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「なんて早まったことをしてくれたんだ!」

 ブレンダンはアイダンに詰め寄った。予期せぬ遭遇に面食らっていたアイダンだったが、落ち着きを取り戻すと弁明に躍起になる。

「聞いてくれ。僕もアビゲイルもダニエルに騙されていたんだ。彼はデイヴィッドのプランを変更するつもりなんかない。僕はそれを知らせようと、彼らの眼を盗んで逃げてきた」

「だけど」僕は言った。「アビゲイルを説得したのは君じゃないのか。プランBへの移行には反対でディネへの偏見があった彼女が、すんなり僕にまたが……、ダニエルたちの提案を呑んだとは思えない」。

「それについては……、返す言葉もない」

 被害者顔で項垂れる動作は芝居がかっている。

「だけど、いまならまだ間に合う。僕たちで事態の収拾に当たろう」

 この切り替えの速さはどうだ。僕は虫酸が走った。

「手遅れだよ」ブレンダンが言った。「すべて推論エンジンに報告させた」

「すべてって?」

「デイヴィッドが〝彼〟に無断でプランBに移行しようとしたことも、君らが森に火を放ったことも――すべてだ」

「ああ……」

アイダンは膝から崩れ落ちた。

 ――推論エンジンって、海洋博物館の前で逢ったひとだよな?

〔そうだ〕

 ――ROHの全員が彼を畏怖しているように感じるんだけど……。彼はどんな役目を担っているんだろう。 

〔〝彼〟とやらの依頼でこいつらに眼を光らせてたとかじゃないのか? 知世の言動がそれを匂わせていたろう〕

 ――こうは考えられないか?

 僕は笑われてもいい覚悟で推理を語った。

〔おいおい、一体どうしちゃったんだよ〕

 ――やはり、飛躍し過ぎかな。

〔いや、充分にありうる。光学迷彩の種明かしをした時もそうだったが、素人考えってのは、案外バカにできないもんだな〕

 この野郎! 同じ脳を共有していて、そこまで僕を見下げるか。

「なあ俊哉、僕はもうどうしていいかわからない。君の意見を聞かせてくれ」

 その言葉が示すとおり、ブレンダンは途方に暮れたような顔をしている。

「すべきことは決まっているさ。君はディネの信頼に応えるため、僕は、僕が住む街のひとびとのためにハープを破壊する。違うかい?」

〔カッコいー〕

 ――茶化すな!

「そうだった……。雷鳴が近づいている、急ごう」

 神妙な顔で経緯を見守っていたホキイの肩を叩いてブレンダンが変更なしを告げる。雷鳴の間隙を縫って生木の避ける音が聞こえてくる。森の切れ目はまだ先だが、ゴーグルのライトは必要なくなっていた。


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