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無双忍者 其の二

 おそらく、彼らは気が付いていない。


 僕が立てた策。ニンジャである僕だけが使える奇策。

 もしもこれがなかったのなら、僕は彼らとまともに戦う事などできなかったろう。




「アラン様……!」


「口を閉じろよ。どうしても舌を噛んで噛み切りたいなら話は別だが」


「く……っ!」



 会話の余地はない。それを知らせる必要があった。

 彼は、僕が倒した方の兵士と魔術師の手当てに当たりたいはずだ。

 こんな場所に放置していれば、まず間違いなく命を落とす。僕は優しいので、そんな時に無駄な時間を過ごさせるのは心が痛んだのだ。


 実際には会話するのが嫌だっただけだが。


 さて、僕は瞬く間に魔術師と兵士を一人ずつ行動不能にしてしまったわけだが、目の前の彼に同じ手は通用しない。

 それは突如として現れたという隙につけ込んだに過ぎず、その隙はすでに失われてしまったからだ。

 彼は動揺しながらも剣を構え、僕に敵対する意思がある事を理解している。


 だから、ここを制する事によって僕の実力は本物という事になる。


 あくまでにわか仕込みの僕の魔術が何処まで通用するのか。

 ハミルトン家の精鋭で腕試ししてやる。



「く……!」



 僕が一歩退くと、兵士はすぐさま反応して二歩距離を詰めた。先ほど見せた木の葉隠れの術を警戒しているのだ。


 だが、あれはもう使えないスキルだ。相手がレオブラッドのような狂った魔物であれば話は別だが、相手は過酷な戦場を幾度も経験している精鋭。およそ僕から意識を逸らしてしまうような間抜けではないだろう。

 そんな事、彼は知るよしもないが。

 もしも距離を取られた上で見失ったらと、思わずにはいられないのだ。僕が魔法を使える事はすでに知っているため、不意打ちで火達磨にされかねないと思っている。


 だが、僕としても距離を詰められる事は好都合。



「お酒は好きかい? あげるよ」


「なに!?」



 僕は、懐から酒瓶を取り出して放り投げる。

 師匠が野葡萄から作った物だ。今日この時のために、師匠が元々あった物をこの時用にとくれたのだ。


 決して、それ自体で攻撃しようと思ったわけではない。そんな程度では、なんら痛手にならない事くらいは容易に想像がつくからだ。

 兵士は、咄嗟に剣で瓶を受け止める。当然、瓶は衝撃に耐えかねて砕け割れ、中の葡萄酒は美しく光に照らされて兵士の鎧に飛び散った。


 しかし、その程度では問題になるはずもない。ただ、鎧が濡れたというだけ。

 もちろん、それは僕の打つ手がこれだけだったならの話だが。


 そもそもからして、距離を積める事すらも愚行だったのだ。

 彼は気がつくべきだった。魔法を使える相手がわざわざ近づいてきたという事実に。その不自然さに。魔術師は遠距離戦を得意とするなど子供でも知っている常識だというのに、なぜ僕がそんな事をしたのかと、疑問に思うべきだった。


 この酒は、師匠の手によって酒精(アルコール)の糖度が高められている。

 それが何を意味するのか、彼はすぐに理解するだろう。



【魔法:ファイアボール】


「ぅうわあああ!!??」



 僕程度の実力では、ほんのわずかな種火にしかならない魔法。しかし、今この時のみはそれに止まらない。引火した炎は、鎧の表面を這うように纏わり付いて兵士の全身を覆った。



「『剣士』や『重装兵』の職業(ジョブ)の特性は知っている。どうせそんな程度では死なないでしょう? でも、無傷とはいかない」



 少なくとも、この状態で僕に立ち向かう事はできない。すぐに僕の事を追うだけの余力もない。



「ま、魔法を……詠唱もなく……!?」


「すごいなあ、話せるのか。その状態で」



 喉が炎に負けないのなら、心配は必要ないな。



「無詠唱なんていう高等なものじゃあないけれど、それでも結構有用だねこれは」



 この戦闘中、僕はただの一度も詠唱をしていない。

 魔法を扱う上で例外無く必要になる行為を、兵士達はただの一度も目にしていないのだ。


 しかし、これは魔術を介さずに魔法を行使するような高等技術ではない。そんなものは、かつて魔王が存在した時代にのみ存在した技術だ。

 ならばどうしたのか。当然、詠唱とは別の魔術を使ったに過ぎない。


 答えは、魔法式。


 兵士達が気が付かなかったのも仕方がない。その実態は、僕の服の下に存在するのだ。

 もっと言えば、右腕に。そこに、今回使用した魔法を扱うための魔法式が刻まれている。


 いや、刻まれているというのは正しくないかもしれない。確かに体に刺青を入れて魔法を使う者もいるが、僕が行ったのはもっと別の方法。

 ニンジャである僕だからできる、渾身の奇策だ。



【スキル:変化の術】



 このスキルは、姿を変化させるもの。僕はこのスキルを使って、僕自身へと変化したのだ。

 つまり、腕に刺青を持つ僕。この方法ならば、体に直接刺青を入れるよりもはるかに多くの魔法を扱う事ができる。



「うまくできるかは不安だったけど、予想以上の効果だ」



 兵士達の心配がいらない事を確認して、僕はその場を離れる。僕はフローレスの事が嫌いだけれども、彼らに恨みがあるわけではないのだ。


 今日中に、他の班も同じような方法で無力化する。

 今の僕になら、それはまるで不可能ではない。


 やった。やったぞ!

 落ちこぼれの僕が、追放された僕が、馬鹿にされた僕が、ハミルトン家の兵士を下した。

 このまま力をつければ、僕の目的はかなり現実的なものになる。


 見返す。僕を軽んじた者を、必ず見返す。


 その一歩目を感じて、僕は喜びの身震いをした。

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