4 外された首輪
首に、蛇のように這った手の感覚に背筋がゾッとする。
恐怖のままに思わず声を上げそうになる私の口を、トラニ様の大きな手が塞ぐ。
「…大丈夫だから、どうか静かに」
そうは言われても不安なものは不安で、怖いものは怖い。
トラニ様が酷いことはしないとは信じている。でも、でもだ…
「"ᚦ ᚺ ᛚ ᛞ ᛉ"」
震えながら目を閉じていると、トラニ様の声で不思議な音が発される。
その音の後に、心地良いような、不快なようななんともいえない感覚が来て、それと同時にトラニ様の手が私の首から離れる。そして、トラニ様の手とともに首からなにかが外れる感覚があった。
「…えっ?」
思わず目を開けると、そこにはやはり先ほどまで私の首についていた"首飾り"を持つ、トラニ様がいた。
「それって…」
その首飾りは、いわゆる首輪だった。
私はほかならぬトラニ様自身にそう説明されていた。私という透明人間につける、鈴つきの首輪。異世界人という危険分子が、外の世界に逃げ出さないようにするためのもの。
私は、この首輪をこの国に来た初日につけられて、それ以降外されることは一度もなかった。
その鮮やかな金の輪が、今はトラニ様の手元にある。
「なぜ…」
「"ᚱ ᚨ ᛉ ᛒ ᚨ ᛉ ᚱ"」
トラニ様はどこからか取り出した私の背と同じくらい大きな杖を、近くにあった小さなガラスの花に向け、また不思議な音を唱える。そして、その花をパリンと手折ると、私の髪にそっとつけた。
その花に触れたところから、私の全身に温かいものが巡り、力が漲ってくる。
「…魔術による監視はもはやない。私はなにも見ていない。行くべき場所にはその花が導くだろう。あとは好きにしろ」
「ど、どういうことですか!?」
背を向けるトラニ様の腕に縋り付くように掴みかかる。
なんにしたって意味がわからない。なぜ、トラニ様はこんなことをするのだ。
「あなたにこの国は相応しくない。だから、どうか出て行ってくれ」
そういうと、トラニ様はこちらを見ないまま、私の手を明確に振り払った。




