どうしてもないと言うなら作りましょう!(1)
ツェトラは、帝都に戻って疲労を回復させるとすぐに、『赤き龍の宴』のメンバーがの力を借りて、バルバロイ夫妻の依頼を達成すべく動き始めた。
まずはジュリアスが看破した通り、彼がひたすら幸薄い男で、その為に何をやっても上手く行かない状態に陥っているのかどうかを確かめようとした。
嫌なことを思い出させてしまうのをあらかじめ詫びてから、これまでの事情を聴いた。
幼馴染だったユードラと駆け落ち同然で結婚して家を出たまでは良かったが、以後はなかなかうまく行っていない。
そのことを、出会った時よりは冷静に語ってくれた。
帝都に戻って来た日からまる2日の記憶がないほど寝込んでいたから、その時の様子がツェトラには分からないのだが──。
昨日までの3日間で様々な人物から課された問答や軽い試験を経て、多少とも客観的に自らを見る事ができるようになったらしい。
バルバロイ氏曰く。
帝国の役人になれば高給取りにもなれるだろうと考えて受けた様々な試験では、その日に限って妙な失敗をしたり、実力を発揮できなかったこと数知れず。
鉱物採取や遺跡発掘の事業をやってみないかと誘って来た人物の話に乗っかって金を出せば持ち逃げされ(数回も同じことを繰り返した)、自ら農地を借りればなぜか何の作物を育てようとしても出荷できる水準に持って行く事ができなかった。
「理由なき不幸とまで言えるかどうかは分からない。私が怠けていた結果だったのかもしれない、私が何も考えて来なかったからなのかもしれない。家事はそれなりに出来たが、家計はユードラに頼りきりだった。妻の深く大きな愛情だけが、私と私の子ども達を支えて来たんだ」
バルバロイは感情と事実を切り離して、淡々と語った。
「これまで駄目だったのは仕方がないが、今はどうしても自分を変えたい」
彼の言葉に嘘はない、とツェトラは思った。
決してイケメンではないものの、彫りが深く優しい丸顔が、今は穏やかな決意に満ちて笑んでいる。
静かな気概と高い志が彼を支えている。
豪快で人の好い『赤き龍の宴』の面々が、試験を課すだけに留まらず、力強い激励を彼に与えたのだろう。
「では、」
ツェトラの隣に座って彼の話を聞き終えたハイジェンジヤが、これまで人生が上手く行かなかったのを特異な"星"のせいにしない姿勢を褒めてから、
「仮にバルバロイさんが"とってもツイていない人"だとしましょう」と提言した。
「自分に出来ることはないものか、と、あなたは考え続けます。仕事を探し続けます。でも、なぜか出来ない。出来ていたことすらできない。勉強を怠ってきたわけでも学がないわけでもないのに、考えることの全てが思う通りにならない」
さすがに釈然としない内容だろうが、バルバロイはハイジェの言葉に何のためらいもなく頷いた。
特に最後の『考えることの全てが思う通りにならない』という表現には多少おどろいたような顔をした。
「お嬢さんは私の心が読めるのか」
「いいえ。父母が物事をたくさんたくさん考えるように言っていたのを守ってるんです。続けますよ」
「ああ、すまない」
「考えることがすべて思った通りにならない。こうすればいいはずだ、という考えに限って、現実がそれを裏切り続けて来た……」
はたと閃いたツェトラが、教師に対してそうするように挙手した。
「それって、予測と計画が必ずパーになっちゃうってこと?」
「そういうことになるね」
腕組みして考えていたニアもツェトラと同じ結論に至ったようだ。
セリフちょーだい、なんてもちろん言われないが──休暇を申請されてもいることだし、ここを譲ることにしてツェトラは再び席に着いた。
「予測が裏切られる。希望がかなわない。必ずそうなる、ならば……いっそ予測の逆を行ってみるのも一手でありましょうかな」
ニアがエメリットに何やら耳打ちしてから、軽く拳を握った両手をテーブルの上に置いた。
美しい小石を握っているのは左右のうちどちらだろうかとバルバロイに尋ね、彼の直感と予測だけで答えさせる問答を何度か繰り返した。
何度試してみても、彼が正解を予測することは、一度たりとも出来なかった。
2021/12/2更新。




