"星"を巡って(2)
ジュリアスは、かつてカルロタとエニーダの"星"を評価した鑑定士が見抜けなかった2人の才覚を、ものの見事に看破して見せた。
カルロタには世界各地の民族に伝わる古謡をまとめた本を。
エニーダには体系化された様々な魔法の中でも特に難しいとされる召喚魔法の入門書を無償で分け与えた。
すぐに夢中になった2人は、そうするのが当然であるかのように両親に願って、この場で『赤き龍の宴』に加入することを決めた。
一斉に大喜びした5人の子ども達がまたニアに誘われて、スイカ割りを楽しみに浜辺へ行った。
すると、笑顔で皆を送り出した【勇者】が再び真剣な顔に戻った。
「ユードラさん、信じなくていいけど聞いてくれ」
若く可憐な母親の名を呼び、頷かれると、
「あなたには珍しい"星"が息づいてる。『多産』だ。本来は半猫族やそこから派生した種族、それと半龍人にしか現れないものだ」
彼が慎重の上に慎重を重ねて言葉を選んでいるのが、ツェトラにも分かった。
身体と心が強い魔族なら何てことないが、人間族だと問題が多い──ユードラが持つ『多産』とはそんな類の"星"のひとつだと言いたいのだろう。
「俺はバカだから、これ以上は避けようも隠しようもない。だから正直に言う。後で俺を何発でも殴ってくれ。あなた達はその"星"を持っているべきじゃない。あなた達も将来のあなた達の子ども達も、ずっと苦しむことになる」
何も言えないバルバロイとユードラに代わって、ツェトラが『多産』の"星"に利点のようなものはないのかとジュリアスに尋ねた。
彼が銀髪を引っ掻きながら言うことには、
「体も心も丈夫で、若いまま長生きできるっていうありがたい面もあるんだが」だそうである。
バルバロイが腕を組み、ユードラが灰色の目を伏せてしまうのを、ツェトラは何もできずに見守るしかなかった。
特異な"星"を巡って悩まねばならない夫婦に同情はできても、それ以上のことはしかねる。
『多産』が約束するのは、生涯にわたって若く過ごし常に愛しき子らに恵まれ、育み愛する喜び。
『多産』が迫るのは、喜びの代償のごとくついて回る、貧しさと心配と疲労──人間族が築いた文化圏での、生きにくさそのものだ。
ジュリアスが冷酷に"星"をどうするかの選択を迫る。「他へ譲った方がいいと思うよ、俺は」
「いやです」
ユードラが言った。「いやです」
「そのままじゃ貧しい生活が続くよ。今回みたいに利用されるよ。"星"がない子どもだって生まれる。耐えられますか?」
決して【勇者】の言葉を肯んじない妻の意志と意地を見たものか。
無口で頼りないバルバロイが何かの決意を固めて、ようやく口を開いた。
「金は私が稼ぐ。何としても、どんなことをしても」
「できるの? バルバロイさん、あなたには『不運』の"星"があるよ。今まで何をしても上手く行かなかったでしょう? ……これからだって何をしても上手く行かないよ、そのままだったらね」
冷酷なふりをした【勇者】が、ニヤつきそうなのを何とか堪えている。
「この捻くれ者がっ!!」
自らを棚に上げてジュリアスを罵ってやりたくなりながら、ツェトラも必死にその気持ちを抑える。
彼はこの夫婦から決意と覚悟を聞くまで、この見え透いた駆け引きを続ける気なのだ。
横から邪魔するべきでないのは重々承知の上だが、それにしても──我ながら我慢強いことだ。
ウェンドリンお姉様ならもう大笑いしながらキレ散らかしていらっしゃるに違いないのに。
ジュリアスの企みにまだ気づかず、それでもバルバロイはあきらめない。
肉体労働でも何でもしてみせる、それもできないようなら腕でも臓器でも誰にでもくれてやるとまで宣言した。
まるで王に慈悲と好意を賜ろうと懇願するかのように……いや、肉体の全てを賭けて愛しい妻を守ろうとする騎士のように。
あるいは魂を削って珠玉の言葉を生み出さんと苦悩する吟遊詩人のように、今まで押し込めてきただろう熱く強い思いを、若き【勇者】に訴えかけた。
父親とは、父性とは、これほど強い物か。
自らの身を省みぬ姿勢を、これほどに貫かんとする事ができるものなのか。
父の真意をほとんど知らぬままに別れたツェトラにとって、燃えるようなバルバロイの想いは、衝撃を以って彼女の心を揺さぶるものであった。
「……もう、良いではありませんか、ジュリアス殿。お2人の想いは充分に分かったではありませんか」
心に動かされるままに、ツェトラは告げていた。
駆け引きは終わりだ。
2021/11/27更新。




