う。


「このままでは持ちません」


「……」


 分かってる。


 でも——


「ここまで来て……!」


 足が止まる。


 ここで引いたら、次がある保証なんてない。



「……撤退よ」


 看守長が言った。


「は?」


「今は無理」


「でも——」


「聞きなさい」


 声が変わる。


 本気のトーン。


「ここで無理したら、全員終わる」


「……!」



「リゼ」


 看守長が目を向ける。


「限界でしょ」


「……まだ……」


「嘘ね」


 即切り捨てた。


「そのまま続けたら、壊れるわよ」


「……っ」



 沈黙。


 数秒。


 そして——


「……分かった」


 リゼが言った。


「一回、引く」


「いい判断よ」



「撤退する!」


 俺が叫ぶ。


「ルートはそのまま戻る!」


「了解!」


 騎士が即応。


 リゼを支える。



「逃がすな!!」


 背後から声。


 完全にバレている。


「来るぞ!」


「分かってる!」



 走る。


 全力で。


 さっき通った道を逆に。


 警報が響く。


 足音が迫る。


「速い……!」


「こっちよ!」


 看守長が別ルートへ曲がる。


「近道!」


「信じるぞ!」


「信じなさい!」



 狭い通路。


 急な段差。


 足を取られそうになる。


「気をつけて!」


 リゼの声。


「お前がな!」



「前からも来ます!」


 騎士が叫ぶ。


「挟まれるぞ!」


「……クソ!」



「こっち!」


 看守長が壁を叩く。


 ガコン、と音。


 隠し扉が開く。


「え!?」


「何でもありかよ!」


「管理者権限よ」


「便利すぎるだろ!!」



 中に飛び込む。


 扉を閉める。


 ガコン。


 静寂。



「……はぁ……」


 全員、息を吐いた。


 しばらく誰も動けない。



「……逃げ切ったか」


「一応ね」


 看守長が壁にもたれる。


「ギリギリだったわ」


「お前余裕そうに見えたぞ」


「演技よ」


「マジか」



「リゼ」


 俺はしゃがむ。


「大丈夫か」


「……うん」


 少し息が荒い。


 でも意識ははっきりしている。


「ごめん」


「謝るな」


「でも——」


「無理させたのは俺だ」


「……違う」


 首を振る。


「私がやりたかった」


「……」


 強いな、ほんと。



「今回で分かったわね」


 看守長が言う。


「何が」


「今のやり方じゃダメ」


「……ああ」


 完全に罠だった。


「結界は“弱くなる”んじゃない」


「うん」


 リゼが頷く。


「動くの」


「動く?」


「侵入しようとすると——」


「そこに集まる」


「……つまり」


「突破ポイントが固定されない」


「クソ仕様すぎるだろ」



「でも」


 騎士が言う。


「逆に言えば」


「?」


「“動きを読めば”抜けられる可能性があります」


「……なるほど」


 ただ突っ込むんじゃなくて——


 “誘導”する。



「あともう一つ」


 看守長が指を立てる。


「何だよ」


「内部協力者」


「……は?」


「さっきのタイミング」


 ニヤリと笑う。


「ちょっと出来すぎてたでしょ?」


「……」


 言われてみれば。


 警報のタイミング。


 結界の反応。


 全部が“用意されてた”感じだった。



「つまり」


「誰かが見てる」


「そして——」


「誘導してる」


「……」


 空気が変わる。


 さっきとは違う意味で、重い。



「面白くなってきたじゃない」


 看守長が笑う。


「全然面白くねぇよ」


「私は好きよ、この展開」


「だろうな」



「……でも」


 リゼが言う。


「まだ終わってない」


「……ああ」


「もう一回、やろう」


「やる」


 即答だった。



 失敗した。


 でも——


 終わってない。



 むしろ。


 ここからが本番だ。

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