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偏食エルフの女王、逃げながら野食する!  作者: じごくのおさかな
第三章 愛に振り回される女王
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42 プロヴァンスの手札と布石


 竜の姫君と軽く相談した後、俺は宿へと戻った。



 外は既に夜。昼間から飲んだくれた隊長と隊員たちは、宿でぐっすりと眠っていた。小部屋で雑魚寝の様相を呈している。休めと言ったのは俺だが、税金で飲んだ結果がこれだと考えると若干後悔していた。隊長だけを別室へと隔離し、残った隊員を叩き起こす。


「おい、お前ら。仕事の打ち合わせだ。起きろ!」

「……グロッソさん、明日でいいんじゃないっすか」

「時間が無い。非常事態だ」


 渋々起き上がる隊員たちに濡れた布を渡して顔を拭かせる。なぜ俺がここまで面倒を見なければならないのか。俺はお前らの母か。


「全員いるな、会議を始める」

「グロッソさん、隊長がいませんが……」

「よし、お前が起こして来い」

「ははは……そろそろこのやり取り、止めましょうか」


 恒例のやり取りも、もはや最初の挨拶のようなものだ。


「竜の姫君から情報を得た。我々の任務は2つだ。一つは隊長を竜の姫君に渡し、森化と精霊の研究を進める事。そしてもう一つは、13日後に起きるリゼンベルグ南部コルコトの領主であるヨーク・コルコト伯爵の反乱を阻止する事だ」

「グロッソさん、反乱の阻止って何ですか? 我々は事務方っすよね?」

「そうだ。俺もおかしいと思う。ジョバン君、お前からうちの王子様と竜の姫君に具申してくれるか?」

「……グロッソさんが、書類整理が最高の仕事って言ってた理由が分かった気がします」


 上司に指示された以上、俺たちに逃げ場は無い。


「こんな状況で言うのも何だが、分かってくれて何よりだ。事態は切迫しており、全く時間が無い。我々が失敗すれば、プロヴァンスとリゼンベルグの間に亀裂が走るどころか、無関係な人たちの多くの血が流れると思え」

「「はい!」」


 重要なのは、危機感だ。

 それが危険を察知し、回避してくれる。


「よし、まずはジョバン。お前に愛の手紙を書く任務を与える」

「……はぁ? 急に何言ってんすか?」


 ジョバンのこの態度。この間抜けな顔。

 たった今の引き締まった表情が嘘のようだ。


「……いいか、今のリゼンベルグは王派とヨーク派の2つに割れている。王派は主に王都の貴族と保守派、ヨーク派は王都以外の連中全てだ。当然、王都内にも内通者はいるだろう。問題は両派閥の力の差だ」


 王派は既にヨーク派に数も資金も敗北している。ヨーク派は森化の防御を捨てて他国の戦争に介入することで資金を増やし、武器も手に入れているのだ。南部の様子を見る限り、13日後どころか準備が整えば明日にでも反乱を起こす可能性だってある。


「プロヴァンスの立ち位置はまだ表明できない。なぜなら、ヨークが表に出てこないからだ。分かっているのは、奴等は13日後に何らかの切っ掛けを起こすという事だけ。導火線に火が点く寸前だ」


 我々プロヴァンスの役人が王派を支持しますと宣言すると、ヨーク達は計画を早める可能性がある。内通者がいるからだ。そのため、彼らに表立って協力する事は全ての準備が終わってからになるだろう。


 今回の任務は、水面下で反乱を阻止せねばならないという事だ。


 そして恐らく、反乱分子はヨークだけではない。ヨークの裏にも何かが存在する。ヨークを始末したところで反乱が止まるとも限らないのだ。むしろ、俺が敵側ならヨークを人柱にする。


 ……何とも重い仕事だ。

 とにかく、達成目標は反乱の阻止、もしくは反乱が起きた際の鎮静化。

 その辺りだろう。


「それでグロッソさん、何で愛の手紙になるんすか?」

「……大国プロヴァンスが、今回の反乱とは関係の無い方向で王派を指示する最も分かりやすい理由になるからだ。グランデ公爵家は生粋の王派で、メイシィはその三女。お前が王子様の手紙をこっそり代筆して、メイシィを口説き落とすのだ」

「えぇ!? 殿下に黙ってそんな事やっていいんですか!?」

「構わん。王子様も結果が全ての男だ、婚姻が成立すれば目を瞑る。想い人に対する情熱的な愛を、お前の青くさい台詞に変換して手紙にぶつけろ。ジョバン、お前は愛の伝道師になるんだ!」

