第二皇女(2)
姉妹の会話と理解が急速に深まるのを喜んだウィシュメリアが、会ったばかりの異母妹に話を聞いてもらうだけでは気が済まないと笑う。
「あなたも話して。"星"をわたし達に譲った後、ツェトリアはどうするつもりなの?」
「まだ、わかりません。何も決められるような段階ではないことが何となく分かるくらい」
「そう。陛下やヴァイロン卿のこと、憎くはない?」
「……」
「仕返しの一つや二つや三つや四つ、考えてもいーと思うんだけどなぁ」
「多いですね!?」
「ははっ」
「お姉様なら、どうしますか」
「マクスウェルは表舞台からすぐトンズラしちゃうだろうから……狙うならヴァイロンだね。彼より優れた人材を味方にして執政の立場から追い落としてもいいし、誰も知らないスキャンダルを暴露するのもいい。あーいう人間は公の場で恥をかかせるに限るよ」
妖しい微笑みと共に平然と物騒な復讐を提案しておいて、訊いて後悔したかと問うてくる。
「明るく朗らかじゃないわたしを見て、どう思う?」
尋ねずとも理解できる姉が、敢えてこちらに気持ちを尋ねてくる。
何か意味があるような気がした。
ツェトラは畏れずに心を晒しながら、今の気持ちを表現するのに最適な言葉を探す。
2番目の姉が夏の太陽より優しく、冬の月よりあたたかい御心をお持ちだとすぐに分かったけれど……決して明るく穏やかな面ばかりではないのだと実感してもいる。
あるいは、自分が問うたから答えをくれたに過ぎないのか?
いくつもの美しいガラス瓶をバラバラに砕いたかのように多面的な人物に、どうお答えすればいいのだろう?
「いいえ、お姉様。ツェトラは後悔など致しません」
結論を出せないまま、思うままに口を開く。
「お考えいただいた仕返しの方法も参考にします。それに、明るくなくても朗らかでなくても、お姉様はお姉様だわ。ひと目見れば恋をしてしまうような心持ちで、わたしはお姉様がたとお会いしているのですよ」
「恋するように──わたし達のすべてを肯定してくれると? もし、ヴァイロンでなくわたし達がツェトラの"星"を欲しがっていて、上手く丸め込んで穏便に奪ってしまおうとしていても?」
「申したでしょう。ひと目見て信じるべきだと、愛するべきだと分かるお姉様なのです。ウェンドリンも、ウィシュメリアも。そしてきっと、ヴィルジーナも。"星"の一つや二つや三つや四つ、どうして譲らずにおくものでしょうか」
「多いなぁー、はははっ……!」
次姉が愉快そうに笑うと、なだらかな丸みを帯びた豊かな身体がわずかに揺れる。
王立学園では服装や服飾の自由を認めていると、先ほど学園長から聞いた。
次姉の衣装と顔をよく見たくなって、ツェトラは彼女の膝の上で身じろぎし、向き合った。
第2皇女は上等な障り心地の生地で作られた、クリーム色のワンピースをお召しだ。
父親とよく似た黄金色の長髪を後ろでまとめて朱色の髪紐でシンプルに結んでいる。
特別な"星"の力を抑える役目もあるという黒縁の丸眼鏡も良く似合っている。
「食べるのが好きかな」と仰るとおり、長姉よりも少し頬が丸く、可愛らしい。
ツェトリアはこのように見目麗しく愛らしい君主の統治の許で暮らすことになる帝国臣民の幸せに思いを巡らせ、次に、3姉妹それぞれの夫となる人物の果報者ぶりを想像して、微笑んだ。
「うーん、普通の結婚は……どうかな? いまのところ、3人とも願望薄かったりするのよねぇ。ウェンドリンお姉様はとっくに自立していらっしゃるし、ヴィルジーナはどっちかって言うと女の子が好きだし」
異母妹の気持ちをどこまで見通してか、ウィシュメリアが唇に人差し指を当てて考えるようなそぶりをした。
想像ではない、断定だ。
3姉妹の間で正直に打ち明け合っているのか、ウィシュメリアが他のお2人の心の奥底までを見ているのかは想像もつかないが。
「まあ、無理に結婚しなくても養子縁組すればいいし、施設を作って子供たちの面倒を見てもいいしさ。どうにでもなるっちゃ、なるんだけど」
「そ、そういうものですか……」
そう言うツェトラはどうなの?
と穏やかに話を振られて、若干しどろもどろになりつつ、素直にエメリットのことを打ち明けるツェトリアである。
2021/8/21更新。
2021/8/23更新。
2021/8/27更新。




