9 ある国の伝説
むかしむかし、まだこの国のかたちが定まらぬころのこと。
どちらかしか食べてはならぬはずの赤薔薇と白薔薇をともに口にした王妃のもとに、一人の王子が生まれました。
その王子は呪いを受け、心も体も醜き竜としてこの世に現れました。
王子は長く孤独に苦しみ、花嫁候補を見つけては喰らうという恐ろしい日々を送りました。
しかしあるとき、老女の助言を受けた羊飼いの娘により、王子は人の姿と心を半ば取り戻します。
それでも魔法は完全には解けませんでした。
彼は半ば人、半ば竜という存在のままだったのです。
王子はその娘を妃とし、やがて王となりました。
人々は畏れを込めて彼を竜王と呼びました。
国は栄え、二人のあいだには二人の王子が生まれました。
しかし、人の心を取り戻したように見えても、竜の本性は完全には消えていませんでした。
あるとき、竜王の内に眠る獣がついに目を覚まします。
理性を失った竜王は、最も愛していたはずの妃を喰らってしまったのです。
その日を境に、人々は恐れました。
王の中の竜は、いつ再び暴れ出すのかと。
その頃、二人の王子は姿を消しました。
やがて彼らは、ガラスの山にて白鳥と鶴の姿で現れます。
彼らにミルクを飲ませると、彼らはあっという間に元の人間の姿に戻りました。
そしてすぐに二人の王子は、彼らの父が国にとってどれほど危うい存在であるかを知りました。
もし竜が再び暴れれば、国は滅びてしまう。
そこで彼らは決意します。
国を守るために、竜王を討つことを。
激しい戦いの末、二人の王子はついに竜王を討ちました。
こうして国は、竜の恐怖から救われたのです。
しかしその後、どちらが王となるべきかを巡り、二つの家のあいだで長い争いが起こりました。
やがて人々は悟ります。
白鳥の君の家は、美しく強く聡明であり、王として国を導く才に恵まれていること。
そして鶴の君の家の女性には、神々と語らう特別な力が宿っていることを。
これは争うための違いではありません。
神がこの国に与えた役割だったのです。
白鳥の家の男君は王として国を治め、
鶴の家の女君は神に仕え、人々を導く。
この二つの家があるからこそ、国は守られ、秩序は保たれています。
ああ、我々はなんと幸運なのでしょう。
王と巫女という尊き方々に導かれているのですから。
めでたしめでたし。




