帝都にて(5)
目を瞠る食べっぷりだった。
ツェトラ達の歓迎会を兼ねた、昼食の時よりも少しだけ華やかな食事会に参戦した、アルト=ブラッドである。
食事をする動作や態度は非常に穏やかで上品だ。
他の冒険者達と同じく、決して先を争って料理をむさぼったり、いっぺんに食べてしまうようなことも無い。
そのはずだ。
おお、だが、見るがいい──白磁の皿に美しく盛りつけられた、異世界の豪華な料理が、あれよあれよと言う間に減ってゆくではないか。
これで彼女が寝起きだなどと言って、ツェトラとエメリットを含めて、一体だれが信じようとするものか。
「顔に何かついてる?」
「……ご飯粒が右の頬に」
「わ、はずかしい」
細かく切った具材とともに塩を利かせて香り高い油で炒めた焼き飯の椀から顔を上げたアルトが、赤面しつつ飯粒を右頬から取り除く。
無邪気なまでの食欲を披露する彼女に負けじと、【重装戦士】ザンダーや【闘士】モリスもその体格に見合った大食いぶりを見せている。
彼らは昼食会の時も同じように食べまくっていたはずだが……一体どういう胃腸をしてるんだろうか。
「子どもみてぇな喰いっぷりだねぇ」なんて呆れながらも悪くは思っていないらしい【忍者】カーティスが素早くカウンター奥の厨房に回るのを楽しく眺めつつ、ツェトラ達も自分たちのリズムを崩すことなく食事を続ける。
「お嬢さんがた、楽しく過ごしておいでかな」
女性と男性、2人の仲間を伴って大きな弦楽器を爪弾いていた巨躯の男性が、低いステージを降りてツェトラ達の席に近づき、ごく穏やかに話しかけてきてくれた。
巨人の如き背丈と鍛え上げた鋼の肉体を併せ持つ戦士、『蒼穹の快剣伯』ことセルバンテス=ダ・シウバは、数々のすぐれた冒険者が集まる『赤き龍の宴』でも数少ない【勇者】である。
「お気遣いをありがとう、セルバンテス殿。とても楽しい食事会ですわ」
「何よりだ。今宵の主賓はあなた方だから皆で宴を盛り上げよう、と話をしていたはずなのだが……自分たちが楽しむことを優先する者が多いからなァ」
「でも、それが冒険者の最優先事項、ですよね」
「その通り……良く学んでくれているようだ」
セルバンテスが彫刻みたいに整った顔を穏やかに緩める。
ギルドのメンバーや彼の仲間は慣れっこだからいいようなものの、もし1階のレストラン・バーが貸し切りになっていなかったらと思うと気が気ではないツェトラである。
「相変わらずイイ顔で笑うね、ダ・シウバ卿」
「卿はよしてくれ、アルト殿。おれは貴族の器ではない」
巨躯の戦士の野趣あふれる美貌といったら、異世界の焼き飯を夢中で食べていたアルトですら顔を上げて、楽しそうに彼をからかうほどなのだ。
『普通の結婚はどうかな~?』なんて冗談交じりに仰っていたウィシュメリア陛下に相応しい男性がいるとすれば、きっと彼のような人なのだろう。
残念ながら(?)ダ・シウバ卿の左手には結婚指輪がきらびやかに輝いているのだけれども。
「……飯粒はどこにもついていないはずだが」
「あ、すみません。ちょっと考えごとを」
「そうか」
セルバンテスはしばらくの間、賑やかな家族を見守る父親のような目つきでレストラン・バーを眺めていたが、陽気な【格闘士】フィリップに「旦那も飲もうぜ~」と絶妙にうざったい絡み酒をされ、また静かに微笑んでからテーブル席についた。
宴と言いつつ決してやかましく騒がず、陽気で楽しく、なごやかな雰囲気。
それは恐らく、静かな田舎町で暮らして来たツェトラ達が戸惑ったりしないようにと言う、気の良い冒険者たちの暗黙の気遣いで形作られている。
だが、いかんせん底なしの大食漢ばかりが集まっている。
厨房の忙しさは推測するまでもないだろう。
ついに我慢できなくなったらしい主賓のひとりが音高く指を鳴らし、一瞬で愛用のメイド服に着替える。
多少ざわつく店内の様子を気にも留めず「お手伝いをしてきてもよろしいですか」と無言で訴えて来るエメリットに、ツェトラも浅い頷きを返した。
2021/10/8更新。




