楽しい思い出の花
楽しい思い出だけを覚えていられたらどんなにいいだろう?
この先抱えて生きていくのなら楽しい思い出だけがいい。
苦しいことも悲しいこともいらない。
思い出したくない。
楽しく幸せな記憶だけでいい。
それともいつかは苦しかったことも悲しかったこともすべていい思い出って言う日が来るのだろうか?
今はとてもそうは思えないのだけど。
「楽しい思い出ばかりだったらいいのに」
口に出して言えば彼が苦笑する。
「まあほらいろいろな経験をしたから今一緒にいられる幸せがあるんだよ」
「それはそうかもしれないけど」
わかるけど、受け入れるのも抵抗がある。
ぐりぐりと彼の肩に額を押しつける。
宥めるようにぽんぽんと頭を撫でられる。
余計にぐりぐりとする。
「さすがに痛いよ」
「うぅぅ」
ぐりぐりするのはやめたけどそのまま彼の肩に額をつけたままだ。
「確かに僕たちにはいろいろあったけど、あの日々があったから今の幸せを大切にしようって思えるよ」
「先に一人で大人にならないで」
「いや僕たちもう十分大人でしょ」
「そうだけど……」
うまく言葉にできない。
また宥めるようにぽんぽんと撫でられる。
「置いていかないで……」
「置いていかないよ。これからもずっと一緒にいるんでしょ」
「うん」
「楽しい時も、つらくてどうしようもない時もあるかもしれない。でも二人で乗り越えていこうよ」
「……うん」
「僕たちもそうやって日々を重ねていけばいいでしょ。あの日々草のように」
窓辺には私たちの日々を見てきた日々草の鉢がある。種を取ってずっと育ててきた。
日々草の名前の由来は、同じ花がずっと咲きつづけるように見えるほどつぎからつぎへと花開くから、日々咲きかわるのでついたのだとか。
そんなふうな日常を一緒に過ごしていこうというのだろう。
「……うん」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
何か照れ臭くなって再びぐりぐりとする。
「だから痛いって」
文句を言っているけど照れ隠しだとわかっているのか声が笑っている。
私はしばらくの間、彼の肩に顔を伏せていた。
読んでいただき、ありがとうございました。




