どうしてもないというなら作りましょう!(2)
勝負事に必ず負ける。どうあっても物事が自分で考えたようにはならない。
バルバロイが『不運』の"星"を持っていることは間違いないだろう。
普通なら、物事についての予測や推測を行えば、1割だか2割だかで『あたり』を引くもんである。
テストの結果を受けてエメが呼んで来たアラルガントも、めったに見ることのない"星"だと言って腕を組んだ。
巨人族の魔導師は「妙案を持ち帰るゆえ暫し待たれよ」と言って目を閉じ、自らの思考の渦に沈み込んだ。
皆が彼の帰還を待った。
気まずい沈黙をどのくらい耐えただろうか。
アラルガントがようやく思考の渦を脱し、数十冊のノートを取り出した。
「儂の20年来の趣味は、『希望と瑞宝の島』で行われる『戦王競技』を観戦すること。7人の『王』が1年にわたって準備を重ね、世界規模の戦いを経て、その年の支配者を決めるゲームじゃ。観客はそれぞれ誰が勝利するかを予想して賭けを行う──これはそのゲームの観戦記録というやつよ」
「拝見します、アラルガント師」
許しを得たツェトラがノートをめくる。
7人の王がそれぞれどのような能力・兵力を以って、どのような戦略で『戦王競技』に臨んだかのデータが20年ぶん、理路整然とまとめ上げられている。
ツェトラが浅く息をついてノートを閉じたのを見計らって、アラルガントが大きな身体をバルバロイの方に向けた。
「貴公を責める意図はまったくない」と前置きして安心させると、
「これまで貴公は、勘や願望で予測を立てて来られた。起こそうとする行動や目の前の事物に関して、情報を集めて慎重に考えることは決して多くなかったはずじゃ」
バルバロイが頷く。
魔導師が続ける。
「感情が命ずるままに人生を歩むのは決して悪いことではない。人生とはギャンブルだと開き直り、失敗を含めて楽しもうとする者も多い。……貴公のように真面目で一本気であったり、端っから運がないと、まあ少しばかり不利になるがのう」
「では、魔導師殿。私が大きな家族を運営し続けるのにふさわしく自らを変えるとすれば、師はどのように動くのが良いと思われるでしょうか」
「うむ。利点のない"星"をあえて活用せんとするならば……必ず負ける予想屋というのはどうじゃろうかな。ギャンブルにおいて貴公の予測の逆に賭ければ儲かると、大いに宣伝するわけじゃよ」
実際の宣伝などは口が回るハンナや彼女の友人たちに任せるのが良いだろうと言い添えて、「ひとつ試してみぬかね?」と好々爺の微笑みで誘う。
真面目な青年をギャンブルの道に誘うなど、わが師は何とワルい大人であろう。
ツェトラは思ったが、たとえばウィシュメリア陛下やギルネストに相談していたとしても、同じような解決策を見出していたのではないかと思い直す。
真面目に頑張っていれば良い報いがあると信じて頑張って来た人が、運を味方に出来ないばかりに思う通りの人生を送る事ができていないのである。
少しくらい脇道にそれた方が問題の解決につながるかも知れないではないか。
迷ったら楽しい方へ行く──それが冒険者の流儀。
今の話の流れだって例外なくそうするべきだ。
「ときに師匠。そのように面白いゲームがあるのに、今までずーっとおひとりで楽しまれていたわけですか?」
「うぐっ……わ、我ら巨人族が興業に仕立てただけじゃからなっ、賭け金の規模も大きいし、見に行くとなれば異世界に出かけにゃならん。ハマり込む者が続出してはならぬと思うてだなっ……」
楽しみを独占していただろう、と指摘した途端に歯切れが悪くなるということは、少しは自分達の娯楽を世間に広めてみたい願望があって、なかなか実行に移せないことを後ろめたく感じてもいたということではないだろうか。
アラルガント師匠ならば先帝マクスウェルやその他の権力者にも直接に話の出来るコネクションがあったはずだが……。
まあ、師匠も弟子に合わせて悪ノリしてくれているのだろう。
「責める意図はありませんよ、ただね?」
「分かっとるよ、一枚噛ませろと言うんじゃろうが……まったく、妙なところが親父殿に似ておるよなぁ……」
「よし、決まりっ。バルバロイさんも乗りますよね?」
青年が「ああ」と穏やかに笑んで頷き、直後に「しまった!」というような顔をした。
後悔してももう遅い。
こうなったからには、彼も、どうあっても"星"を輝かせて生きるより他ないのである。
2021/12/3更新。
2021/12/5更新。




