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第68節: 門戸開放宣言

いつも『元・社畜SEの異世界再起動』をお読みいただき、誠にありがとうございます。

第三巻『技術革新と交易の始まり』、その第二章『交易の夜明け』が、ついに本格的に幕を開けました。


前回、我らが大将ケイが、亜人の村と侮り、詐欺まがいの取引を持ちかけた商人バートを、その圧倒的な情報力で完全に制圧しました。フロンティア村は記念すべき最初の「利益」を手にします。

今回は、その勝利が村に何をもたらしたのか、そして、その裏で冷静に次なる一手を見据えるケイの、壮大な経済戦略が語られます。彼の言葉が、フロンティア村の未来を、新たなステージへと導きます。

それでは、物語が大きく動き出す第六十八話、お楽しみください。

熱狂は、一夜明けても、フロンティア村を温かい興奮のオーラで包み込んでいた。

村の中央広場に集められた、商人バート・ランガーから「譲り受けた」物資の山。それは、この村の住民たちが、これまでの人生で一度も目にしたことのない、豊かさの象徴だった。子供たちは、生まれて初めて見る絹の布の滑らかな手触りに、歓声を上げている。女性たちは、未知の香辛料の匂いを嗅ぎ、これから作られるであろう、新しい料理の味を想像して、目を輝かせていた。


そして、何よりも彼らの心を躍らせていたのは、庁舎の一室に、厳重に保管された、あの、輝く金属の円盤――貨幣の存在だった。


「すげえ……!


これが、金貨……!」

「これで、俺たちの村も、人間の国に負けねえくらい、豊かになれるんじゃねえか!?」

「これも全部、大将のおかげだ!」


若い獣人たちが、口々に興奮の声を上げる。その熱気は、庁舎で開かれていた、臨時のリーダー会議にまで、伝わってきていた。


「へっ、聞いたかよ、大将。みんな、大喜びだぜ」

ガロウが、その傷だらけの顔に、満足げな笑みを浮かべて、腕を組んだ。

「あの、ふざけた商人を、コテンパンに伸して、これだけの宝の山を、ぶん捕ってきたんだ。当然っちゃ当然だがな!


これで、当分は、村の暮らしも、安泰ってもんだ」


その、あまりにも楽観的な言葉に、会議室に集まった他のリーダーたちも、次々と頷いた。彼らにとって、今回の「交渉」は、完全な勝利以外の、何物でもなかった。


だが、その熱狂の中で、ただ一人。

ケイ・フジワラだけが、冷静な、氷のような瞳で、テーブルの上に広げられた、一枚の羊皮紙を見つめていた。そこには、今回の取引で得られた、物資と貨幣の、詳細なリストが、彼の、正確無比な文字で、びっしりと書き込まれている。


「……安泰、ではないな」


ケイの、静かな、しかし、その場の空気を一瞬で凍りつかせる、否定の言葉。

会議室の、浮ついた空気が、ぴんと張り詰めた。


「……ど、どういうことだ、大将?」

ガロウが、怪訝な顔で、問い返す。

「これだけのモンが、手に入ったんだぜ?


何が、不満だってんだ」


「勘違いするな、ガロウ」

ケイは、顔を上げることなく、リストの一点を、指でなぞりながら、言った。

「今回の、僕の目的は、この、目先の利益ではない。これは、あくまで、プロジェクトの、副産物に過ぎない」


彼は、ゆっくりと顔を上げた。その、青い瞳には、勝利の余韻など、微塵も浮かんでいない。そこにあるのは、次の、巨大なプロジェクトを見据える、プロジェクトマネージャーの、どこまでも、冷徹な光だけだった。


