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雨ノ若  作者: 八戸黎樹
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二十三

 二十三


 あの日と違って気持ちの良いくらい晴れた日に、僕は実家の近くの霊園に来ていた。普段は福岡に住んで仕事をしており、忙しくてなかなかこの辺には帰って来れていない。しかし今日はあいつの五年目の命日ということもあり、ここまで足を運んだ。右手には近くのスーパーで買った花、左手にはバケツと柄杓(ひしゃく)を持って霊園内を歩く。

 神谷と書いてある墓石の前で止まる。節目の年ということもあり花はすでに添えられていた。僕は持ってきた花を墓石に立てかけるようにして供える。バケツの水を柄杓ですくって墓石にかけて綺麗にする。そうこうしているうちに一人の男が僕の方に近づいてきている。砂利を踏む音がだんだんと近づく。

「よう、久しぶりだな」

 振り向くとあのときと変わらない坊主頭が花と一升瓶の酒を持っていた。

「友樹、お前にしてはちゃんと時間通りに来ているじゃないか」

「まあ、今日は俺らにとって重要な日だからな。社会人になったからにはある程度の責任も持たないとやっていけないよ」

 友樹にしては真面目な回答だった。五年でここまで変わってしまうのか。

「光哉は普段福岡にいるんだっけ」

 友樹は僕に聞きながら持ってきた花と酒を供える。

「ああ、こっちに帰ってくるのも去年以来になる。この辺はあんまり変わってないみたいだな」

「変わっちまったのは俺らだけかもな」

 あの事件から五年が経った。僕を殺そうとして近づいてきた神谷は僕を殺さずに屋上から飛び降りた。頭から落ちていったこともあり、即死だったそうだ。その後神谷が関わっていた事件の全貌が明らかになっていった。

 まずは鶴留と菅沼と言われる二人だ。二人は極秘潜入捜査官としてこの事件に関わっていた。これも杉田元警視総監の指示のようだ。実際二人は神谷の最期にも立ち会っている。

杉田元警視総監は前から手段を選ばない人と評されていたがまさか現場に人を送り込むとは思わなかった。事件後、その評価は市民、警視庁の中でも分かれて最終的には警視総監を退任となった。その後の杉田元警視総監は

「久若会の東京の支部が潰せただけでもかなり大きい。鶴留君と菅沼君という若手の二人には無理をさせたがこちらの無理を聞いてもらって本当に感謝しかない。二人はよくやってくれた。これがこれからの日本の安全に繋がることは間違いない」

 と二人の警察官に感謝を示すと共に自分の判断に後悔はしていないようだ。他にも、杉田警視総監が着任した後の関東圏の事件は全て警察と鶴留、菅沼が意図的に計画したもので、被害者はでていない。実際に事件に関わっていたのは警察関係者だったそうだ。さらに報道機関とも連携し、事件が本当に起こったように見せていたのだ。彼の評価が分かれたのはそのこともあってだった。

 その後のニュースで鶴留は「私自身、警察官であった親を事件で亡くしました。父親の出来なかったことを少しでも僕の手で達成するため、これからも精進します」といったようなインタビューを聞いた。鶴留は少しでも父親死亡の事件の傷を癒やすため、結婚して名字を変えたらしい。前の名字は武藤だったそうだ。

 他にも驚いたことがある。それはロングが生きていて、神谷が協力していたというのだ。つまり神谷は久若会の一員であったそうだ。神谷の死後、何者かがロングの居場所を警察に伝えて捜査に向かったがロングはすでに何者かによって殺されていたという。家宅捜索をすると弥生ヶ前学園での事件を発端とした全国各地での犯罪計画があらわになった。それにより全国の久若会の一部の支部のメンバーを逮捕することに成功した。

 誰がロングを殺したか、なぜ久若会の内部事情を警察に知られるようなまねをしたのかそれは五年たった今でもまだ分かっていない。

「はい、線香」

 友樹が渡してきた。「ありがとう」それを受け取って墓前に上げる。

 二人で手を合わせる。霊園に平和なひとときが流れる。誰も僕たち三人を邪魔する人はいない。きっと神谷も目の前に立っているに違いない。この時間が当時もずっと続くはずだったのに。と後悔してももう遅い。

 それから僕と友樹は昼ご飯を食べることにした。駅の近くのラーメン屋さんに二人で入る。ラーメンを待つ間二人で仕事の話等をしているとラーメン屋のテレビが緊急ニュースを報じた。

「ここで緊急ニュースです。久若会のトップである人物らが日本を違法に脱出し、海外逃亡をしているとのニュースが入ってきました。逃亡したのは久若会のトップ二とみられる神宮零と影里優華の二名と運転手の計三名の模様です」


 潮風を全身に感じながら僕たちは二人で甲板に立っていた。自前の舟を手下に運転させる。専用の運転手を雇っておいたのは万が一の事があったときに逃げるためだ。こうすれば自分たちが舟の運転を学ばないで済む。ニュースを見る限り僕らが国内にいないことはばれているらしい。

「五年前の今日、神谷が死んだけど生かしておかなくて良かったの? かなりの戦力になったはずだけど」

「殺すにはもったいないけどちょっとヘイトを買いすぎたかな。能力故に僕らの身が危なくなる可能性もあった。熊井に面倒見させようと色々指示を出し続けたけどあいつには少し荷が重い気もしたしね。その結果、警察にも内部まで入り込まれたし。無能は早めに処理しておかないとね」

「そっか。神宮君の判断ならきっと合ってるに違いないね。ところでこの舟はどこに向かってるの?」

「ドバイさ。ドバイならしばらくの間逮捕はされない。安心して暮らせるよ」

 確かに神谷は殺すにはもったいない存在だった。しかし有能な部下は僕の管理下に置ける範囲で充分だ。知らないところで極秘に動かれても困る。

 舟が波を乗り越える音が静かに船上に響く。これからどうしようか。もう日本では行動することが出来ない。久若会もほぼ壊滅状態。今まで好きなようにしていたのでうまくいかないとなると次の行動への判断が遅くなる。とりあえずは何か案が浮かぶまでは平穏に暮らすとしよう。まだまだ年齢的には若い。何か行動を起こすのに遅すぎるということはない。


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