悩むの後回し!(1)
『赤き龍の宴』ギルドの総力を挙げた研修期間はみっちり7日に及んだ。
ツェトラ達は様々な"星"を持つ人々の下につき、朝と夕に分かれた講義を受け続け、冒険者としての基本を積み重ねた。
その間にもギルドへの加入を希望する人が数人あらわれたから、さすがに付きっ切りとまではいかなかった。
それでもツェトラ達は、すぐれた講師陣の尽力で、下級の魔物に負けることがない程度にはなったとのジュリアスのお墨付きを得る事ができた。
研修期間の終わりにはギルド長からの簡単な任務が用意されている。
その報酬で講師となってくれた先輩たちに酒と料理を振る舞うのが新人の習いだ。
途中から研修に加わって共に学んだニアリングと小隊を組んでの初陣(ごくごく簡単な薬草採りだった)を終えたツェトラは、つい今しがた、ジュリアスから報酬を受け取ったところである。
「どうだった? 活躍できたかい、ツェトラ」
カウンター越しに軽く問われて、自分自身はそうでもないと明るく答える。
「ふむ。その割には満足そうだな」
「はい。より確実に任務を遂行できるよう、仲間を十分に援護できたと思います」
「仲間の補助に徹して、それで自分が目立てなくてもいいと?」
「ええ──」
小隊の前衛に飛び出して魔物をどんどんやっつけるような戦い方がしたいとは、ツェトラは今のところ思って居ない。
実力者ぞろいの講師陣の技や能力を見るにつけ、そのすごさを理解すればするほど。
彼ら彼女らとは異なる役割を見つけて、それを全うしたいという気持ちになってゆくのが分かった。
今回の任務でエメとニアの補助に回ってみてわかったのは、適切な補助魔法を選んで行使し、戦況の全体を見渡す、いわば軍師のような立ち位置が苦にならなかったことだ。
もちろん、何人もの先生に弟子入りして武器の扱いや様々な魔法の使い方を教えてもらっているわけだから、どんな戦い方でもできる冒険者を目指してもいるのだけれど。
「──今回、そういう戦い方をしてみて、自分では割と気に入ったの。続けてみようと思ってます」
「なるほどね。けど、せっかく冒険者になったんだからさぁ、もっとガツガツしてもいいんじゃね?」
「そうですね……いずれ魔剣の扱いにもっと慣れて、わたしの心がそのように動くようになれば。それに、補助や指揮に重きを置いても、きっちり評価してくれるでしょう?」
「まぁね。都合よく扱ったり不当な評価を下せば人が離れる。下手に人材を手放したんじゃ、ヴァルトラウテに申し開きができねぇ──それだけは気を付けるようにしてるよ」
他人をみきわめるなんて簡単にできるこっちゃないんだけどな、と続けて、『龍殺の英雄』の勲章を持つ青年が照れ臭そうに頭を掻く。
ジュリアスと篤い恋愛関係にあるという女性たちほど親しくない(何たってエメリットがいる)こともあって、ツェトラには彼が格好よく見えたりはしない。
ギルド長としての業務に忙殺されれば素直に音を上げて助けを求めるし、難しい任務に挑んで疲れれば業務を放り出して休んでしまう(もちろん補ってくれる人がいるからだが)。
格好つけてもあまり似合わない、ツェトラにしてみれば、どっちかと言うと面白い人物だ。
ただ……。
彼のような人が政治の中心にもし在れば、お姉様方ももう少し動きやすく、また生きやすかったのではないかと思わざるを得ない。
ツェトラの表情を見て何か思うことがあったのか、ジュリアスが小さなメモ用紙にサラリと何事かを書いて手渡して来た。
"皇帝の事が気になるのか"と書いてある。顔を上げて頷いて見せた。
"俺の知り合いを王宮に潜り込ませるくらいはたやすい。取材でもしてもらおうか"
2枚目のメモに"ぜひよろしく"と短く返信を書き、渡す。
「ディートリンテさんが呼んでたぜ。家で少し休んでからでいい、3人で厨房に来てくれ」
全く関係ない伝言を言い添えて微笑んだギルド長に浅く一礼して、ツェトラはいったん仲間の待つ自宅へと戻った。
2021/10/22更新。




