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ちょっとした調査です(3)

事件は自動車での旅の9日目、数えて10カ所目の小さな町に宿を求めた際に起きた。

これまで立ち寄った町村と同じく、いい感じにひなびた町を夕刻まで4人で連れ立って歩いていた。

そろそろ宿にチェックインしようかと話していると、不思議な香りがツェトラの鼻をついた。


続けて、何かや誰かを嘲笑するような、小さな笑い声が聞こえた。

自分の気のせいではないかと思ったツェトラが周りを見回して確認すると、他の3人もその笑い声を聞き取っているようだった。


ききき。

ききききき。

きっきっき。


冷静に聞けば小さな子の声かとも思うのだろうが……警戒心を強めているからか、ひどく不快に聞こえる笑い声だ。


「そこか」

獲物を探し求める獣のような鋭い目つきに変わったカーティスが素早く周囲を見渡し、細く曲がった道の端の立ち木の群れに狙いをつけ、苦無クナイを容赦なく投げた。

飛び道具を弾き落とす甲高かんだかい金属音がして、がさりと動く音が続いた。


「ききっ、あぶねぇなぁ……当たったらどうすんだ?」

「そん時ゃそん時だ。いきなり笑いながら出て来るとかってぇわざとだろうがよ」

「きききっ! おもしれーなぁ、ききき」


そいつは、一見すると人間の小さな子供のようだ。

紫の帽子をかぶり、上等な生地を使った服を身に着けている。

耳たぶが尖っていて、鼻は高く工具でひん曲げたような形。

するどい目つきだが常に嘲笑を浮かべているせいで、何だか邪悪な形に見えてしまう。

ねじ曲がった背骨や短い脚、それと比べて異常なほど長い手腕──明らかに見かけで損をするタイプの魔族だ。

ツェトラは本で見たことしかないが、【悪戯者(ピカロ)】と呼ばれる、ちょっと意地悪な小人族であろう。


彼らはひとえに危険を愛するが故、自分達から見て明らかに強大な種族をも平気で挑発し、たちの悪い悪戯やいじわるをする。

わざと泣かせたり、怒らせたり困らせたり。細かいことを言って行けばまあ、枚挙にいとまなしと言ったところである。


「ききぃ、まぶしいなぁあ」

民族に伝統的な仮面をつけた【ピカロ】がわるぶって笑いながら言う。

真夏の夕暮れ時だと言うのになお眩しいなどとほざくからには、物理的(?)なことを言っているのではあるまい。


「眩しい眩しい"星"だらけの中にぃ……きききっ! たった一人、暗ぁ~いヤツがいるなぁ。どんなに頑張っても光れない、かわ」


おおかた、この小人は「かわいそーなヤツがよぉ!」とでも言葉を続けたかったのだろう。

ニアリングが五指で弾いて投げつけた、ごくごく短い投げ槍(『指投槍(フィンガー・スピア)』と言うそうだ)を必死に避けることになってしまい、芝居がかったいじわるなセリフを最後まで言うことはできなかったけれど。


「ニア」

更に小人を窮地に追い込むべく次の『指投槍(フィンガー・スピア)』を構えていた護衛の騎士を、ツェトラが素早く制した。

いいのか、と目で訴えて来た彼女に頷いて見せ、小人の前に出た。


「暗いヤツってわたしのこと?」

「そっ、そそそそうとも! お前以外に誰がいるよ」

「ですよねー」


期待した反応と明らかに違うらしい。

凹むどころか笑って悪口に同意するツェトラを不気味に思ったのか、小人は仮面ごと表情を歪めると言う器用な芸当を披露してくれた。

「な、何だぁ気持ち悪りぃな……もっと嫌がったり、泣いたりするだろフツー」

「だって、本当だもん。わたしは"星"持ってないんだもん。しょうがないじゃない」


小人がうめいた。

彼らにとって、いじわるや悪戯がその相手に何も影響を及ぼさないことこそが何よりの苦痛であり屈辱である──悔しいけれど、ギルネストの知識はとても役に立っている。


「ねえねえほらほら、次は? 何て言うの? 当たり前のことを言ったって聞いてやんないわよ?」

ずいずいと前に出ながら挑発を繰り返す。

種族としていじわるを辞められないみにくい魔族はどんどん追い詰められて腰が引け、尻込みし、後ずさる。


「きっ……ききぃぃ!!」

『灼土帝国』が誇る腹黒はらぐろ宰相さいしょうヴァイロンにも本心を見抜かれなかったツェトラの鉄面皮てつめんぴが、この旅の最初の戦闘を引き起こすことになった。


追い詰められた小人が奇声を発したかと思うと、立ち木のあちこちから同じような姿かたちの連中が、武器を構えて滑り下りて来たのである。

2021/10/30更新。

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