贈り物(3)
見ただけで重いと分かる頑丈な作りのリュックサックを、働き者のメイドが豪快に抱え上げた。
左手の人差し指を控えめに飾る"星"の指輪が静かに輝いている。
玄関からツェトラの私室まで、書類の束でも抱えるように運んでしまう。
見た目が変化するわけでも、言動にやたらと気合が入るわけでもない。誇ったり自慢することもない。
凄まじい腕力を持ち、それを振るうのは、エメリットにとっては当たり前のことなのだ。
膝にリュックを抱えて居間の床に座ると、すぐ隣にツェトラが座るのを待って、さっそく中身を確認してみようと言う。
2年ほど一緒に暮らしているが、エメリットの積極的な面を目にしたのはほぼ初めてである。
困惑でなく興味から、ツェトラは自然と尋ねた。
「エメはちょっと変わったみたいね」
「はい。誰より近くであなたを支えるって、決めたんです」
エメリットの手がツェトラの手をうやうやしくとらえる。
まるで立派な騎士がお姫様にするみたいに、手の甲にそっと唇を近づけた。
照れも悪戯をするような気配もない。厳かで真摯な騎士の宣誓そのものである。
「どうかお傍に置いてください、あたしの姫君……ツェトラさま」
他人の忠義を受け入れ、その者の君主となるような器ではない──そんな言い訳は一切、通じまい。
応えねばならないと思う。自分の言葉で。
「改めてよろしくね、エメリット。あなたが嫌と言っても離してあげませんから」
余裕たっぷりに微笑んだつもりだが、上手くできたかどうか。
「……に、荷物っ、開けてみようよ、エメ」
"秘密のお相手"とやらからの贈り物がリュックサックの中で待ちわびているのをいいことに、あわてて話題を切り替える。
メイドも「そっ、そうでしたねっ」などと今さら照れたような口調で言い、気前よくリュックサックを開け放った。
ウェンドリン、ウィシュメリア、ヴィルジーナ、そしてギルネスト。
4人が用意した贈り物が次々に飛び出して来る。
特に3姉妹は直々に包装してくださったようで、3つの箱が異世界の製品らしい美しい包み紙とリボンで品よく飾られている。
「包み紙ももったいないですね」
「わたしも思った。なるたけ丁寧に開けてみましょう」
ツェトラは器用な方ではないけれど、細心の注意を払ってリボンをほどく。
エメリットが包み紙に丁寧にハサミを入れ、まずウェンドリンからの箱を開けてくれた。
上等なドレスと普段着に使えそうなシンプルなワンピース、そして頑丈そうな造りのジャケットとズボン。
『2人ともすぐに大きくなるのだろうから魔法の生地を使ってもらったの』という書き出しのメモが添えてある。
数人いる第1皇女の傍仕えの中に裁縫に関する"星"を持った姉妹がいるらしい。質を優先して製作をその姉妹に任せてしまったけれど、どうか2人の気に入りますように──と、強く願うように文章が結んであった。
お姉様ありがとう、と呟いて、ウェンドリンからのメモを宝物の箱にしまい込む。
微笑んでツェトラの様子を見ていたエメリットが、次の箱を開けにかかった。
姉君の贈り物に引けを取らない大きさの箱には、異世界の高度な印刷技術を駆使したと見るだけで分かる、手のひらサイズの書物が大量に入っている。
本が大好きだと言っていたウィシュメリアらしい贈り物だ。
『いつか大きな図書館を建てて知らせてください。こっそり遊びに行くよ~』と、本気だか冗談だか分からないメモが箱の底に貼りつけられていた。
「半分以上は本気だわね」
「頑張りましょう、ツェトラさま」
頷き合って小さな本を元通りに片付け(読むのはがまん)、ヴィルジーナからの贈り物を開封する。
細く長い構造の箱から中身を取り出す。
幌布を解くと、美しい意匠を施した細剣が姿を現した。
高級な材木(恐らく黒檀だ)で造られた鞘には黄金を使ったレースのような細工が施されている。ツタ植物をかたどったもののようだ。
姉上が『努力して扱えるようになれば強力な武器となるだろう、もし必要でなければ生活の足しにしてくれ』と簡潔なメモを添えてくださっていた剣を持ってみると、羽ペンよりも少し重い程度の重量しか感じなかった。
魔法金属の剣はそれこそ冒険者の垂涎の的である。
「いっぱい、がんばらないといけなくなっちゃったな」
「お供します、ツェトラさま」
「エメがいてくれれば何も怖くないよ」
思わず本音をこぼしてしまい、思い切り赤面するツェトラである。
2021/9/6更新。
2021/9/14更新。




