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小隊の変遷と報酬(2)

いつもなら自分のした事に自信を持てないが、今回はちがう。

便利な調理器具、美味しくて便利な食材、そしてディートリンデの特製レシピ。

本格的に料理を作って来なかったツェトラにはもったいないほどの条件が、一挙に揃っていた。


さすがにビシュラの風邪を一気に吹き飛ばすところまでは行かないが、卵の粥とデザートは概ね好評であった。

豊かな食生活を送って舌の肥えたハガネと奥方のクウィディからも、練習して行けばもっと料理上手になれるとのお墨付きをいただいた。


「エメに頼りすぎてたのかな」

「どうでしょう……びっくりしていますか?」

「うん。自分でできることが増えるって、嬉しいはずなんだけど」


諸君も休むべきだ、との師匠の言葉に従い、交代でビシュラの様子を見ながら休息を取ることにした。


昼間からぬるめの湯に浸かり、甘いホットジュースを飲んだとはいえ、エメリットの方からツェトラにもたれかかって甘えてくるなどは、常にはないことである。

さてはホットジュースに火酒ブランデーでも垂らしてあったな──と思いつつ、腹心のメイドに膝枕して、彼女の黒髪を丁寧にかす。


「お酒の力を借りて休むなんて……我ながら先が思いやられます」

「まあ、寒いところなら割と当たり前な飲み方だし」

「でも……」


「わたしも前から気になってたんだ。エメはちょっと働きすぎだよ」

「……すみません」

「心配かけてごめん。いつもありがとう」


たまにはエメの世話を焼かせてほしい、と言い添えた。

恥ずかしそうにうなずいたのへ、少し寝るかと声をかける。

また頷いたのを見て、ベッドを兼ねたソファの背中を倒した。

自ら横たわってうとうとし始めた親友に、アイテムボックスから取り出したふわふわ毛布をかけて、髪をひと撫でして、離れる。


もう一人、世話を焼かなければいけない人がいるのだ。

ただ1人まったく眠くなさそうなニアと弱アルコール飲料を酌み交わしている(お酒は16歳をすぎてから)ものの、ハイジェンジヤも先ほどからうつらうつらと舟をこいでいる。


ツェトラは少し離れた位置にあるガラスのテーブルで向き合う2人に近づいた。

「ハイジェ、そのへんにしてお昼寝でもいかがですか。せっかくの休日です。わたし達のために徹夜もしてくれたでしょう?」

「そうだねぇー。今日はお開きにしよ~う」


半龍人の血を引くわりに酒には強くないのか、足元がおぼつかない陽気な酔っ払いをニアが支えて歩く。

エメが行儀のよい寝姿で寝息を立てるソファベッドに来ると、繊細な壊れ物を扱うかのように、そっとハイジェを寝かせた。


「ありがとう。ニアは眠くないの?」

「大丈夫です。例によって、夜戦の訓練も積んでおります」

「なんでも訓練するのね」

「国民の税金で給料を戴いていますので」


と言いつつ、愛する主君の異母妹に褒められて悪い気はしないのか、珍しく恥ずかしそうに頷いてみせる。

「お休みはどうでしたか」

「ゆっくりと過ごしました。最初の3日ほどはヴィルジーナ様が昏々と眠っておられて、ちょっと心配になったりもしましたが……」

「そんなに激務なのね」


「あまり冒険者諸氏の仕事を奪ってもなるまいが、とも仰せですが、国の治安を預かっている以上は騎士団も奮闘せねばとのお考えで。休暇が明けてからは領の東側へ派遣する精鋭部隊を編成されています」


「東かぁ。どんな所なんだろう」

「特異な地形と厳格な気候から、ほとんどが魔族の自治領となっています。興味がありますか」

「世界中を回ってみたいのはある。人を待たせてるし」


「なるほど、では、色々と入用ですな……お渡ししそびれていた報酬をば」

「助かる~!」

「まずはこちら」


鑑定額40万クレジットのダイヤモンドが2つ──ジャセンタ達のスカウト料金だ。

調達してくださったのはウェンドリン陛下で、使い道をよく考えてみるようにとのメモが添えてある。


「こちらは北方駐留部隊のアーヴィング殿からです」

「うまく行ったかしら」

「楽しそうにしておられましたよ」


アーヴィング達の様子を話題に談笑しながらかわいらしい包装を開くと、1冊の魔導書が出現した。

あとで解読してみようと思っていると、ニアが「それから……」またアイテムボックスを探り始めた。


「まだあるの!?」

「ご不要なら自分がいただきますぞー?」

冗談めかした帝国騎士の言葉に、ツェトラは慌てて首を横に振る。

2022/1/17更新。

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