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偏食エルフの女王、逃げながら野食する!  作者: じごくのおさかな
第三章 愛に振り回される女王
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43 騙し合う2人


 リゼンベルグ王城、資料倉庫。



 本日も隊員たちと共に、ヨークを含む南部領主たちの追跡資料を確認する。我が特務調査隊は、そんな地味な仕事を押し付けられると、文句を言いながら渋々とやる集団だ。


「グロッソさん、また今日も資料整理っすかぁ?」

「そうだ。気持ちは分かるが黙ってやれ」


 流石に今回は、俺も悪いとは思っている。まさか、国王に捕らえられるとは思ってもみなかったのだ。武力であるボーレン隊長がこの場にいない事だけが救いか。


 だが、ひたすら閉じ籠って調査を進めたおかげで、大体の資金の流れの目途は着いた。何せ、調査対象である南部の領主連中が明らかに狂った金額の資金を流用していたのだ。貴族の不倫や隠し子など、王城に潜む事件とはまったく関係の無いアラまでもが見えてきた。

 情報屋に売って我が隊の資金源にする。

 今回の報酬はこれだろうな。割に合わない仕事だ。


 一番の問題は、ヨークの犯行予定日まで残り6日間と迫っている事。どうにかして、さっさとこの部屋から脱出せねばならない。


「手洗いに行く。ここから出してくれ」

「あ、俺も行きます。俺はラフレィシアを摘むっす」

「出す物を一々言わんでいい、お前は子供か……」


 国王はご丁寧にも、資料室の入り口に見張りの兵士を張り付けていた。事務方の俺たちが槍を持つ兵士達に抵抗する力があると思っているらしい。兵士に部屋の鍵を開けてもらい、俺とジョバンは廊下に出た。


 この廊下から手洗いまでは一直線。

 高層階で、逃げるには窓から飛び降りるしかない。

 まさに籠の中の鳥だ。


「ずーっと暗い部屋で作業していたらか、外光が美しく感じますね」

「おい、黙って歩け!」


 ジョバンに対して、兵士のこの態度。

 2人は睨み合う。

 何だ、俺たちは敵国同士なのか?


「……あれぇ? グロッソさん、何してるんです?」


 聞き覚えのある、この間抜けな声……。

 通路の角から、声の主がひょこっと顔を出した。


「メイシィか?」

「そうですよ、久しぶりですねぇ! あ、ジョバン君もいたんですね!」

「いましたよ! 相変わらずっすね!」


 身分の差を気にしないメイシィと、抜けているジョバンは気が合うそうだ。俺からすれば、厄介者が掛け算で増えた気がして恐ろしい。


「そうそうグロッソさん、聞いてくださいよ! 私、エルレイ王子に告白されました! ほらこれ、愛の手紙! 『我が愛しの………』」


 嬉しそうに朗読し始めたその手紙は、俺の隣にいる愛の伝道師が書いたものだ。

 ジョバンは両手を顔に当てて、顔を赤くしている。

 これは拷問だ……。


「……それで、お前はその話を受けるのか?」

「もちろんです! これで王派は安泰だって皆も喜んでいたんですよ! でも……」


 その後、国王から破談の申し入れをするよう指示が渡ったらしい。

 やはりあの国王、何かがおかしい。


「それでどうしようかと、王派の皆さんで集まって会議をしていた所です。私は眠くなってきたので城内のお散歩中ですね」

「なるほどな。厳しい状況は変わらぬままか……。ところでメイシィ、お前一体どこで道草を食ってた? プロヴァンスからは多少距離があるとはいえ、帰って来るのが遅すぎるだろう」

「おや、グロッソさんには言ってませんでしたっけ? 私はフレデさんと2人で旅をしながら帰って来たんですよ。いやぁ、楽しかったですね! フレデさんってカエルとか虫を……」


