鳥人族の街で(1)
話は小気味よくまとまった。
ちがう世界で優しき魔王に仕えていたという【大賢者】の夫婦は、娘が成長する過程について、とても寛容であった。
父ローレンスと母ディルフィーナに「お前を必要としてくれる人のところへ行きなさい」と暖かく見送られたハイジェが、無事にツェトラの小隊に加わることになった。
仕事の引継ぎを済ませたハイジェを貸切の部屋に迎えたツェトラ達は、『赤き龍の宴』の習わしに従ってごく小さな宴会を開き、彼女を篤く歓迎した。
おっとりとした性格で、社交的で人当たりのよい彼女は、同年代のニアとすぐに親しくなった。
エメやツェトラのことを「妹みたい」だと言って、さっそく猫かわいがりした。
ニアに続いて現れてくれたお姉さん的な立場のハイジェに、ツェトラはエメと二人して気兼ねなく甘えることができた。
ハイジェの洋々たる前途を祝して海中に花開いた花火を見たし、ギルドへのお土産にと海底で貯蔵していたワインを1箱24本ももらった(煙のように消え失せてしまうだろうけど)。
美しい海中コテージでの一夜を楽しく過ごした、現在はその翌日である。
帝都へ戻るついでに、低山地帯とその山頂にある遊園地を見ておこうという話になった。
バルバロイ夫妻とともに南方の海岸を出発して、ツェトラ達は北西を目指している。
荒野から人工の森を通って海岸へ至り、帰り道は平原を通ってからの軽い登山。
いい意味で落ち着く暇のない、大変に忙しない旅路である。
それも仕方ない、むしろ楽いと思えるのは、ハイジェから「様々な種族がそれぞれ自分達の住みやすい環境を魔法などで作り上げている」ことを聞けたからだ。
魔族の間では常識だった(だから話題にもならなかった)大事な事柄を改めて知り、ようやくツェトラは南方の不思議な有り様について理解した。
領地ごとに景色や環境が違って当たり前だったのだ。
意外と歩きやすいとか、遊園地に行くのが楽しみだとかの雑談で盛り上がりながら進む。
強力な結界があるおかげで魔物にも遭遇しない、至って平和な時間が過ぎてゆく。
帝国の南方に広がる魔族の領地としては最も広い低山地帯には、帝都からの観光客を始め、海遊びに飽きた(ぜいたくな話だ)人々や休息と娯楽を求める魔族たちが集まる。
結界の作用が強いのも、道が特に歩きやすいのも、この地域が観光を重視して発展して来たからだ。
なだらかな勾配のある平原に緑の田畑が広がり、色とりどりに塗装された三角屋根の木造住居が数多く立ち並ぶ。
景色を眺めながら自らの足で進む道の、なんと楽しいことか。
カーティス姉御が最初に南方へ連れ出してくれた理由も何となくわかるというものだ。
もし、人間族にとっては少し暮らしづらい北方や、強い魔物がわんさか出現するという東側が最初の目標地点だったら──まあ、これほど穏やかな旅にはならなかっただろう。
低山地帯で最も高い(妙な表現だ)山の頂にたどり着いても、少しも疲れを感じなかった。
ツェトラは飲み物を売る小屋を素早く見つけ、全員分の飲み物を調達して戻った。
本と、母と、エメリットがすべてであるかのように暮らしていた頃(もちろん楽しかった)に比べると、かなり積極的に動けるようになってきた。
紙コップのりんごジュースを麦藁のストローで飲み飲み遊園地を回ると、何だか冒険者の小隊というより家族で旅行に来ているみたいな気分になってしまう。
異世界を手本にして作られた遊園地は『観覧車』や『スピード・コースター』、『遊覧飛行船』といった魅力的すぎるアトラクションで溢れていて、ツェトラたちもそれらを楽しむことに集中する。
迷子の子どもを助けたり、会計の時に小銭を落としてしまった慌て者を手伝ったりと忙しくしつつも、『観覧車』ではエメと良い雰囲気になっていたし、『コースター』に乗って思い切り叫んだし、『飛行船』からの雄大な眺めも堪能した。
休憩中にメモ帳を思い出で埋め尽くしながら、楽しいことや嬉しいことについての語彙をもっと増やさなくては、と思う。
2021/12/1更新。