「俺が……愛の伝道師に……」


 いいぞ、揺れろ揺れろ。


 ジョバンの後ろでは、隊員達が笑いをこらえている。

 俺にも笑いが移りそうだ。

 早く決断しろ。


「……やります!」

「よし! では次だ」


 これは真面目な任務。

 それに、第一段階でしかない。


「仮に、王子様とメイシィがくっついて、プロヴァンスが王派についたとしよう。だが、それでも反乱は止まらないだろう」

「では、どうするんですか?」

「……俺にもまだ分からん。なので、まずはヨークの財源を調べる事からだ。明日朝一で俺たちは予定通り王城へと向かう」


 そもそも、これは俺たちだけで何とかなる任務じゃない。問題を解決するための鍵穴が欲しい。それを書類の中から探すのだ。


「では解散。ジョバン、この後一晩で手紙を完成させろ。明日の朝確認する」

「えぇ! 無茶言わないでくださいよ!!」

「お前の愛はそんなものか!? それでいいのか!!」

「……やってやりますよ!」


 王都でフレデチャンに会えなかったのか、ジョバンの想いは募っている。

 だが、それでも単純すぎる。この決断の軽さは、まだ酔っ払っている証拠だ。



――



 翌朝。


 隊長が目を覚まさないうちに隊員達を集め、出来上がった愛の手紙を読み上げる。


「いいか、これは確認のためだ」

「……グロッソさん、笑わないでくださいよ?」

「お前の重要な仕事だからな、笑う訳が無いだろう。……わが……くっく……わが……」

「いきなり笑ってるじゃないっすか!!」


 だめだ、面白い。

 笑ってしまって、これで口説き落とせるのかが分からない。


 ゾーイに渡し、代わりに確認してもらう。


「い、いいんじゃないでしょうか……ぷぷぷ……」

「ゾーイさん! これは熱い想いなんっすよ!」


 ゾーイも真面目に読んでいない。仕方がないので、通りかかった宿の従業員に名前を伏せて内容を確認してもらう。


「す、素敵だと思います」

「そうでしょう、そうでしょう!」


 ジョバンが褒められて、何だか急に気持ちが冷めた。


 ……まぁいい。

 この手紙で駄目なら、直接俺が話をしに行くだけだ。

 メイシィはあれでも頭は良い。祖国リゼンベルグの危機とあらば協力してくれるはずだ。


 ドタドタドタ!!


 ……奴が階段から降りてくる音だ。


 勢いよく、扉が開く。


「おぉうグロッソ! 今日はどうする!」

「おはようございますボーレンさん。まずはメイシィのご実家であるグランデ家にご挨拶に伺い、その後で竜の姫君の元へと向かいます」

「よぉし! 竜の姫様に会うのは久しぶりじゃ、がっはっは!」


 竜の姫君は、隊長の手綱を握るのが上手い。

 任せておけばいいだろう。



 早速宿を出て、グランデ公爵家へと向かう。


 何の因果か、竜の姫君が信用できる外務大臣と言った人物こそがメイシィの父親だ。王が心理的に参っているのであれば、この反乱を止めるために公爵であるグランデ家に大きく動いてもらう事になる。


 グランデ家は島の北部にある、大きな屋敷であった。

 いかつい門番に声をかける。


「突然のご訪問、失礼いたします。私はプロヴァンス王国侯爵、グロッソ・リケンスと申します。こちらは黒エルフ討伐のボーレン・フクス隊長です。本日は我が国のエルレイ・アン・プロヴァンス第二王子からメイシィ・グランデ様宛の書簡をお届けに参りました」

「は、はい! 少々お待ちを……!」


 門番は慌てて使用人を呼びに戻る。そして少し経ってから門番が連れて現れたのは、なんとグランデご婦人であった。


「……はぁ……はぁ……え、エルレイ殿下からうちのメイシィにお手紙ですって?」

「えぇ、こちらを」


 その書簡の印は、間違いなく王家のもの。印を国から持ち出すなんて通常ならばもっての外だが、今回の任務に当たり、エルレイから快く拝借したものだ。


「た、確かに。中身を見てもよろしくて?」

「えぇ。……失礼ながら、メイシィ様はこちらにいらっしゃいますでしょうか?」

「あの子は今外遊しておりまして……ほほほ」


 あれで外遊は、無理があるだろう。

 まだ帰っていないのか。まったく、どこで道草を食っているんだか……。


「左様でございますか。グランデ公爵夫人、お会いして早々で大変心苦しいのですが、我々はこの後王城での国家任務がございますので、ここで失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「え、えぇ。お届けいただいて感謝します」

