10 王冠の守り方
「それで、ジブンが白鳥の方の王子の子孫。トラニが鶴の方の王子の子孫ってわけ」
宙の口から語られたこの国の伝説は、ただの伝説に留まらず未だにこの国の造りに大きく関わっているらしい。
「つまんない話っしょ?ジブン、この話だーいきらい!」
宙は私のベッドの上を占拠し、そういって猫のように伸びをする。私もベッドに腰かけているが、場所の占有率は1:9だ。もちろん私が1の方。
まぁ、それはどうでもいいのだが、そもそもこういった物語に面白いとかつまんないという感想は適切なのだろうか?
この物語を聞いた時に湧き上がる感情なんて特になかったから、そういう意味では「つまらない」のかもしれない。でも、こういった物語は「そういうことか」と人々を納得させることが重要なのでは?と思わなくもない。
私としてはこの物語で色々なことに合点がいったし、その意味では役割を果たしているように思う。
つまり、この伝説が伝えたいのは、現在の"王権"と”祭祀権”の正当性だろう。
「トラニ様が”鶴の家”とか”白鳥の家”とか言ってた意味はこれでわかったんだけどさ、でもなんでトラニ様は”お飾り”なの?トラニ様は普通に鶴の王子の子孫なんでしょ?…あ、愛人の子供とか?」
思いついてそのまま言ってしまった最後の言葉に、言ってから思わず「しまった」となる。トラニ様のプライバシーに全力で踏み込む、あまりにも無神経な思考・聞き方だったかもしれない。
が、宙がそんなことを気にするタイプではないかと思い出し、少しだけ落ち着く。宙も自分と同じく"あんまり細かいことを気にしない人"なので、一緒にいると私の無神経レベルがどんどん上がっている気がする。
「そう!」
やはり…
「ってわけじゃなくて、シンプルに鶴の家は”女以外トップに立てない”から。ほら、さっきの伝説でもわざわざ”鶴の家の女君”って言われてたでしょ」
なんだよフェイントかけやがって…と思いつつ、愛人云々じゃなかったことに安心する。
正直そっちの方が…なんか色々複雑で触れにくい。
「”鶴の家”は男女関係なく”神と繋がれる”とされてる。だけど、この国では神と繋がる力は"女"のものなんだ。だから、男のくせにその技を使うトラニは軽蔑されてんの。色々馬鹿らしいけどね~」
なるほど?
この言葉を使うのは色んな意味で嫌だが、わかりやすくいうとトラニ様は”女々しい男”とされているのかもしれない。男のくせに女の力を使う奴と。
「でもね、本当のところは違うよ」
「えっ」
「こんなの建前に決まってんじゃ~~ん。偏見も本当だけど、生まれつき差別されること決定なんて色々理不尽すぎでしょ。それになにより、鶴の家の男たちだって間違いなく”王家の血縁者”だよ?なのにこんな風になってるのはおかしくない?」
差別なんて往々にして理不尽なものだとは思うが、言われてみれば”尊い身分”の人間たちの中にそれがシステムとして組み込まれているのはおかしな話かもしれない。
それにこの国の本とかを読んでいる限り、基本は男性優位な世界っぽい。以前読んだ『竜の王子』の物語でも、誰が王になるのかという話となると姫たちの存在には触れられていなかった。
なのにいきなり、鶴の家に限り”男性”が排除されるのは不思議だ。
「なんでかわかる?」
「…ノリ?」
私の思考を放棄した回答に宙は一瞬目を丸くしたが、すぐにぎゃはぎゃはと笑いだす。
そして、さぞ面白いことを話すかのように、そのまま笑いながら私に答えを教えてくれた。
「白鳥の家は未だにビビってんだよ。鶴の家の男たちに王権を奪われることを。だからあえてこういうシステムをつくったし、わざわざ伝説の文言に”鶴の家の女君”って入れてんの。まじでダセェ~~!」
白鳥の一族は、「基本男性の方が優位かつ、男性しか王にはなれない」と「鶴の家では男性は差別される」を同居させて、同じ”王族の血をひく男”でも鶴の家の男には王権が渡らないようにしたのだ。
性格が悪い手法だとは思うが、納得はできずとも理解はできる。
「どっちかが滅びるまで徹底的にやりあえばよかったのにさぁ。あいつら日和ったんだよねぇ」
「つまんない奴ら」と表情のなくなった顔で、心の底からつまらなそうに宙は呟く。
「というかそもそもさ!この伝説自体もバーンとか!ドーン!みたいなワクワクが欲しいよね?」
十分ドンパチは起きている気がするが、宙的にはなにか足りないらしい。
しかし正面切って否定するのも面倒くさいし、特にそこにこだわりもないので、適当に「そうだねー」と同意しておく。
「もっとロボが登場したりさぁ、頑張って欲しいよねぇ」
「そだねー」
今回宙に色々教えてもらったおかげで、あの山に行ったときのトラニ様の話が色々理解できた気がする。
「…あ、トキコもロボ好き?」
「そねー」
でもやっぱり、私を逃がそうとした理由はあんまりよくわからない。
「…。トキコの喋り方ってハダカデバネズミに似てるよねぇ」
「あーねぇー」
もしかしたらまだ私には伏せられていることが…
「ねぇ~!さっきからテキトーに対応してるでしょ~!」
「あ、バレた?」
ごめんって。
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