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翌日起きると僕の携帯の制作部門のグループラインに
本日の実行委員は最初に全体で集まるので選択講義室Aに集まってください
と、荒滝さんから連絡が入っていた。
朝から実行委員のことを考えたくはなかったが、この連絡を逃しては荒滝さんに何を言われるか分かったものではない。
通学路を歩くと今までのように警察が道に立つこともなくなっていた。ここ最近はロングが何も行動を起こしていないからだろう。しかし道には小学生を見守るためか、緑のベストを着用した、地域の人がいた。
学校に着き、いつも通り授業を終わらせると、実行委員の時間になる。
横谷さんに声をかけられ、選択講義室に向かう。最初の日と同じ席に座る。
実行委員が始まると教卓の前に立って話し始めたのは生徒会長のあの男子生徒であった。
「生徒会長の神宮零です。今回の文化祭の各クラスの出店等のルールが決まりましたので生徒会のほうから報告させてもらいます。では影里さん、お願いします」
会長がそう言うと影里と言われる人と会長が入れ替わった。その人はあの日、生徒会長と話していた女子生徒だった。
「生徒会副会長の影里優華です。私の方から説明させていただきますので各クラスの話し合いに持ち帰って参考にしてください。では資料の方をお配りしますので一人一部ずつお取りください」
かなり丁寧な口調で淡々と説明をしたかと思うと生徒会のメンバーが資料を配り始めた。すると後ろに座っている横谷さんが
「神谷君知っている? 神宮会長と影里副会長が付き合っているっていう噂。美男美女だしお似合いだよね」
と僕に声をかけてきた。
「そうなんだ。知らなかった。というより名前すらもよく分かんないや」
と苦笑いをしながら答えると
「会長が神宮零さんで、副会長が影里優華さんだよ」
と先ほど本人達から自己紹介があったにも関わらず、丁寧に教えてくれた。そう話しているうちに手元に資料が回ってきたので後ろの横谷さんに回す。
「では資料二ページをご覧ください」
影里さんにより資料の内容が説明され始めた。
一通り影里さんからの説明も終わり、各部門に別れての作業に移るように言われた。移動しようかと、荷物をまとめていると、
「神谷君、真面目でしっかり者だと思ってたから、生徒会のことも知ってると思ったけどそうでもないんだね」
と後ろにいる横谷さんから再び声をかけられた。後ろを振り向きながら
「まあ、あんまり興味が無かったからね。それに生徒会長はなんか近寄りがたい雰囲気がある気がしてね」
と僕は本心のままに話した。
「まあ、なんとなく分かるよその気持ち。神宮さんは頭もいいし運動もできるしルックスもかなりいいよね。影里さんはクールで一匹狼っぽい。対照的に見える二人だけど、本人達の中では気が合う何かがあるのかもね。他の人たちにはそれは分からない物なのかもしれないけど。実際私の生徒会の知り合いも二人には話しかけにくいって言ってたよ」
頭も良くて運動もできておまけにルックスの良い生徒会長に一匹狼タイプの副会長か。癖の強い二人のように見えるが、付き合っているとの噂が流れるほど仲の良い人たちなのか。
「これからお世話になるかもしれないから顔と名前くらいは覚えないとかもね」
生徒会長と副会長のことについては覚えておいた方がいいと思ったのは事実だ。だが半分冗談交じりに言ったところで誰かに肩をたたかれた。
「神谷君と横谷さんだね? 制作部門は作業量が多いことに加えて荒滝が部長だと余計に大変だろう?僕の方からも彼女には部員に負担をかけさせないように言っておくよ。実行委員の初日にも君たち十九時過ぎまで話し合いしてたらしいよね。文化祭本部を運営する僕たちでさえ十八時半には解散していたっていうのに。あの後荒滝には下級生のことを考えろって言ったんだけど相変わらず変わらないみたいでね……。まあとにかく、大変かもしれないけど良い文化祭にしよう。せっかくの一年に一回のイベントだからね」
そこに立っていたのは神宮さんだった。そばには影里さんもいる。
「は、はい。私たちも頑張りますね」
と、驚いた様子で横谷さんが答える。
