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第二皇女(1)

第2皇女ウィシュメリアは、王立学園の高等部1年生だ。

ちょっと危険な長姉との会見をどうにか無事に終えたツェトラは再び馬車で移動し、城下町の東側に広大な敷地を持つ学園を訪れた。

ギルネストと学園長が古い知り合いとかで、次姉じしの午前中の授業が終わるまで、ツェトラも学園長から特別授業を受けられることになった。


『とりあえず大体なんでも知っている』と豪語ごうごした学園長に"星"について尋ねたり、『灼土帝国』の皇室についての色々を聞いたりしているうちに、授業の終わりのベルが構内に響き渡った。


魔法による構内放送で呼び出された第2皇女が、学園長の執務室に駆け込んで来る。

「お待たせしてすみません、学園長先生」

「大丈夫よ、それほど待っていません。まずは落ち着いて……はい深呼吸~」

息を弾ませながらも素直に頷き、後ろ手でドアを閉めてから、ウィシュメリアが二度三度と深く呼吸を繰り返した。


「落ち着きましたか? あなたはいつも冷静でなければね」

面目めんぼくないです……今日は何の御用ごようですか」

「あなたにお客様ですよ」


学園長に手振りでうながされて、慌ててツェトラが椅子から立ち上がった。

「あのっ、初めまして……」

「あなたがツェトリアだね。会いたかったよ。わたしはウィシュメリア。よろしくね」

次姉がゆっくりと一礼する。


名乗ろうとする前に察知されて、何も言えなくなってしまった。

どぎまぎする第4皇女に微笑して見せてから、学園長が姿を消す。

他人の心を容易たやすく読み取ってしまえるという次姉と2人きりで対面することになって、ツェトラはますます何を話していいのかわからなかった。


「そんなに緊張しなくてもいーのに」

「だっ、だって、お姉様……」

「んふふ。心を読まれるのは、やっぱり怖いよね。大切な隠し事をさらしあげられるんじゃないかと思ってる」

第2皇女が茶目ちゃめたっぷりに左目を閉じて見せる。

異母妹の畏怖いふ戸惑とまどいを分かっていながら、微笑んで手招きした。


ツェトラは少し迷ったが、おずおずと歩き、ウィシュメリアの隣に腰かけた。

有無を言わさず次姉に抱きかかえられてしまうと、赤面して俯くより他ない。

「確かに、わたしと話すのに言葉はいらないよ。でも、せっかく会えたんだし、ツェトラと話がしたいな」

「は、はい……ごめんなさい、お姉様」

謝らなくていいよ、と言いながら、小さい子にするみたいに頭をでてくる。

「ヴィルジーナとは触れ合う時間が持てなかったから。わたし、自分のことだけ考えてたから」

「それは、どうして?」

「他人の気持ちがイヤほどわかる人間が王宮に2人もいたんじゃ、家臣や官僚は動きにくくてしょうがないでしょう」


「あ……」

「だからと言って、国を離れようとまでは思えなかった。帝位継承権も"星"も投げ捨てて自由に生きる──そんな覚悟、わたしには持てなかったの。だから学園長おかあさまに無理を言って、この学校に入れてもらったわけ」


「お母様って……学園長さんが?」

「そーだよ。マクスウェル陛下の側室の1人だったの。王宮を離れてからいろいろ言われてたらしいんだけど、全部をねじ伏せて学園を仕切ってる──すごい人だと思うよ」


母親のことを語るウィシュメリアの緑の瞳は穏やかである。

ツェトラがそうであるように、雷帝たる父よりも母を尊敬してやまないのだろう。

「心配とかもかけちゃってるけどね。不良になってないだけマシでしょうよ、んふふ」

「あ、あはは……」


明朗快活めいろうかいかつ好奇心旺盛こうきしんおうせい自由闊達じゆうかったつ向学心こうがくしんはなはだしく成績優秀──なれども、いま少し帝位継承者候補らしくあることを心がけられたし』


以上が、本人の強い希望で学生寮に暮らし、他の生徒と特別な区別なく学びの日々を過ごしているという第2皇女の、低学年から高学年を通じた評価である。

ギルネストから事前に仕入れた情報として、ツェトラも知ってはいるのだが……。


「『皇女さまらしく』なんか、振る舞ってやるもんかってね。フツーに学園生活、楽しませてもらってるよ」

「それが、お姉様のこだわりなのね」

「そう。ツェトラはよくわたしの、わたし達の話を分かってくれるね。嬉しいよ」

2021/8/19更新。

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