さあ忍者を探そう!(1)
腕利きの【忍者】を探し出し、しかも帝国騎士団にスカウトまでしなくてはならない。
絶対に、とまでは言い切らないが、ほぼ無理な難題である。
けれど『駄目な理由』を列挙するような気の滅入ることは最初からしたくない。
行動するからには十全に働き、良い結果を生み出せるものとして、前向きに考えたいものだ。
ツェトラは、3日間の休暇を利用して準備を整えた。
体調が回復した愛馬をハイジェに魔法で呼び寄せてもらい、シャダルの宝石細工をまた1つ売った資金の一部を使って3人分の駿馬も調達した。
食料や着替え、使い捨ての装備などを1日かけて補給し、残る1日半を休息に充てて体力を全快させた。
満を持して、一足飛びに『雪と氷の魔法都市』へと向かう。
その飛ぶ如き途上──。
「本当に馬に乗らないんですか、アルト」
「あ、もしかして不気味だったりする? 飛んだ方がよかったかな」
「飛べるの?」
「うん」
「……やっぱり歩いてください」
「はいよー」
自ら強い魔力を持つ馬と、魔法の馬具を身に着けて走る寒さに強い駿馬が3頭。
アルト=ブラッドはツェトラの旅路を加速させた馬たちの速度に、ただ歩くだけで追いついてきている。
全身から紫の燐光をわずかに発しながら平然と歩く姿は、同じ道を辿ってすれ違う者も驚かせたが……その人々も馬で駆け抜けてゆくので、まあ、二度見される程度である。
愛馬たちに先を急いでもらい、日が暮れる前に、ついに目指していた大都市に到着する事ができた。
御名が親友のメイドと似ているから、という単純な理由だけで、ツェトラはまず『小女王』ことエメローデ陛下にお会いしてみようと思った。
アルトが連絡をつけてくれて、陛下からもノリノリな文体でお忙しいスケジュールに会見をねじ込んでくださったとのお返事をいただいている。
「うわぁ……これは壮麗にござるなぁ」
秋の西日に照らされる街並みを眩しそうに眺めて、ヒエンが呟く。「兄上と来たかったものだ……」と続ける表情は明るい。
休暇中にアルトとよくよく話し合ったた結果──できるだけ本名を名乗らないと決めたと同時に、兄アーヴィングのことを早く忘れようとするのもやめたらしい。
その事が却って彼女の自立を早めるだろう、とアルトは言っていたが……。
いきなり「恋って何だろうね……?」なーんて問うでもなく問うてエメを驚かせたほどには、ツェトラも気になっていたりする。
だから、いちばん美しい時間帯に燦然と存在する街を散策してみようと提案した。
「良いのですか、ツェトラ殿!?」
「大丈夫よ、陛下とお会いするのは明日だし」
ヒエンは彼にしては珍しく、嬉しそうに馬を操って街路を進む。
大抵の街には入り口付近に馬を預けるための厩舎が置かれているが、帝都よりも巨大な都市を歩くには馬から降りては不都合だ。
うきうきと馬を歩ませるヒエンの後を愛馬に追わせつつ、ツェトラは眼鏡を取り出して街の造りを把握しようとした。、
ぐるりと見渡せば、独立国に等しい自治を認められた広大な都市国家の首都を、広大な森が緩やかに囲んでいるのが分かる。
首都の市街地は幅広い街路によって網の目のように区切られており、街の南端に据えられた大きな門から見て北側に構築されている。
ハイジェが馬上で手にしたローレンス卿の直筆ガイドブックに曰く。
大都市に到着した旅人は、まず多数の商店が形作る賑やかな繁華街の出迎えを受けることになる。
大いに飲み、大いに喰い、大いに買え。
楽しみという楽しみを供することさえできる国力に驚嘆するだろう。
学業を志すならば繁華街を北へと抜け、そこから西へ分かたれた道の先の建物を目指すべきだ。
その白亜の建造物群こそ、魔法を重んじる都市国家の象徴たる巨大な魔法学校である。
国民のほぼすべてが自宅を解放して営む民宿や酒場を活用して冒険気分を味わったり、鍛錬の日々を過ごしたいというならば、街の東側へと進むべし。
貴賤の別なく穏やかに暮らし、客人を温かく迎えんとする人々に見送られて東端の門扉を開けば、鬱蒼たる森とその先の迷宮が待っている。
そのどちらも選ばぬ者は、女王陛下のお許しを得た幸福な者である。
何らの遠慮もすることなく、ひたすら北へと街路を進むが良い。
2021/12/18更新。