話に夢中で神宮さんが来たことに気づかなかった。聞かれたらまずい会話をしていたわけではなかったが、まさか生徒会トップの二人の方から僕に近づいてくるとは思わなかった。
「あ、ありがとうございます」
ありきたりな返事しかできなかった。
「私たちは神谷君たちに期待してるから一番大事な制作部門に配属させてもらったんだよ」
影里さんがそう言ってきた。それに対して神宮さんが
「ああ、僕の方から推薦させてもらったよ。けどあんまり考えすぎなくていいよ。あくまでも二年生には経験を積んでもらうことが僕らの狙いだからね」
と付け加える。狙っての配役であることに関しては生徒会を恨みたくなった。
「じゃあ、よろしくね。これからまた忙しくなるだろうし。何かあったら僕でも影里さんでも報告してもらえるとありがたいよ」
「ありがとうございます。神谷君、行こうか」
横谷さんがまた答える。あたりを見回すと僕ら四人以外はもう教室を出ていた。神宮さんと影里さんに軽くお辞儀をして教室を出る。
あの二人に名前を覚えられていた。いくら生徒会だとしても今まで人前に立つことのなかったしがない一般生徒の名前を覚えているものなのだろうか。もしかしたら生徒会に目をつけられているのかもしれない。会長はロングがまだ生きていることに気づき、僕がロングに加担していることに気づいているのか。という考えが一瞬頭をよぎったが、考えすぎに違いない。ニュース報道でしか情報を得ていないとするならば、ロングが生きていると判断することは出来ないはずだ。
とは言っても、あの人の頭の中がどこまで見通しているのかは分からない。これから僕の動きは生徒会を含めて、誰かしらに監視されていると考えた方が僕のためになるだろう。
神宮さんにばかり注意を注ぎすぎるのもよくない。影里さんにも注意が必要だ。話を聞く限り、影里さんが知るということは神宮さんが知るということに直結しそうな気がする。
昨日の鶴留の発言から予測するに、ロング達はかなり慎重な行動をしているようだ。僕の行動が制限されればあいつらの計画がうまくいかなかったり、失敗に終わることもあり得る。今回の生徒会との会話は僕にとってメリットにもデメリットにもなるものだった。
「……や君?大丈夫?」
はっとした。横谷さんが僕に話しかけていた。
「ごめん、考え事してた」
「話しかけても反応しないからびっくりしたよ」
「なにか用でもあった?」
「ううん。大したことじゃないんだけど、生徒会の二人、私たちに期待してくれてるみたいだね。より一層頑張らなきゃだから大変だね」
大変と言う割には嬉しそうな横谷さんの表情は希望に満ちあふれて見えた。彼女の性格上、責任感を感じることに対して嬉しさを感じるようだ。だから実行委員に立候補したのだろう。僕には考えられないことだった。
制作部門では、今日から具体的な門の制作に入ると荒滝さんから言われた。その日に制作部門全員が受け取った製作図の精巧さには驚いた。具体的な大きさや材料、接合部に至るまでが事細かに書かれている。
「建材は加工のしやすさと安全面を考えて全部木材にしました。門の前面にある彫刻を本当は木を掘って再現しようとしたけどあまりにも複雑すぎるのに加えて、完成形をイメージしたときに無くても当たり障りはないかなと考えたので今回は本来彫刻がある部分にそれっぽい絵を描こうと思います」
良かった。僕の恐れていたことが一つ無くなった。内部についても彫刻は施さずに、ただのアーチにするようだ。そう考えると当初思っていた作業量より遙かに少ない。
「早速作業に入りたいと思うんだけど、材料をまだ買っていません。ごめんなさい。思ったよりも作業が早く進んで当初の予定だと明日、明後日で材料を買って月曜から始めようとしてました。なので、今日は担当場所だけ決めて解散にしようと思います」
担当場所だけ決めて解散とはラッキーだ。作業量が少ないことに超したことはない。
荒滝さんが黒板に具体的な分担を書き始めた。そこから分担の話し合いが始まる。これは長くならないといいのだが。