 メイシィのその一言に、俺は思わず天を仰いだ。


 ここにきてフレデチャンだと……もう、勘弁してくれ……。

 ロドリーナ姫が黙っていたのは、こういう事か。

 この場に隊長が居なくて本当に良かった。


「ふ、フレデチャンと2人で!? その……彼女は元気っすか?」

「少し体調を崩しましたが、今は元気ですよ。我が家で療養してますね!」

「いいなぁ、俺もフレデチャンに会いたいなぁ……」

「……んん? もしかして、ジョバン君……んんん?」


 恋する乙女の顔をしたジョバンを見て、メイシィが悪い顔になった。

 余計な話になる前に、さっさと要件を伝える。

 

「……俺は今の話を含めて、竜の姫君に伝えてくる。ジョバンは資料室に戻り、この件を皆に伝えろ。メイシィ、お前の権力で俺を城の外に出せ」

「メ、メイシィ様! この者は王命で資料確認の責がございます!」


 俺の一言で、兵士が慌てて説明を始めた。


 だが、俺には分かる。

 このメイシィが、面白そうな話に乗らない訳がない。


「私の……権力!」

「竜の姫君はフレデチャンに会いたがっていた。お前も暇なら顔を出すといい」

「いいですね! じゃあ私はお父様にお話しを通してきますね!」

「メイシィ様、なりません!!」


 兵士は言葉では制止しているが、流石に強引に止める気は無いようだ。

 メイシィが去って行った。


 対するジョバンは、先程から落ち着きがない。

 こいつの言いたい事は分かる。


「ジョバン。お前は残れ」

「何でですか! 俺も行きたいっす!」

「駄目だ。公表用の資料がまだ出来上がっていない。それに、お前が今の情報を隊員達に伝えなければ、部屋に残っている仲間達はどうなる? 必ず出してやるから我慢してくれ。……頼む」

「…………」


 珍しく無言だ。

 仕事に責任を感じているのか。



 ――成長したな、ジョバン。



「グロッソさーん! 我が家の兵士と一緒に、城門から出てっていいって許可もらいましたー!」


 メイシィがどたどたと兵士を連れて走って来た。

 相変わらず、行動の一つ一つが慌ただし娘だ。


「すまんな、助かった」

「いえいえ! またすぐお会いしましょう!」

「あぁ、悪いがジョバンを頼む」

「…………私に任せてください!」


 何だ、今の間は?


 ……まぁいい。

 そのまま俺はグランデ公爵家の兵士に囲まれながら、数日ぶりに城を出た。


 向かうは竜の姫君の小屋。

 俺の頭の中にある情報を元に、姫に計画を吟味して頂く必要がある。


 時間が無い。急がなければ。



――



 グロッソが出て行った後に残された、メイシィとジョバンと兵士。

 メイシィはグロッソの姿が見えなくなった途端、にやりと微笑んだ。


「ねぇねぇジョバン君、フレデさんに会いたいですか?」

「……我慢っす、俺にはやるべき事があるっす」

「ほらほら、会いたいですよねぇ? 好きなんですよねぇ?」

「……」

「私が恋の伝道師になってあげましょうかぁ? 私は王子様から恋文をもらったんですよぉ?」


 それは自分が書いたものだとは、ジョバンは言えなかった。

 メイシィの猛攻に耐える。


「私はフレデさんの下着の色も知ってますよ?」

「……」

「はっきりしない男ですね、だからジョバン君はモテないんですよ! 王子に告白された私と、独身のグロッソさん、どっちを信用するんですか!?」


 その一言で、ジョバンはっとした。

 メイシィの言葉が、繰り返し頭の中で再生される。


『告白された私と、独身のグロッソさん』


 メイシィに代筆で告白したのは自分だ。

 だが……。


「そうだ……グロッソさんは独身だ。いつも自分の事を馬鹿馬鹿と言うくせに、グロッソさんは独身だ!!」

「そうですその意気です! グロッソさんは独身ですから、私が恋愛相談にのってあげますよ! ささ、まずは資料室へ向かいましょう!」


 黙って話を聞く兵士を他所に、2人は歩きながら盛り上がる。


「フレデさんの好みは、よく知っています。フレデさんはね、光の勇者が好きなんですよ……」

「光の勇者……! なんっすかそれ!?」

「ふふ……私がジョバン君を光の勇者にしてあげますよ……!」



 メイシィは思っていた。

 こいつは面白くなってきた、と。


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