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鍛えと学びとその価値と(1)

自分が"星"を持っていないことを、ツェトラは『赤き龍の宴』の誰にも伝えなかった。

これからも、特に追及を受けない限りは、告げる気はない。

わざわざそんなことをしなくても、『赤き龍の宴』に集う冒険者たちは明るく笑いながら自分を受け入れてくれると確信したからだ。


「今日は泊めてくれてありがとう、アルト」

アルトが「ぼくは寝相がとても悪いから」と言ってアイテムボックスから引っ張り出したベッドに座り、疲れて先に眠ったエメリットの髪を静かに撫でながら、声を落として言う。


「全然いいよ。っていうか、きみ達を遅くまで引き留めちゃった責任をとらせてくれなくちゃ」

ツェトラ達は日帰りの予定で帝都に来ていたし、ギルド館の居住区も長期の予約でいっぱいだった。

さすがのジュリアスもそのへんの事情をすっかり失念してしまっていたらしく、今夜はメンバーの誰かに頼んで部屋を借りてくれとのことだった。


それを聞いた時点で既にニアリングが飲み潰されていたのでアルトに頼んだところ、一も二もなく快諾してくれて今に至る。


「どうよ、ウチのギルドは」

「おもしろい方々がたくさんいらっしゃいますね」


酒をじゃんじゃん飲み、歌を歌い楽器を鳴らし、陽気に雑談を楽しむ宴の雰囲気に乗じて、彼ら彼女らの事情を確かめもしないまま、色々のことを教えてもらう約束を取り付けている。

酒の席での約束を覚えている律儀な人がいれば、明日から講義や鍛錬の指導を受けられるはずだ。

それを楽しみにしていることを話すと、アルトが静かに微笑んだ。


「勉強するのが好きみたいだね」

「うん。学者になりたいってわけでもないんですけど、知ってることが増えて行くのがおもしろくて」

「そっか。まあ、ウチに居れば先生には事欠かないだろうから──ぼくも魔剣のことだったら割と語れるし」


楽しみにしといてね、とまた微笑んで、アルトが小さくともっていたランプを吹き消した。

律儀に就寝の挨拶をしたツェトラは、エメを起こさないよう注意深く夏用の掛け布に身体を滑り込ませた。


──。


結論を述べてしまうと、『赤き龍の宴』の面々は、皆がどこかしら律儀な面を持っているようだった。

大ざっぱな予定しか組めないはずなのに、ヒマな時機タイミングをそれぞれで算出して、新人のための講義と鍛錬の時間を作ってくれたのだ。

しかも帝都が誇る魔法学園のように、すべての講義が選択制になっている。


ゆる~い時間割が書き込まれた手帳をカーティスから渡されたツェトラに、

「だから言っただろ?」

なぜか自慢げなジュリアスが、カウンター側から朝の茶を差し出しながら言った。

「ウチはいきなり新人を冒険させるようなことはしない。先代の方針でね、皆で面倒を見る習慣があるんだよ」


受け取った白磁のカップに口をつけながら頷く。

冷たい紅茶が喉に滑り込む。

渇いた身体に潤いを届け、思考を整えてくれるかのようだ。


いっぺんに眠気が吹き飛んだ。

ツェトラは、再び手帳を開いて予定を確認する。

今日はアルト=ブラッドによる魔剣の講習だ。


「さっそく受けるかい?」

「はい!」

「伝えておく。あと、ツェトラの家のことなんだけどさ。どうする? この辺に新しく建てた方が便利は便利だけど」

「それも決めていいんですか? っていうかちょっと待って、おうちがそんなに簡単に建てられるの!?」

「もちろん。ギャラは高くなるだろうけど、セルバンテスの旦那だんなに頼めば楽勝さ」


俺も楽勝でできるけどね、などと言ってふんぞり返るあたり、ジュリアスも『転生の巨星』の二つ名を持つだけはありそうである。


「すごい。かなわないな」

「できる奴に任せりゃいいのさ。ちょっとずつでもできるようになればいいんだから」

「……不思議なんですけど、ジュリアス殿って一体お幾つなの? なんだかフォルデおじさまと話してるみたいな感じ」


「俺? ()()36歳で、今は26ってことにしてる。一応人間族(ヒューマン)だよ」

見かけの割に言動が爺臭じじくさいって言われて困ってるよ、などとうそぶいて、ギルド長代理が銀髪を軽く引っ掻いた。

2021/10/11更新。

2022/2/26更新。

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