話し合いにはそれほど時間がかからず、担当は程なくして決まった。僕は力仕事メインになる最終作成という場所を希望した。ここは各場所でつくったパーツを一つにする仕事で、仕事量は一番少なさそうだ。全パーツができるまでの間は木材の研磨をすることになった。横谷さんとは離れてしまったが、他にもメンバーはいる。誰かの影に隠れてサボれるところはサボろう。心の中でそう決めた。
「じゃあ、これで今日の制作部門は終わりにします。各自解散してください。あ、最後に神谷君と横谷さんは前まで来てください」
荒滝さんがそう言うと今日の実行委員は解散になった。しかし最後になぜ僕らが呼ばれたのだろう。見当はつかない。
他の人はバタバタと帰り始めるのを横目に僕は鞄を持ち、横谷さんと一緒に教室前方の教卓まで歩いた。荒滝さんは隣にいる男子生徒と、何やら事務連絡をしている。
何を言われるのかとドキドキしていると、話し終わった荒滝さんがこちらを向いた。
「二人とも呼び出してごめんね! 急なお願いなんだけど、最初に言った通り明日明後日の休みで材料を買いに行こうと思ってたんだけど、二人に手伝ってほしいなって思って……。もし予定が入ってなかったらどう?」
「せっかくの休みまで文化祭の仕事をしたくないです。お断りさせていただきます」と言えたらどんなに楽だっただろうか。当然僕にはそんなことを言う勇気も度胸も無かった。
「私は平気ですよ」
横谷さんがそう答えると荒滝さんの視線は僕に注がれた。
「僕も行けますよ」
そう答えるしかなかった。
「ありがとう! 急でごめんね。明日と明後日どっちがいいかな?二人とも部活はやってたっけ?」
「私はテニス部です」
「僕は部活はやってません」
部活を聞かれたときはいつもなんとなく微妙な雰囲気が流れるが、今回も例の通りだった。
「そっか、横谷さん休日の部活は?」
「土曜は午前中ありますけど日曜なら空いてます」
「そっか。じゃあ、日曜にしようかな。日曜の午前にしよう。詳しい時間はラインするね。メンバーは一応私と副部長の鷺宮と君たちね」
と言いながら荒滝さんは先ほど業務連絡をしていた人を指さした。
鷺宮と言う人は「どうも」と言って軽くお辞儀をした。
この人が副部長なのか。名前どころか顔も知らなかった。
「じゃあとりあえず詳しいことはまた後で! 気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
といって僕らは教室を出て、二人で並んで廊下を歩く。すると横谷さんが
「これも先輩方に期待されてるってことかなぁ」
と目をキラキラさせながら言ってきた。
「そうかもね」
僕は素っ気なく答える。過度に期待されていては困ると思ったが、個人的に名前を覚えられ、買い出しに呼ばれては期待されていると言われても何も言い返せないような気がする。
「ところで横谷さんって部活やってたんだね」
と話題を変えようとした時だった。
「あ、君たち今日はもう終わりなの?早いね」
声をかけてきたのは神宮さんだった。隣には影里さんもいる。
「あ、お疲れ様です。そうなんですよね、作業スピードと準備のスピードが合わなくなっちゃって今日はもう終わりです」
横谷さんが答えてくれた。
「なるほどね。まあ、明日明後日は休みだからゆっくり休むといいよ」
「ありがとうございます。明日は確かに休みですけど、私たち明後日の買い出しに誘われちゃって……」
「そうなのかい? 期待されている証拠だね」
と、初めての実行委員で見た、あのときと同じ笑顔で答える。
「じゃ、僕らはこの辺で失礼するよ。さようなら」
「さようなら」
と言って会長たちと僕たちは反対方向に歩き始めた。
会長たちを見かけてから僕は全く話せなかった。はっきりとした理由は分からない。ただ、この人と会話したら僕がロングと繋がっていることがばれてしまう可能性があると感じてしまったのだ。
会長たちと別れてから横谷さんと軽い雑談をしながら正門前で別れた。
横谷さんが見えなくなったのと周りに人がいないことを確認して、ロングから渡された携帯を取り出す。携帯に通知は入ってなかった。今日は招集がないらしい。
久々に放課後に自由な時間がとれたような感じがする。光哉や友樹を誘ってゲーセンにでも行っても良かったが、彼らにも彼らの時間があるだろう。今日は家に帰ることにした。




