示された道を前にして
思いがけず示された新たな道に、すぐに踏み出そうという気持ちにはなれない。
自信を持てるわけがない。
自分は容易に崩れてしまわないように意識して強気に振る舞っているだけで、決して勇気ある者ではない。それを知っている──知ってしまっている。
態度を決めかねてメモ書きを上着の内ポケットにしまい込んでしまったツェトラを、ウッドローブは叱りも責めもしない。
青年は何も語らず、アイテムボックスから剣を取り出した。
静かに鞘払い、ツェトラが切ってそのまま宙に浮いている木の前に立つと、目にもとまらぬ速さで腕を振る。
よく手入れされた亜麻色の長髪は一切乱れなかった。
魚を3枚おろしにするみたいに簡単に、単なる木が木材に変わった。
長さも太さも運びやすい形になるよう計算し尽くした見事な5分割だ。
「すごい」
「趣味で続けてるだけ。冒険者を引退する時に、"星"を交換してもらったんだ」
「どうして? 剣術の"星"があれば、ずっと冒険者でいられたでしょう」
「確かに楽しかったし、もっと楽しめた。でも疲れちゃったんだ……僕は。身体が心についてこなかった。何もしてないように見えるだろうけど、今の過ごし方のほうが気に入ってる」
「あ……ごめんなさい」
謝らなくていいよ、と笑った青年がためらうことなく地面に座り込むと、ツェトラ達も続いた。
彼の静かな口調で語られる訥々とした話を聞くのが、2人とも好きだ。
ウッドローブが自ら加工した材木を一つ手に取る。
剣をナイフに持ち替えると、これまた一瞬で木彫りを完成させてしまう。
「こっちが今の僕の"星"の力だよ。木工職人にはぴったりだろ」
にっこりと笑いながら、青年が即席の木彫りに魔力を込める。
「わぁ、かわいい!」
思わずといった調子で、じっと見守っていたエメリットが歓声を上げる。
大きなりんごを、懸命な顔をしたキツツキがつつく、魔法で動く自動人形だ。
こんこんと小気味よい音を小さな森に響かせるキツツキを前にして、青年が更に口を開く。
「産まれ持った"星"が、その人の役に立つとは限らないんだ──好きなことややりたいことと才能が一致してなかったら、それはとても悲惨なことだと思わないか?」
「それは……そうですね」
「僕の場合は先に身体を壊してしまったからだけど、この世界の人にとって、生まれ持った才覚を活用して人生を送れないことは……"星"を輝かせられないことは、屈辱と言っても言い過ぎじゃないほどのことなんだ。練習すればある程度の技能は身に着けられるけど、そういうことじゃない──理論の話じゃない。感情とか本能とかの問題なんだ」
青年が小さく息を吸う。
亜麻色の髪が揺れた。
「僕と"星"を交換してくれた人もそうだった。木工職人になるよりも騎士として立派に魔物どもと戦いたい、愛する帝国を守りたい──兄上に追いつきたいのにそうできないって、嘆いてた」
「その方とウッドローブさんの利害が一致した訳ですね」
失礼を承知でツェトラが請合う。自分と同じだ、と思った。
「そういうことになるね。僕の都合で輝かせられなくなってしまった僕の"星"が誰かの役に立つなら、僕はそれでいいと思った。"星"がないからといって、今まで続けて来たことやその成果を取り上げられるわけじゃない。一切、後悔はない」
自ら即席でこしらえたキツツキの自動人形を眺める青年の表情が、ツェトラにはとても優しく見える。
彼が冒険を辞めてしまった理由を詳しく知りようがないし、詮索を続ける気もないけれど……彼は彼が輝ける場所をみずから見つけ、定める事ができたのだろう。
わたしもそうありたい、と強く思う。
「もし、わたしが雑貨のお店を始めたら──自動人形を買い付けさせていただいてもいいでしょうか」
「構わないよ。自分で言うのもおかしいけど、このあたりじゃ結構な評判でね。店を出すかどうか迷ってたところだったんだ。僕はつくづく運がいい」
実は開店のための貯金もしてあるんだよね、とおどけて微笑む。
意外と強かな木工職人である。
2021/9/16更新。
2021/9/17更新。




