荘厳の花
彼とデートで訪れたのは荘厳という言葉が相応しい屋敷だった。
「すごいね」
「そうだね」
ここはとあるお金持ちが生前に住んでいた場所で、その庭が素晴らしいと、庭と屋敷の一部を一般公開している場所だった。
入館料を払って中に入る。
まずは公開されている屋敷内を見て回る。
どこもかしこも屋敷の雰囲気に合った調度品や内装で彩られている。
格式高すぎて私たちじゃ緊張しっぱなしになっちゃうね、と二人で笑い合う。
うっかり触れて傷でもつけるのが怖いので、さっさと庭へと移動する。
今日のメインは庭のほうなのだ。
私たちみたいな人は多いようで結構皆さっさと庭へと移動していた。
庭が自慢の屋敷だっただけあって庭には色々な花が咲き誇っている。
露悪的な華やかさではなく、調和が取れた美しさだ。
皆思い思いに眺めたり写真を撮ったりしている。
私たちもゆっくりと庭を見て回る。
ある程度見たところで、こっちというように彼に手を引かれて着いた先には石楠花の花が咲いていた。
私の好きな花だ。
彼は私が石楠花の花が好きなことを知っていたからどの辺りに咲いているのか事前に調べてくれていたのだろう。
その気持ちが嬉しい。
にこにこと微笑って石楠花を見ていると彼が何気なく言った。
「申し込めばこの庭で結婚式もできるようだよ」
不意打ちに動揺する。
深い意味があるのだろうか?
それとも単純に情報として伝えただけ?
「そうなんだ」
表面上だけは何事もなく返事をする。
でも心の中は忙しなく疑問が飛び交っている。
彼がそんなつもりはないのに、勘違いしたのなら恥ずかしい。
でも、意識していなかったらそんなことを言うはずはないんじゃない?
ねぇ、どっち?
本当にどっちなの?
彼が真剣な顔で私を見る。
「今年はもう間に合わないけど、来年なら石楠花の花が咲く頃に予約できると思う。……どうかな?」
「それって……?」
「うん、僕と結婚してほしい」
すとんと心の中が静かになる。
その中で浮上してきた気持ちは一つだけだ。
「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「何で敬語?」
「えっと、何となく……?」
堪えきれない様子で彼が微笑い、私を抱き上げてくるくると回った。
「ありがとう、嬉しい」
「私も嬉しい」
そっと下ろしてもらったところでここには他の人の目もあったことを思い出した。
私たちはそそくさと退散することにした。
でも、しっかりと手を繋いだ私たちは幸せな笑顔だった。
読んでいただき、ありがとうございました。




