巻き込まれてラブ・コメディ!?(5)
ハイジェとラブコメするかどうかはさておき。
ツェトラは最初に受けた依頼を果たすため、大きな誤解の上に成り立っているノルトハイム兄弟の今の関係を打破する必要があった。
魔力を一気に失って眠りこけたソアンタイグをとりあえずブルー・ナイツの詰め所に運び込むと、食事と睡眠を最優先にして1日を潰した。
そうして元気を取り戻すと、翌日の早朝から兄を介抱するアーヴィングを詰め所の医務室に尋ね、詳しい話を聞こうとした。
「かくかくしかじか!」
「まるまるくまぐま! ……って、ンなわけありますかっ! ちゃんと話してください!」
とても重要な話をわずか一言の符丁で分かってもらおうとしたテキトーな騎士を(冗談だと知りつつ)一蹴し、改めてソアンタイグの主張していた内容を整理して伝える。
小さな冒険者のノリのよさを見て喜んでいたアーヴィングが、一転して静かに腕を組んだ。
「まず、兄上の事故をベルガモッド団長や私や他の兄弟姉妹が仕組んだという事実はありません。もしそのようなことがあれば、私は騎士団に取り立てられていません──私は光栄にも、ヴィルジーナ陛下の直々の面接を受けて帝国騎士となったのですから」
「そうでしたか……。ソアンタイグ殿には残念でしょうが、どうにかご理解いただくよりありませんね」
お姉様にお尋ねすれば一発だったか、と思わなくもなかったが、話が進まなくなるので、ツェトラは口を滑らせないよう注意した。
「ええ……兄が妄想に頼らねばならなくなった原因は私にあるのでしょうけれど」
アーヴィングが飛びぬけた才覚を持ち、人間的にも優れた騎士であることは、詰め所に住まう者らの話をまとめればすぐに分かる。
"星"について他人に根掘り葉掘り尋ねるのが好きではないから、先にすべての事実を確認するよう進言して了承を得た。
「貴公の兄上は特別な魔法の才能をお持ちのようです。ご存知でしたか」
「いいえ……屋敷で一緒に暮らしていた頃は、毎日毎晩にわたって責められ続けていましたので、彼と話す気にはなれませんでした。いま思えば何と残酷なことか」
「仕方のないことです。お気持ちはお察しいたしますが、あまりご自分を責めるべきではありますまい」
「そう思います。ありがとう、ツェトラ殿」
「とんでもない。……それで、今の貴公はどうなのでしょう? 兄上と仲直りしたいと思われますか」
「是非に。私は己の心の中に兄上に対する負い目を持つゆえ、私自身の恋愛喜劇を楽しむ事ができていません。他のことに心を囚われたまま女性たちから心を寄せてもらうことなどは、とてもできかねる」
「あ、自覚があったんですね。ちょっと意外」
「ははは……ピアはよく口が回りますし、アルパは隠し事が上手くありません。シュピラーレは冷静なタイプですが、まぁ、どう思われているかくらいはいくら何でも分かりますよ」
「俺ってかっこいいし天才だから好かれて当然~」
「ンなわけありますか。常日頃からありがたいと思っていますし、真剣に応えたいと思っています。当たり前でしょう」
「3人を一手で幸せにできると?」
「ええ。その為ならいくらでも自分を変えます。それで不足ならば周囲を、それでもだめなら環境を」
「……わかりました。が、もう一人のことはどうしますか」
ここで「それは誰ですか」などと言おうものなら引っ叩いてやるところだったが、若き騎士はそうせず、ハンサムな顔を曇らせた。
「……。……彼女に応えることだけができない。私には、どうしても」
「手放してよいと?」
「なおも手元に捕えておこうとする方が冷酷ではないか、と。どうすればよいでしょうか」
「……とのことですがどう思いますか、ヒエン殿!」
ツェトラがあらぬ方向に向けて呼びかけると、黒ずくめの小柄な姿が即座に出現した。
アーヴィングが驚きを全身で示し、それから穏やかに笑む。
「盗み聞きは感心しないな、ヒエン」
「ある女子より依頼を受けてござる」
「伝えてくれ。"お前を愛しているが俺にはどうしようもない。どうか許せ"と」
「依頼主も喜びましょう。拙者もご伝言をお伝えせぬわけには参りません、アーヴィング殿」
「聞こうか」
「"幼い頃からずっとお慕いしておりました。どうかお幸せに。3人のうち誰かを少しでも泣かせようもんなら地の果てまで追いかけてブン殴りますのでそのおつもりで"とのことにござる。……怖いですなぁ、」
他人事のように「くくくっ!」と愉快そうに喉を鳴らして、半猫族の【忍者】は煙のように消えてしまった。
2021/12/16更新。




