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巻き込まれてラブ・コメディ!?(4)

さっきからずっと中年男の愚痴と破壊的なまでの妄言を聞いているせいか、温和なツェトラもさすがに苛立ってくるのを自覚していた。

ソアンタイグの心の中の時計は10年も前の事故の時点で止まり、言っても仕方ないことや考えてもどうしようもないことで頭が隙間なく埋まっている。


彼は強き英雄や勇者たちの物語を読まなかったのだろうか?

娯楽に少しも触れて来なかったのだろうか?

楽しいことを楽しいとも思えないまま過ごすしかなかったのだろうか?


ちがう、そんなことじゃない。

わたしが苛立っているのは──。

首をゆっくりと横に振り、強引に気分と思考を切り替えた。


ハイジェは派手な口げんかをしながら相手の魔力を抑え続けるなんて芸当をやってのけている。

幾ら何でも集中力がたないだろう。

その証拠に、激しく干渉する魔力に引きつけられて、多数の魔物の気配が忍び寄ってきている。


自らのなすべきことを確認するために、指揮者を気取って小隊に話しかける。

「エメとアルトは魔物を排除して状況の維持を。ちょっと家庭の問題に首突っ込んできます」

「はい!」

「りょーかい。上手く説き伏せるんだよ」


武器を構えた親友たちが庭木の陰から飛び出すのを確認してから、ツェトラも転移魔法を行使した。


──。


部隊の詰め所に戻ったツェトラは、副長と3人の女性たちの姿を探した。

副長の実家へ向かったと他の騎士から聞き、魔力の探知が得意だという若い騎士に頼んで探してもらった。

実家と詰所の間くらいに居ると分かると、すぐに転移魔法を行使して合流した。


「ツェトラ殿!? なぜ……」

「正しいご判断です、アーヴィング殿! やはり、あなたが彼と話さなければ何も解決しない!」

問答無用で『加速』を行使し、見えざる魔法の手(現在の最大出力)で4人の背中をどーんと押す。


疾駆する馬よりも、飛翔する鳥よりも早く戦いの現場に戻ると、ハイジェとソアンタイグの魔法戦は既に決着していた。

中年男は車椅子の上で力なくうなだれ、魔導師見習いも膝から地面に崩れ落ちている。

コーンウォル子爵は……既に立ち上がり、2人を守って果敢かかんに魔物どもと戦っている。


「ハイジェ!」

「ツェトラ。私がんばったよ」


走って近づき、消耗しきった彼女の言葉に何度も頷きながら助け起こす。

「まだ頑張れる」と空中の魔物に向けて攻撃魔法を行使しようとするのを、抱きつかんばかりに身体を寄せて強引に押しとどめた。

これ以上は無理だ。


「援軍を連れて来ました。ここは任せましょう」

「うん……上手くまとまるかな?」

「大丈夫。きっと楽しいラブコメに戻りますよ」


いま正にいかずちぶべく空へ掲げんとした魔導師見習いの腕をやさしく取る。

白い手の甲にくちづけ……するのは自重じちょうし、安全な場所までゆっくり移動して結界を展開した。


「格好つけてるねぇ」

「バレてますか。似合いませんよね」

「いいと思うよ……私のママだって、パパのかっこいい所を好きになったんだもの」


やわらかく微笑みながら、ハイジェが「ねえ」と思いついたように言う。

「私とラブコメしてみる?」

「え、ええーとですね……あえて恋愛ゲームブックを例にとりますと、わたしは既にルートが確定しておりましてですねぇ……」

「分かってるけどいいじゃん別にぃ。女の子同士なんだし邪魔したりしないしさぁ……減るもんじゃないって。それとも私とじゃ嫌?」


「いえ、ハイジェンジヤはとても魅力的ですっ。わたしよりむしろウィシュメリアお姉様の方がお似合いなんじゃないかと思ったりもするのですがどうでしょう!?」

とんでもない早口で言い訳だか提案だかをしながら、残しておいた魔力をハイジェに分け与える。


分かってて甘えてるんだと思うし、そうしてくれるのはとても嬉しい。

遊ぶような提案を受け入れるのも悪くないかもしれない。


それより何より迂闊うかつなことに、早くも『三美(トリニティ・)姫帝(エンプレス)』と呼ばれるようになった(本人たちは大変に照れておいでのようだが)異母姉の1人の御名ぎょめいを簡単に挙げてしまった。

さて、正直に話す以外に、一体どう説明するべきだろうか。


ツェトラは自分もラブコメの主役になったような気分になりつつ、奮戦を続ける5人の騎士たちに身体強化魔法を行使した。

2021/12/16更新。

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