「僕が、あの商人に、あえて、あの二つの品を渡したのは、なぜだと思う?」


その、唐突な問い。

リーダーたちは、顔を見合わせた。

「そりゃあ……奴が、持ってたモン、全部を、ふんだくるための、交換条件、みてえなもんじゃねえのか?」

ガロウが、正直な感想を、口にした。


「違う」

ケイは、きっぱりと、首を横に振った。

「あれは、『投資』だ」


「……とうし?」

聞き慣れない言葉に、獣人たちが、首を傾げる。


「そうだ。僕たちは、あの商人に、鍬と、ポーションという、二つの、『未来への種』を、植え付けたんだ」

ケイは、立ち上がると、会議室の窓から、村の外へと続く、自分たちが作り上げた、街道を、指さした。

「あの商人は、今頃、絶望と、恐怖と、そして、ほんの少しの、未練を胸に、ギルドへと、帰還しているだろう。そして、彼は、報告するはずだ。自分が体験した、全ての、異常な出来事を」


彼は、ゆっくりと、語り始めた。

彼が、あの、絶望の淵にいた商人に、託した、本当の、メッセージを。


「彼は、言うだろう。『見捨てられた土地』の奥地に、亜人の、狂った村がある、と。そこには、これまでの常識が、一切、通用しない、化け物のような、鋼の道具と、奇跡の薬が、存在する、と。そして、その村のリーダーは、小賢しい嘘を、全て見抜き、不誠実な相手には、容赦しない、冷酷な、悪魔だ、と」


その、自分自身を、悪魔と称する、平然とした物言い。

リーダーたちは、ゴクリと、喉を鳴らした。


「その報告を聞いて、ギルドの、上層部が、どう動くか。それは、僕の、今の知識では、正確には、予測できない。おそらく、警戒し、我々を、危険な、管理不能な、存在と見なし、何らかの、干渉をしてくるだろう。……商業ギルドという、巨大な、既存システムにとって、僕たちは、あまりにも、イレギュラーな、バグだからな」


だが、と、ケイは、続けた。その、口元に、初めて、不敵な、笑みが、浮かぶ。

「だが、ギルドの、末端の商人たちは、どう思う?


『あの、抜け目のないバートが、全財産を、巻き上げられただと?』、『だが、その代わりに、金貨百枚の価値がある、宝物を、手に入れた?』、『その村には、まだ、誰も知らない、宝の山が、眠っている?』……」


彼の言葉は、まるで、人の、心の、最も、深い部分にある、欲望という名の、導火線に、火を灯していくようだった。

「リスクは、高い。だが、リターンは、計り知れない。……商人とは、そういう、生き物だ。危険な、場所にこそ、最大の、儲け話が、眠っていることを、彼らは、本能で、知っている」


彼は、再び、リーダーたちへと、向き直った。

「あの商人は、最高の、広告塔だ。彼は、これから、大陸中に、フロンティア村の、噂を、広めてくれる。恐怖と、そして、それを、遥かに上回る、欲望の、物語をな。……やがて、来るだろう。ギルドの、監視の目を、潜り抜け、自らの、命と、財産の、全てを賭けてでも、一攫千金を、夢見る、命知らずの、商人たちが、この、街道を通って」


その、あまりにも、壮大で、そして、あまりにも、底意地の悪い、計略。

ガロウたちは、もはや、言葉を、失っていた。

自分たちが、目先の、勝利に、浮かれている間に、この、小さなリーダーは、その、遥か、先を、見据えていたのだ。


「その時こそ、僕たちの、本当の、経済戦争が、始まる」

ケイは、宣言した。

「僕たちは、彼らを、競わせる。我々の、製品の、本当の価値を、彼ら自身に、提示させるんだ。そうやって、僕たちは、この、大陸の、経済の、物差しを、学び、そして、いずれは、その、物差しそのものを、僕たちの手で、作り変える」


「……待て、大将」

その、あまりにも、過激な言葉に、ドゥーリンが、初めて、口を挟んだ。彼の、髭の奥の瞳には、深い、懸念の色が、浮かんでいた。

「……つまり、貴様は、これから、もっと多くの、人間を、この村に、招き入れる、と、言うのか。……わしは、好かんぞ。人間の、その、欲に塗れた、目は、反吐が出る」


その、真っ当な、懸念。

それは、ガロウや、他の、獣人たちも、共有する、感情だった。

その、不安の空気を、読み取ったかのように、ケイは、静かに、しかし、力強く、首を横に振った。


「僕も、好きではない。だが、これは、僕たちの、理想を、実現するために、避けては、通れない道だ」

彼の、声が、静まり返った、会議室に、響き渡る。

「僕が、君たちに、約束した、世界。それは、全ての種族が、尊厳をもって、生きられる、世界だ。その『全て』には、当然、人間も、含まれている。……僕たちは、彼らを、拒絶するのではない。彼らに、教えるんだ。僕たちの、やり方を。僕たちの、ルールを。そして、僕たちの、理想を」


