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『影』と鍛錬の迷宮(1)

ツェトラ達はエメローデ陛下のリクエストを叶えるために、1泊2日分の休日を取ることにした。

女王陛下の明日のお相手を務めるハイジェとアルトがどのように過ごすのかを尋ねるつもりはないし、口出しもしないつもりだ。

いくら仲の良い小隊パーティでも、それぞれのプライベートを大事にしてあげたい。

ニンジャに準ずる高機動部隊『影』(仮)の創設メンバーを集めるまでと期間を区切って共に行動するヒエンに干渉していないのと同じことだ。


ツェトラは久しぶりに2人だけで過ごしたいとメイドにわがままを言い、快く同意を得て、今夜は街の東端の門を通った先の森林キャンプ場を借りて、テントで過ごすことにした。

格闘士グラップラー】としての経験を積んで、腕前もめきめき上達しているけれど、エメリットは飽くまでツェトラにとって一番の親友兼メイドでいようとしてくれている。


すっかり主要武器メイン・ウェポンになった『爪』をナイフやマッシャー、鉄鍋に次々と持ち替えては、見栄えがよくておいしそうな夕食をととのえてくれた。


「一体いつ勉強してるの? 料理とか」

猪豚のブロック肉を豪快に(手袋をしただけの素手の一撃!)叩き潰して丸めた大きな肉団子を浮かべたホワイト・シチューを食べながら、親友の料理のレパートリーがどんどん増えている理由を尋ねてみる。

「旅する間に体力にも自信がついてきましたからね。毎日眠る前の10分ほどを読書にてています」

「ん~、さすがエメね」

きちんと読書の時間を確保して学び続けている事と、大きくて食べ応えのある肉団子を浮かべたシチューのおいしさを一挙に褒めると言う横着なツェトラの態度を、しかしエメリットは少しも責めない。


「……やっぱりツェトラさまにおめいただくのがいちばん嬉しいです、あたし」

心地よさそうに目を閉じ、片手を自分の胸にそっと当てて、呟くように言う。


「そう?」

「はい」


ツェトラは少し考えて、

「好きって言われたら、どんな気持ちになる?」

「ツェトラからですか? それとも他の人?」


「他の人」

「そうですねぇ……ツェトラほど特別ではないですけど、やっぱり嫌われてしまうよりは言い気分になれると思いますよ」


「そっか」

「どうされましたか」

「"エメ"に好きだって言われたの」

「ほほう! どうお答えしたんですか」

「とりあえず周りの人にちゃんと気持ち伝えてからにしてね、って」


「あー……たくさん居そうですもんね」

「たぶん家臣の女の子たち全員が()()だよ、エメローデの場合。わたしのことを気に入ってくれたのは嬉しいけど、そこまで余裕があるかしらね」

「魔法の手紙はしばらく届かないでしょうね。あたし以外だと初めてですよね? 好きだって言われるの」


「うん。びっくりした。どうしようかと思ったよマジで」

いちばん大切なのはやっぱりエメリットだから。

真っ赤になって言ったら、真っ赤になって頷いた。


続けて、何かやりたいことはないか、と尋ねてみた。照れ隠しのつもりだった。

シャダルの宝石細工は半分ほど売り飛ばしてしまったが、少し遊んだり投資したりする余裕はまだある。


「エメローデ陛下とお話した時に、ツェトラさまと一緒にもっと強くなってみたいって相談したんです」

「ふむふむ」

「そしたら、料理とクッキーのお礼だと仰って、これをくださいました」


長短あわせて8個もの鍵が銀の輪っかに連なった鍵束を取り出して、エメが言った。

「この先の森の迷宮の地下5階に、ぜんぜん違う場所に通じる魔法の扉があるそうなんです。行先は行ってからのお楽しみって事でした」


「それは行ってみたいね! ……なんだか用事ばっかり増えてるような気がするけど」

「イベントがいっぱいある方が楽しいですよ」

「そうだね。ひとつずつ楽しく解決して行こう」


「お供します……お傍においてくださいね、ずっと」

「うん。ずっと居てね」


互いのことで胸をいっぱいにしながら、シチューを食べ切る。

浅い階層でも迷宮に潜るならテントをもっと機能的なものに買い替えなくてはならない。

明日はまた繁華街で買い物をしようと約束し、静かな秋の森林の夜を静かに過ごした。

2021/12/24更新。

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