ちょっとした調査です(4)
小さな悪意の塊との戦いは、あっさりと終わった。
カーティスが戦闘服の上着のポケットから取り出した小さなボールを地面に叩きつけると、爆ぜたボールが強い閃光を発した。
暗がりから言葉で他者を攻撃することを楽しみとするピカロ達は、彼らの眼を灼かんばかりの閃光におののいて、すぐに姿を消してしまった。
こんな奴らなんでもないさ、と呟いた言葉を、カーティスは証明してみせたのだった。
「お任せしてしまってすみません、姉御」
「いいよ、あたしも腹ぁ立ってたし。それより大丈夫かい、ツェトラ」
「大丈夫です。人間に好意的な魔族ばかりではないのですね」
話しながら再び車に乗り込む。
エンジンを再点火された自動車が、再び低く唸って走り始めた。
ツェトラは研修期間の間に、複数の講師から課題を与えられた。
課題と言っても提出期限もないし、点数をつけられてどうこうという話ではない。
楽しく冒険を続けるための、ちょっとした目的みたいなものだ。
ゆるい課題のひとつとして妖魔族の【大賢者】メルヴェイユが提示したのが、冒険を通じて魔族についての理解を深めることだ。
考えごとが好きで勉強が嫌いではないツェトラは、自分から、できる限りのレポートを作ってみると提案した。
もしもそれが上手くできたならば──と言いかけて濁してしまった偉大な賢者の言葉の続きを確かめたくて、魔族がらみの依頼を多くこなしたいと思っている。
既にギルド長にも自分の小隊の仲間にも話を通していて、快諾と納得を得た。
今回の自動車での旅行も、事情を知ったカーティスから誘われて来ている。
わくわくしながらの旅路の先に待つのも、その楽しい気分をわざわざ邪魔しに現れたのも、種族は違うけれど、ツェトラ達から見れば同じ『魔族』だ。
「嫌いになっちまったかい?」
「いえ。わたしの味方でいてくれる人ばかりではないのと同じことですから。それに」
「それに?」
「さっきの口げんか、すごく楽しかったんですよね──エメ達に嫌われないかちょっと心配」
ニアリングは小人の悪口雑言を強硬手段でやめさせてくれた。
自分を心配してくれた彼女の思いに感謝しつつも、ツェトラは確かに自らの言葉で小人を追い詰めるのを楽しんでいた。
ずっと押し込めていた悪意が本当に爆発してしまう前に、やつらの方が武器を持ち出して来たに過ぎない。
もっと冷静に冷徹に心を突かれ続けていたなら、きっと醜く怒りをまき散らしてしまっていたに違いないのだ。
周囲の人に見せたことのない、あるいは自分でも知らなかった一面を知った時には、どうしようもなく不安になってしまうものなのだろう。
「明朗快活でない自分をどう思うか」と尋ねられた時のウィシュメリア陛下も、このような心持ちであられたのだろうかと思う。
「なかなかのお手並みでしたよツェトラさま。もうちょっと見てたかったですもん」
後部座席から声をかけられ、小さく振り向く。「嫌いになるなんてとんでもないです」
ドン引きされるだろうと思っていたが、エメリットはにっこりと微笑んで見せ、ニアも小さく何度か頷いてくれる。
何をしても肯定してくれる人なんているわけないけれど──少なくとも理不尽に責めてくる奴に言いたいことを言い返すくらいでは、2人が寄せてくれる信頼は揺らぎもしないようだ。
ひと安心したところで、【悪戯者】のことを書いておいたらどうかと姉御に提案され、素早く思考を現実に戻した。
エメリットがキョウコから教わって作ってくれた異世界仕様のメモ帳に、今回の出来事といじわるな小人族について走り書きを残す。
もし彼らとうまく話せる人が存在するなら、不気味だが柔軟性に溢れる不思議な仮面の作り方なんかも知ってみたい、と付記した。
心にも身体にも余裕があるからできていることだろうけれど、なるべく習慣として続けて行くつもりだ。
お姉様達に短い手紙を送ってもいいし、出版を目指して書き溜めておくのも良い。
日々のできごとや、思いや疑問を忘れさえしなければいい、と思う。
読んでもらえるかどうかは別として、書くだけはタダである。
2021/11/1更新。




