"星"を巡って(1)
自分自身を含めていくらでも例のあることだとは思うが……。
夫婦の事情を聴き終えたとき、彼らに何と言えばいいか、どういう感想を持っていいのかツェトラには分からなかった。
周囲の反対を押し切って、18歳で駆け落ち同然に婚姻した若い夫婦の間には、総勢6人もの子ども達が生まれた。
15歳の長女、12歳の次女と三女(双子)、そして10歳の長男には、順当に父母や祖父母の"星"が引き継がれたという。
残る次男と四女は"星"を持っていないようなのだと、母親が小屋のテーブルに突っ伏しそうになりながらようよう告げた。
長女が遊園地でアルバイトをして家計を助けているが、自分の稼ぎが少ないために貧しい生活を送っていると、続けて父親が言った。このままでは才能のある子ども達を地元の学府に通わせることもできないらしい。
ふがいない情けないと人目もはばからず泣くのをなだめながら話の続きを聞くと、彼曰く。
夫婦の貧しさを見かねて、彼らの親が彼らの勘当を取り消すと言ってきているらしい。
条件は"星"を持つ子ども達の養育を母親の実家である魔導師の一族に一任すること。
子ども達は父母の事情を理解し、兄弟姉妹がバラバラになる事にも納得しているんだとか。
そこで、最後の家族旅行として、有り金をほとんどはたいて、帝国の北側からはるばる南の海までやって来たのだ──という話であった。
覚悟を決めて新しい人生に臨んだはずだったのに、どうしてこうなったか。
そして、これからどうすればいいのか、どうしたらいいのかすらも、夫婦は分からなくなってしまっているようだ。
夫妻が親族の言うなりになろうとしていることが問題ではないかとツェトラは思った。
若すぎる婚姻に反対し、勝手にせよとばかりに勘当しておいて、優秀な子ども達が生まれたなら、その子供だけを家に戻せと財力を楯にして言い募る。
傍から聞いていれば何ということはない、彼らの親族が自分たちの利益だけを考えたとしか思えない『取引』だ。
しかも次男と四女には、何かのしわ寄せでもあったかのように、身体的な不自由もあるというではないか。
わずかな苛立ちのまま『獣の方が誇り高い』と断じても良い。
だが、この場で夫婦の親族を罵ってみたところで、夫婦の抱えている問題が解決するわけでもない。
"星"があるかどうかなどというたった一つの物差しで人生を決められてしまう子ども達が居るのもなんだかとっても気に入らない。
人は財産であると、『赤き龍の宴』のヴァルトラウテは常に言っている(らしい)。
ならばその財産を、自分たちの手でどうにかできないかと、ツェトラ達は頭を悩ませた。
遊び疲れ、ニアに連れられて戻って来た3人の元気な子供たちと共にシャワーを浴び、戦闘服に着替え、全員の割り勘で軽食を食べる。
その間じゅう3人で考えた策を、家族が宿泊している海中の建物に移動して、披露することにした。
家族が貸し切った海中コテージの中で、どうにか都合をつけた最強の助っ人を待つ。
そして彼はすぐに来た。魔王と呼ばれる者たちが使うという特異な転移魔法を用いて、突然に現れた。
子ども達を気遣って静かに、だが盛大に格好をつけて──【勇者】ジュリアスの登場だ。
「よぅ、お待たせ」
「補助ありがとうございます。早速ですが……」
「ああ。どの子の"星"を見ればいいんだ?」
すぐ仲良くなったエメリットに促されて、木製の簡易な車椅子に乗った2人の子ども達が美貌の青年に近づいた。
ジュリアスは子ども達を安心させるように微笑んで頷き、一人ずつ小さな手を取った。
ツェトラにはよく分からないが、彼のなすべきことは一瞬で片付いてしまったようだ。
子ども達の両親に向き合うと、騎士のように床に膝をついて、
「ご夫妻の大切なお2人を、わが『赤き龍の宴』にて預からせていただきたい」
と言ってのけたのである。
"星"を見てもらったカルロタとエニーダはもとより、固唾を吞んで見守っていた3人の兄弟姉妹達もその両親も、揃ってとてつもない衝撃を受けたかのように呆然としている。
2021/11/25更新。




