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特訓(2)

次の日から特訓を始めることになった。

ツェトラの場合は、白兵戦を主体とする職業ジョブに特有の動きや特徴を掴むところからだ。


我流での修業が師匠から許されたのも、もと姫君の気分と気力を非常に高くさせている──なんたって、自ら進んで勉強してきた方法が、はるかに高い実力を持つ人から認められたのだ。

今までよりは自信を持って、今朝から訓練場で行われている小隊パーティの皆とハガネ師匠の手合せを見学し、注意深く観察する。


基本の武術書に書いてある内容と実戦経験を積んだ戦士たちの動きの違いを、本人たちの助言を得ながら、細かく文字に起こす。

ある程度でも理解できたら、次は自ら真似るつもりで攻防や後退のタイミングを計る。

一般的な戦法を技術書で学び、個人の戦い方の特徴は実戦を見て掴んでゆく。

小隊の皆が皆、時には基本を守り、時にはそれらを破るような戦法を見せつつ──実に果敢に鍛錬や手合せに取り組むから、研究の対象にはまったく困らなかった。


尚武しょうぶの国の王だった時期もあるというハガネの飛行戦艦は、進みながらも留まっているかのごとき速度でゆっくりと帝都ロートシュテルンへの航行を続けている。

時間はまだまだある。


ツェトラは焦らず修練の日々を過ごす。

"星"を持っていなくても3日も集中して見ていれば、長い間を共に過ごす気心の知れた仲間たちの動きをだいたい予測できるようになった。

また、その頃には、自分だったら彼女達のためにどういう手を打てるか等、戦闘について考えられることも増えて来た。


ひとたび鋼の爪を身に着ければ、日常と異なる積極性を存分に発揮して果敢かかんに戦うエメリットには、これまで通り『加速』や『質量減算』を用いて機動性を高める仕方が良い。


期間限定での参加にもかかわらず(ときどき忘れそうになるが)、小隊の守備のかなめであり続けようとしてくれるニアには、結界を張ったり防具の性能を高めたりする補助魔法が欠かせない。


既に魔導師としての高い実力を有し、バガネ師をして「"星"持たざる天才の見本」と言わしめたハイジェの弱点らしい弱点は唯一、手加減が難しいことだけだ。

魔力を分け与える技術を高めていけば、ツェトラにも彼女を適切に補助することはそう難しくないだろう。


ビシュラは一見すると、補助も強化もいらないと思える。

もともと風邪すら引くかどうかというほど強い肉体の上に、幼い頃から修練を積んで来たのだから当たり前と言えば当たり前なのだけど……。

特に集団戦の時などは、頻繁に後退してボウガンや投げナイフで牽制けんせいしつつ、断続的に休みながら戦っているように見えた。

もしかすると燃費が非常に悪いのではないかと思って本人に確かめると、恥ずかしそうに俯きながらも決して否定はしない。威力のある攻撃を一挙に放つ、一撃離脱や短期決戦を旨とする戦い方だ。


それぞれが持つ戦略タクティクスを知ることは、改めてその人の為人ひととなりを知ることに繋がっているのかもしれない。

特訓開始から5日を数えたところで、ツェトラはそんな気付きを得た。

ウィシュメリア陛下からお譲りいただいた小さな本棚の中を探って、【軍師】に焦点を当てた物語を読み漁るうちに、小さな気付きは確信と呼べるまで大きく彼女の心を占めるようになった。


すぐれた軍師のもとには優れた戦士・騎士・兵士が集う。

働きと実績でもってしか能力を示せないし、指揮を受ける側もそれらで評価するから、軍師は必ずしも人格者である必要はないのだろう。

できれば自分は、周囲に嫌悪されずに、鍛えた戦略タクティクスを存分に発揮して行きたい。


ハガネの妻クウィディに想いをぶつけてみると、尚武の国の軍師であった時もあると言う彼女が、多忙な時間を割いて講義をしてくれることになった。


「軍師は、指揮する人たちから信用されるように動かないといけない。なぜでしょうか?」

「はい。信頼してもらわないと、その人の"星"や技能を教えてもらえないからです」

「正解ー。指揮する人がどんな技術を持っているか知らないと、戦略を立てるどころじゃなくなっちゃうのです。理解が早くて助かるなぁ」


王と家臣であった頃に一撃で王の心を射抜いた(誇張ではあるまい)笑顔を、教師役のクウィディが見せる。

2022/1/28更新。

2022/2/2更新。

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