彼は、窓の外、活気に満ちた、自らが作り上げた、理想郷を、見つめた。

「力による、支配ではない。憎しみによる、断絶でもない。僕たちが、目指すのは、圧倒的な、技術力と、そして、揺るぎない、理念による、『共存』だ。僕たちと、取引をしなければ、生きてはいけない。僕たちの、ルールに従わなければ、利益は、得られない。そう、彼らに、理解させる。……それこそが、僕が、この、経済戦争で、目指す、本当の、勝利だ」


そして、彼は、全ての、仲間たちに、聞こえるように、高らかに、宣言した。


「――故に、フロンティア村は、今日この日より、その門戸を、全ての、来訪者に、開く!」


「我々は、選ばない。人間も、亜人も、善人も、悪人も。この村を訪れ、我々の、ルールに従う、意志のある者ならば、誰であろうと、歓迎する。そして、公正な、取引を、約束しよう」


「我々は、もはや、隠れ住む、弱者ではない。我々は、この、大陸の、新しい、時代の、中心となる、開拓者だ。その、誇りを、胸に、堂々と、外の世界と、向き合おうではないか」


その、あまりにも、大きく、そして、あまりにも、眩しい、未来の、ビジョン。

会議室にいた、全ての者が、その、言葉の、持つ、熱量に、当てられていた。

人間への、不信感も、未知への、恐怖も、その、巨大な、理想の前には、ちっぽけな、問題にしか、思えなかった。


ガロウが、最初に、その、傷だらGらけの顔に、獰猛な、笑みを、浮かべた。

「……へっ。……面白え。やってやろうじゃねえか、大将。その、フロンティア村の、どデカい、夢物語に、俺も、乗ってやるぜ」


その言葉を、皮切りに、ドゥーリンも、エリアーデも、そして、他の、全てのリーダーたちもまた、力強く、頷いた。

彼らの心は、今、確かに、一つになった。


ケイは、その、仲間たちの、力強い、眼差しを、一身に受けながら、静かに、頷いた。

彼の、プロジェクトは、また一つ、大きな、そして、後戻りのできない、フェーズへと、移行した。


その、歴史的な、宣言が、行われている、まさに、その時。

フロンティア村の、街道の、遥か、彼方では。

一人の、商人が、もたらした、衝撃的な、噂が、まるで、燎原の火のように、大陸の、裏社会を、駆け巡り始めていることを、まだ、誰も、知らなかった。

その、噂が、やがて、フロンティア村に、次なる、混沌と、そして、新たな、出会いを、もたらすことになるのを、まだ、誰も、予測できてはいなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


フロンティア村の、記念すべき、最初の交易が、もたらしたもの。それは、目先の、利益だけでは、ありませんでした。ケイが、その先に、見据えていたのは、大陸全体の、経済を、支配するという、壮大な、野望。

そして、そのための、「門戸開放宣言」。

彼の、理想は、ついに、この、小さな、理想郷の、外へと、溢れ出そうとしています。


さて、ケイの、思惑通り、商人バートが、もたらした噂は、大陸中に、広まっていきます。

次回、その噂に、最初に、食いついてくるのは、一体、どのような、人物たちなのか。

フロンティア村に、次なる、来訪者が、訪れます。


「面白い!」「ケイの、戦略、えげつない!」「門戸開放、どうなる!?」など、思っていただけましたら、ぜひブックマークと、↓の☆☆☆☆☆での評価をお願いいたします。皆様の応援が、フロンティア村の、門を、さらに、大きく、開く力となります!


次回もどうぞ、お楽しみに。

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