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最終章 第13話 王太子・ワルケ

レフォ王国の王位継承順位一位、王太子ワルケ。


周囲に対して常に不遜な態度をとり続けている彼も、レザ・ゴヴァ・カウィズと同じように転生者である。


彼の前世の名は非志海間助。


間助の両親は地方の大学教授であり、豊かな家庭。しかしそんな彼の両親は教育熱心であったがゆえ、常に間助に勉強を強いるような育て方をしていた。


同世代の他の子供達が親に甘えたり、もしくは遊んでいる間にも。まだ幼稚園にいた時から間助は机に向かうことを強要される。


そんな彼は親の期待に応え、いわゆる『お受験』を突破し、高校まで一貫型の私立小学校を通うようになったのだが・・・。


非志海間助の人生は狂っていく。


同級生の親達は小学校に入学してすぐから、将来のビジョンについて考えている。

子供達はそんな教育方針に疑問を抱かず、親の言う通りに塾に行き家庭教師の指導を受け、成績が学校のヒエラルキーに反映する。

普通の子供なら好きになるはずのアニメやゲームの話題もその学校では無駄なものであり、むしろそのような話をすれば迫害の対象にされる。


間助も途中までは素直に、そして必死に食らいついていたが、中等部に進む頃にはもう心が折れてしまっていた。


この学校には間助以外にもカリキュラムや親からのプレッシャーに敗れた者が存在する。彼らは幼い頃から刻まれたストレスの発散に非行を選択し、間助もその一員になったのだ。


そして彼は道を踏み外す。それは興味本位で先輩から渡されたタバコを吸ってみたことから始まった。


これを皮切りに、音を立てるように非志海間助の人生が崩れていく。


気づけば彼は非行に非行を重ね、幾度もの停学処分を経験。遂には高等部に進んだ直後に同級生から金銭を巻き上げたということで退学となってしまう。


両親は間助のことを散々怒鳴ったが、じきに彼に謝罪をするようになった。


『こんな子になったのは私達が悪かった』

『お願いだから心を入れ替えて人生をやり直して欲しい』


しかしそれはあまりにも遅かった。彼は両親に暴力を振るうと、そのまま家を去ったのだ。


それから間助は住まいを転々とする生活が始まったものの意外にも職には困らなかった。


その理由は、嘘をつくことを厭わない性格に育ったから。


両親による厳しい勉強の強要から逃れるには体調不良を訴えるしかない。子供の頃の間助にとって嘘をついて仮病を使うことは、自分を守るための大切な(すべ)だったのだ。


だから彼は。


生きるためにずっと嘘を重ねた。





実家を飛び出して数年後。非志海間助はある求人情報を見つける。そしてそこに応募した際にも、もちろん彼は経歴などを大いに詐称した。


しかし当時その会社は、学校の卒業証明書などの確認をしないぐらい杜撰な体制。おまけに間助が詐称した出身大学というのは自身の父親が教鞭をとっていたところであったため、学校のことを聞かれてもある程度は答えられる知識を持っており簡単に騙すことができたのだ。


こうして間助は嘘を塗り固めて不動産会社に入社し、そこで真留村富士夫と出会う。


当初、間助は富士夫のことを嫌っていた。自身と違って『そこそこ普通の』人生を歩んできた富士夫というのは彼にとってどうしても合わない存在だったのだ。


それに入社してしばらくの富士夫は営業が下手なダメ社員。嘘をつき慣れており、不動産の売買に長けてすぐに優秀な営業成績を叩き出していた間助は、そんな富士夫に苛立ちを覚えていた。


しかしそれでも彼らは打ち解ける。


懸命に仕事に食らいつき、真摯に顧客に向き合い、分からないことがあれば素直に間助に質問をする富士夫。金額の大きなある案件を共に担当するようになってから2人は急速に距離を近づけ、気づけば仕事終わりにいつも酒を飲み交わすような仲になった。


だが間助は徐々に富士夫に負い目を感じるようになる。


ここまで生きていくために嘘をつき続けた間助。

入社の際に提出した経歴も嘘で固めた間助。

顧客に対しても嘘を重ねて契約をしていた間助。


生まれて初めての友人とも言えるような関係になった富士夫に、自身に対して赤裸々に生い立ちから話す富士夫に、間助は本当のことを何も言えなかった。


おまけに彼は社内の人間から借金を重ねるようになっていく。


学生時代に非行をしていた時から間助はギャンブルにハマっており、それが一番の趣味だとも言えるほど。ところが収入を得るようになってからそれはどんどんと過激になっていき、嘘と同様に借金も重ねるようになっていったのだ。


いわゆる闇金のような場所から、社内の人間から、昔の職場の知り合いから金を借りる。もちろんすぐに首が回らないようになった間助だが富士夫に金をせびることだけはできない。


結局彼は借金の件を富士夫に明かせないまま逃げるように会社を去る。


その不動産会社に勤める人々が、彼の本当の過去を知らないままで。





「はあ、はあ・・・。どうする、これだけの借金なんてもう返せねえよ・・・!」


5月にも関わらず、とても暑かった日の深夜。繁華街の裏路地では40歳を超えた非志海間助が、息を切らしながら地べたに座っている。


彼は自身の財布の中を見るものの・・・もちろんそこにまとまった金などない。


「くそっ!このままだとまたあいつらに見つかっちまう・・・。どうして地の果てまで追いかけてくんだよ・・・」


恨み言を呟いていた間助。しかしそんな彼の近くには、もう人影が近づいていた。


「すいませーん。そこにいるオッサンって非志海間助さんっすよねー?ちょっとお金の件で話したいことがあるんすけどー?」


「マジかよ!?」


見知らぬ男性から声をかけられた間助は叫び声を上げ、慌てて立ち上がって走り出し、後ろを振り返ることなく前へ前へと進む。


だがそれが悪かった。


「・・・は?」


一心不乱に足を動かし続けてきた間助は、気づけばもうそこに電車が迫っていた踏切の中に侵入してしまっていたのだ。


そして彼は命を落とした。


その傍らに、放浪生活の唯一の楽しみだった、異世界転生もののライトノベルの単行本を遺して。





そして非志海間助は転生した。レフォ王国王家の血を継ぐ者、ワルケとして。


異世界に転生したことに彼は驚きの感情が入り混じる産声を上げたが、しばらくして状況を察し、新た人生を歩み始めた。


転生したワルケは前世の最期を常に思い出し、決意を新たにし異世界で暮らしていた。ところがこの世界には魔王がおり、彼が引きいる魔族軍と人間が戦争を繰り広げていることが再びその人生を狂わす。


それらは人間にとって宿敵であり倒すべき存在。


レフォ王国は魔族に対して比較的穏健な立場であり、和平会談でも女王ガズランテは魔王や勇者を擁護するような姿勢を示すほど。


「異世界の魔王は殺さねえといけないだろ・・・。俺が転生した意味をようやく理解したぜ」


しかしワルケはそんな母と、魔王を討伐することなく和平に持ち込んだレザに大きな不満を抱いていた。おまけにある時、森で出会った老婆から浴びせられた言葉で彼は決断する。


『貴方は異世界に転生しましたけど、そんなこと気にせずこちら大人しく生きてください』

ふざけんな。せっかく転生できたんだ。

『勇者レザの尽力で平和になったので余計なことはしなくて結構です。邪魔なんで』

舐めんな。俺は大きなことを成し遂げてやるんだ。


「俺が魔王を殺して『真の勇者』になれば世界は本当の平和になるんだ。異世界転生ってのはそれが相場のはずだろうがよ・・・!」

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