第一話:格差転生と最強のマネージャー
はじめまして、作者の蛍坂菜月です。本作を見つけていただき、ありがとうございます!楽しんでいただけたら嬉しいです!
「おい、あの男が例の……」
「ああ。『氷の女帝』の金魚のフン、黒木蓮だろ」
「パッとしない男なのに、なぜあの美少女が従わせているんだ?」
「きっと、口にするのも恐ろしい弱みを握っているに違いない……!」
王都の冒険者ギルド。
突き刺さるような周囲のヒソヒソ声を背中に受けながら、俺――黒木蓮は、静かにため息をついた。
違うんだ。誤解だ。
俺は弱みなんてこれっぽっちも握っていないし、むしろ毎日「いつ捨てられるか」とビクビクしている、ただの情けない居候なのだ。
すべてが始まったのは、半年前のあの日。
高校の登校中、幼馴染の白銀凛と一緒にトラックに跳ねられ、気がつけば異世界の王宮に召喚されていた。
凛は神々しい光に包まれ、世界を救う【聖剣士】、さらには『全属性魔法適性』と『神速の剣技』という世界最強クラスのチート能力を授かった。
対する俺に与えられたのは、街の商人でも持っている『鑑定』と『アイテムボックス』。戦闘能力はほぼゼロ。完全に勇者召喚の「オマケ」だった。
王宮の貴族たちが「そこの無能な男は路頭に迷わせるか、兵卒にでも落とせ」と冷酷に言い放った、その瞬間。
可憐な銀髪をなびかせた凛が、すさまじい魔力の奔流を放ちながら、玉座の国王を睨みつけたのだ。
『レンも一緒にいさせて。……もし彼に指一本でも触れるなら、今すぐこの国を滅ぼす』
あの時の凛の目は本気だった。国を滅ぼす超絶美少女の脅しに怯えた国王たちは、慌てて俺を凛の「専属マネージャー兼雑用係」として雇うことを認めた。
それからの日々は、まさに「おこぼれ」の極みだった。
冒険者となった凛は、【銀髪の破壊神】の二つ名に恥じぬ強さで、襲いかかるドラゴンや魔王軍の幹部を秒で塵に変えていく。俺の仕事は、凛の後ろをトボトボと歩き、彼女が倒した魔物のドロップ素材を『アイテムボックス』に拾い集めるだけ。
昨日も、国宝級のドラゴンの逆鱗をギルドに売却しただけで、俺の個人口座には国家予算レベルの金が振り込まれた。
「今日も凛のおかげで、こんなに豪華な飯が食える……。本当に、情けないな、俺……」
宿屋の一室。俺は自分で作った最高級魔獣の肉料理を皿に盛り付けながら、一人ごちた。
凛を守れる男になりたかったのに、現実は彼女の圧倒的な強さにぶら下がっているだけの存在。申し訳なさと情けなさで胸が痛む。でも、幼馴染として、一人の男として、彼女があまりにも可愛すぎて、どうしても側の特等席を離れたくないのだ。
ガチャ、と部屋の扉が開いた。
現れたのは、国中の男から求婚される超絶美少女にして、常に冷酷・クールで無口な「氷の女帝」――白銀凛。
「おかえり、凛。今日も大活躍だったみたいだね。ご飯、できてるよ」
俺が微笑みかけると、凛はピクッと身体を震わせ、前髪の隙間から鋭い視線をこちらに向けた。
相変わらず、ゾッとするほど冷たい視線だ。異世界に来てから、彼女は俺に対してほとんど口を聞いてくれなくなった。きっと、強くなりすぎて、俺のような無能な男には愛想を尽かしているのだろう。
「……ん」
凛はトスッと椅子に座り、俺が作った料理をスプーンで口に運ぶ。
そして、端正な顔立ちをピキリとこわばらせ、低い声で言った。
「…………悪くない」
それだけ言うと、彼女は黙々と料理を食べ進めた。
やっぱり、俺の料理も「悪くない」程度なんだろうな。もっと美味しいものを作れるようになりたいけれど。
だが、俺は知る由もなかった。
その時、凛の脳内がどんな大パニックを起こしているかを。
(っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!)
凛の心臓は、破裂しそうなほど脈打っていた。
(今日もレンがご飯を作ってくれた……! しかも私の大好きな味付け! 『世界一美味しい! レン大好き!』って言いたいのに……っ! なんで私のバカな口は『悪くない』なんて可愛くないこと言っちゃうの!? 冷酷ぶってる場合じゃないのに! レンが格好良すぎて、顔を見ると緊張して上手く喋れない……っ! もし嫌われたら私、生きていけない……!)
凛の本当の目的は、最初からただ一つ。「レンに絶対に怪我をさせないこと」。
レンの安全を確保するためなら、敵が近づく前に半径1キロを更地にするのも厭わない。彼女の冷徹な戦いぶりは、すべてレンへの限界突破した愛情の裏返しだったのだ。
「ごちそうさま。……部屋に戻る」
凛はパッと立ち上がると、耳まで真っ赤に染まった顔を隠すように、逃げるように自分の部屋へと駆け込んでいった。
「はは……。やっぱり、嫌われちゃってるのかな」
一人残されたリビングで、俺は苦笑する。
こんな最強の美少女になっちゃったら、俺みたいな普通の男なんて相手にされないよな。
でも、と俺は拳を握りしめる。
手元にあるのは、凛が「これ、いらない」と無造作に投げてよこした超高級魔道具の数々と、俺の『アイテムボックス』に溜まった国宝級の素材たち。
俺は『鑑定』の画面を開き、それらの詳細なデータを睨みつける。
「いつか、凛を本当に助けられるくらい強くなってみせる。……俺なりのやり方で」
すれ違う二人の想い。
しかしこの時、二人はまだ気づいていなかった。
レンの『鑑定』によって最適化された素材の運用と、魔道具の完璧なメンテナンスこそが、凛のチート能力を極限まで引き上げる「最強のバフ」になっていたことに。
二人は無意識のうちに、世界最強の二人三脚を完成させていたのだ。
そして明日、俺たちを揺るがす最初の「事件」が起きることを、この時の俺はまだ知らなかった。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。本作は、私にとって初めての異世界転生のジャンルへの挑戦でした。至らない点も多かったかと思いますが、こうして第一話を形にすることが出来ました。第二話、第三話と続けていきたいと思っています。
2026年7月 蛍坂菜月