「では、失礼致します」


 よし。

 普段から情緒不安定な隊長も、流石に大人しくしてくれた。

 旅路でさんざん痛い目を見てきた教訓が活きている。


 隊員達を連れて、そのまま竜の姫君のいる倉庫へと向かう。



――



 狭い通路ばかりが走るこのリゼンベルグは、朝からどこも人通りが多い。海の匂いと人々の喧噪。独特な雰囲気だ。同じ港町のプロヴァンスとは違い、こちらの方が空気が澄んでいるように感じる。


 倉庫番に挨拶をし、中に入る。


「……来たか、ボーレン。久しぶりじゃな」

「おぉぉ! 姫様、また戦いましょうぞ!」

「ふっふっふ、お主も変わらぬのう。まずは、やる事を済ませてからじゃ。グロッソ、しばらくボーレンは借りるぞ?」

「えぇ。我々はこのまま王城へと向かいます」

「……頼んだぞ、この美しい町で血は見とうない」

「同感です」



 そうして隊長を預け、残りの面子でリゼンベルグ城へと向かう。


 天然の海の堀に囲まれたこの城は、それ自体が高い島のような城だ。外壁には色彩豊かな装飾や塗装が施され、美しさを更に際立たせている。芸術の城との異名を持つ理由がよく分かる。


 兵士にエルレイからの書状を見せ、俺たちは中へと入った。


 今日は挨拶程度のつもりであったが、面会予約も何もしていないのに外務大臣が急遽時間を作ってくれるようだ。有難い話だが、相手もかなり切迫しているのだろう。


 隊員達と共に、指示された部屋で待つ。



「……何か、とんとん拍子っすね」

「お前もそう思うか。不幸な運命の馬車に乗っている気分だ」

「不吉な事、言わないで下さいよ」


 物事が妙に自然に進むと感じる時は、大抵碌な事にならない。何かに巻き込まれている上に、それに対する準備が出来ていないからだ。自分の計画通り進むのが最も良いというのが、俺の経験則である。


 そして今回は、出たとこ勝負な面が大きい。


 リゼンベルグ国王がどれほどの行動力を示せるか、俺たちがヨークの資金源を暴けるか、内通者が誰なのか、反乱の計画はどうなっているのか。その全てがヨークに先手を打たれている。俺たちは劣勢の状況から、逆転を狙うのだ。


 俺の手札は、エルレイの印とボーレンさん、竜の姫君、メイシィとエルレイの婚姻の話のみ。相手の手札は、反乱のための資金、王派を超える派閥、南部の飢えた人々、武器。


 そして、期限はたったの12日。




 ――上等だ。


 相手が誰なのか、思い知らせてやる。

 俺の目が光るところで、反乱など許さん。

 打てる布石は全て打つ。

 それが俺のやり方だ。



 そう考えていた時、丁度部屋の扉が開く。


 現れた人物は、外務大臣ではなかった。

 隊員達は慌てて立ち上がり、頭を下げる。



 どこか不気味微笑んだリゼンベルグ国王が、ゆっくりと部屋に入って来た。



「楽にせよ。外務大臣は別の会議でな、代わりに私が来た」

「ご足労をお掛けし、大変申し訳ありません。私は特務調査隊のグロッソ・リケンスと申します。我が国では友好国である……」

「あぁ、堅苦しい挨拶はよい。財務資料は隈なく調べてほしい。儂も一体どこに膿があるのか、国民に知らせる義務がある」


 そう言うと、国王は秘書らしき人物から鍵を受け取り、俺に差し出した。


 ……決断が早い。

 財務調査の件は、確かに事前に伝えていた。

 だが、俺たちは隣国の人間。

 昨日の今日でこうも簡単に進むものか?


「しかしグロッソとやら、資料は膨大だが大丈夫なのか?」

「……やれるだけやってみます。資金源から内通者を炙り出さなければ、全ての情報が筒抜けになりますから。それに、ヨーク侯爵の動向も鮮明になりますので」

「……そうか。食事は運ばせる。寝具も用意しよう。特別にこの資料室で寝泊まりするよう許可を出す。全て自由に使ってくれ」

「ご配慮頂き、ありがとうございます」

「では」


 国王は立ち上がり、足早に部屋を去って行った。


 沈黙が部屋を覆う。


「……全部終わるまで部屋から出るなって事っすか?」

「分からん」


 たった5人だけで一国の財務資料の確認など不可能だ。そもそも、俺はリゼンベルグである程度予測がついた資料があり、それを確認するものだと思っていた。


「これじゃあ牢屋でずっと仕事してるようなもんっすよ……」


 そんな隊員達の不安は、現実となる。



 俺たちはそのまま、資料室へと監禁される事となった。


誤字脱字報告ありがとうございます。

この場をお借りしてお礼申し上げます。m(_ _)m

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